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お前はもう死んでいる:不安定な試薬たち|第4回「有機合成実験テクニック」(リケラボコラボレーション)

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理系の理想の働き方を考える研究所「リケラボ」とコラボレーションとして「有機合成実験テクニック」の特集を10回に渡り配信する予定です。

さて、第4回目は、「お前はもう死んでいる:不安定な試薬たち」と題して、意外と盲点となり、研究の邪魔をする市販試薬の失活・劣化・変性・分解についてお話しましょう。

合成反応を行う際、皆さんは何らかの試薬を試薬会社から購入しますよね。もちろん合成化学の研究室には、規模の大小はあるものの多くの試薬が常備されていると思います。

歴史のある研究室では、これいったいいつ購入したの?まだ生まれてないんだけど? ということも多々あることでしょう。

一般的に基礎化学薬品は結構丈夫です。半世紀前のものでも全く問題なく使える場合があります。

一方で、一端試薬瓶の封を開けてしまうと、不安定な試薬も多々あります。ときには、新品を購入したはずなのにはじめからその試薬は壊れていたなんてことも。

実験を行う際には、試薬の純度や不安定性も考慮して行わないと、せっかく貴重な化合物を使ったのに、なんにも反応しなかったのみならず、再度精製しなくなくてはならなくなったなんてことも。貴重な時間も無駄にしてしまいます。

食品のように消費期限がないことが原因ですね(基本的には食品も、「開封後ははやめにお召し上がりください」ですが)。

もちろん使い方により、試薬の劣化速度もあがっていくので、一概にいえません。

そんな、だめになった試薬は、一般的に研究室では「死んだ」(お亡くなりになった)と言います。これは全世界で共通用語だと認識しています。

さて、試薬はどうして死ぬのでしょうか。そしてどんな試薬がよく死にやすいのでしょうか。今回は、お前は死んでいるとなってしまう、原因と代表的試薬を紹介しましょう。

水・空気・熱・光が原因

まずは一般的なことから。

試薬の劣化や変性の原因との一番はやはり水ですね。有機金属試薬、例えば、グリニャール試薬や強塩基であるKHMDSなどは常識だと思いますが、当量の水ときれいに反応して、プロトン化されます。

グリニャール試薬を購入するのか?と年配の方から聞こえてきそうですが、タイムイズマネー、教育的には必要で、調製の経験はあったほうがいいですが、あるものは使ったほうがよいと思っています。

何度も使用しているとどうしても空気中の水分や、シリンジに付着している水分が入ってしまって死んでいきます。新品ならば大丈夫と思っている貴方。意外にも新品ですでに劣化していたなんてことは片手では数え切れません。滴定などで濃度を決めることができる試薬は、反応の前に前もって決めた方が無難です。なお保存には、過去の記事にあるフードシーラーがおすすめです(不安定試薬の保管に!フードシーラーを活用してみよう)。

次に、空気。空気中の水も考えられますが、空気(酸素)による酸化です。特に気をつけなければならないのが、各種アルデヒド。

アルデヒドは空気中で容易に酸化されてカルボン酸になります。しばらく使っていないものならば要注意。

先日も、固体の「アルデヒド」を投入したら、反応がいかず、調べたら液体だったという事例がありました。カルボン酸になってたんですね。溶媒や他の試薬、そして時間を無駄にしてしまった悪例です。TLCが見える化合物ならば最低限TLC、さらにはNMRで純度をみておくことが重要です。

よく、配位子などに使われるホスフィンも酸化されやすい化合物です。特に電子供与基であるアルキル基がたくさんついていると即座に酸化されます。固体状態より溶液のほうが酸化されやすいので要注意。ホスフィンをつかっていたつもりが、ホスフィンオキシドであった。なんて事例も多く聞きます。

あとは、熱・光の順ですか。熱的に不安定なものは冷蔵庫に保管となりますが、基本的には熱だけに弱い化合物というの少なく、そんな化合物は一般的になんでも不安定です。しっかり保存しましょう。光にも不安定な化合物もあります。要するに光をよく吸収する化合物ですね。構造的には共役をたくさんもっている化合物が不安定です。例えば、ヘテロ芳香環であるインドール系の試薬は光に不安定で、すぐに着色してしまいます。遮光した状態で保存するのが無難です。

続いては、よく「お前は、もう死んでいる」といわれる化合物を個別にみていきましょう。

フェニルアセトアルデヒド

フェニルアセトアルデヒドは反応性が高く、すぐに重合や自己縮合してしまいます。購入した試薬も、安定剤が含有されていないと、すでにほぼ死んでいた、蒸留してもしばらくたつと半分以上だめになっていたなんて事例が多いです。

重合としては、主に2,4,6-トリベンジル-1,3,5-トリオキサンが生成します。三量化ですね。反応性の高い(エノール化しやすい)アルデヒトは、よくこの三量体になってしまうものがあります。ホルムアルデヒドなんかもその一例ですね。ほんのちょっとした酸性条件や熱、または光照射でも進んでしまうので厄介極まりません。

2,4,6-トリベンジル-1,3,5-トリオキサン

さらに、塩基性条件下ではアルドール縮合ですね。2量化です。

というわけで、ちょっと前に使ったばかり、購入したばかりなのにボッコボコになっている試薬の代表例として君臨しています。もちろん、フェニルだけでなく、同じ位置に(ヘテロ)芳香環があるアルデヒドも要注意です。

スチレン系/アクロレイン/ビニルケトン系

これも様々な原因で変成する物質群です。スチレンやメチルビニルケトンは高分子の原料で寸から御存知の通り重合。特にベンゼン環に電子供与基がついているスチレン誘導体は大変です。安定剤を入れておかないと、次の日には”ポリマー”になってたり。逆に安定剤が入っていると、その影響で反応が進行しなかったり。

アクロレインは、酸化や自己縮合がメインですね。純度が高いアクロレインは透明です。少しでも濁っていると、重合して樹枝状物質が生成しており、それで濁っているわけです。蒸留しましょうね。

ナトリウムメトキシド

意外と頑丈なふりして、安定性が低いのがナトリウムメトキシドなどの金属アルコキシド。

水と反応して、メタノールと水酸化ナトリウムになってしまうのはご存知のとおりです。試薬として売っているものも一部水酸化ナトリウムになっている場合があります。

さらに、空気中の二酸化炭素を吸収するので、炭酸ナトリウムNa2CO3になっている場合があります。

問題は、みためじゃわかんないんですよね。白い粉なんで。なんか反応しないと思ったら、ナトリウムメトキシドが死んでいたということがあります。他の金属アルコキシドも吸湿性や分解があるため、昇華精製してつかわないと反応の再現が取れない場合が多々あります。

ナトリウムメトキシドに関しては、市販品より自分でつくることをおすすめします。金属ナトリウムにメタノールを加えるだけなので。メタノールがいやならば溶媒を留去して乾燥させれば、純粋なナトリウムメトキシドの白い粉が完成です。

チオール系

 匂いの好き嫌いが分かれる(嫌いなひとの方が多いですかね)チオールです。酸化されて、試薬瓶内でジスルフィドになっていることがよくあります。還元剤で還元してあげればまたもとに戻りますが、面倒ですよね。意外と還元されなかったり、還元したつもりでもまた空気中の酸素で酸化されてしまったり。これもしっかり確認してから使いましょう。

パラジウム/炭素

水素添加につかわれるパラジウ/炭素。たまに死にます。上記のくさいやつが原因です。

同じ部屋でチオールを使っていたり、マニフォールドにチオールが残っていたりすると、如実に水素添加がいかなくなったりします。パラジウム炭素でも死んでしまうので、各種パラジウム触媒も要注意ですね。購入した試薬は小分けして、もともとの瓶は保存しておくことをおすすめします。

まとめ

試薬が100%問題ないと考えてはいけません。はじめから疑ってかかりましょう。私の研究室では、いままで研究室で使ったことのない試薬を試すときは、既知反応を一緒に行うことをおすすめしています。ちなみに下の化合物たち(試薬)は最近、私の研究室で、死んでいる宣告をされたものです。

天寿を全うすることなく、途中で亡くなった試薬達

 

なお、試薬がすでにお亡くなりになっているときは、お前はもう死んでいる!と割り切って、棚に戻さずに処理してあげましょうね。第2・第3の被害者をださないためにも。

他のコラボレーション記事(全10回)

第一回:有機合成に活躍する器具5選
第二回:実験でよくある失敗集30選
第三回:使っては・合成してはイケナイ化合物
第四回:お前はもう死んでいる:不安定な試薬たち (本記事)
第五回:もう別れよう:化合物を分離・精製する
第六回:第一手はこれだ!:古典的反応から最新反応まで
第七回:第一手はこれだ!:古典的反応から最新反応まで2
第八回:第一手はこれだ!:古典的反応から最新反応まで3
第九回:研究を加速する最新機器紹介
第十回:ものづくりのコツ

 

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本記事はリケラボとのコラボレーション記事です。リケラボは理系の知識や技術をもって働くみなさんのキャリアを応援するWEBメディアです。
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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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