[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

3級C-H結合選択的な触媒的不斉カルベン挿入反応

[スポンサーリンク]

2017年、エモリー大学・Huw M. L. Daviesらは独自に設計した不斉二核ロジウム触媒を用い、3級C-H結合選択的かつ立体選択的に進行するカルベン挿入反応の開発に成功した。

”Site-selective and stereoselective functionalization of non-activated tertiary C-H bonds”
Liao, K.; Pickel, T. C.; Boyarskikh, V.; Becsa, J.; Musav, D. G.; Davies, H. M. L.* Nature 2017, 551, 609–613. doi:10.1038/nature24641

問題設定

不活性なC-H結合の直接的変換は近年盛んに研究が行われており、著しい進歩を遂げてきた。しかし位置選択性の制御は難しく、主には(1)配向基を備える基質 (2) 分子内に高反応性のC-H結合がある基質 (3) 特定のC-H結合だけが優先的に分子内反応するような基質 を対象としている結果、基質依存の手法になっている。

技術や手法の肝

Daviesらは2016年、最も立体的に空いた2級メチレンC-H結合の位置及び立体選択的修飾反応を報告した[1]が、続報としての本論文では3級C-H結合の立体選択的修飾反応を達成した(冒頭図)。これら二つの報告では、触媒依存で反応点を変えることができる。さらにアリル位C-Hやベンジル位C-Hを持つ化合物においても3級C-Hへの位置選択的・立体選択的修飾が行えるため、Late-Stage官能基化への応用が期待できる。

主張の有効性の検証

①触媒のスクリーニングと反応条件の最適化

2-メチルペンタンに対するα-アリール-ジアゾエステルのC-H挿入反応の選択性を様々なロジウム触媒を用いて評価した。下記の通り触媒種によって大きな差が出るが、テトラクロロフタルイミド由来の触媒使用により顕著に改善され、Rh2[S-TCPTAD]4触媒を用いたときに高選択的に3級炭素で反応が進行しそのエナンチオ選択性も良好だった(79% ee)。さらなる検討の結果、反応剤をトリフルオロエチルエステルに変え、低温にて反応を行うことで96:4の位置選択性・86%eeまで向上した。


②基質一般性の評価

官能基の持たない鎖状アルカンにおいては3級C-Hにおいて高収率・高エナンチオ選択性(77%-92%)にて反応が進行した。しかし、混みあった3級C-Hでは反応が進行しづらく、空いた2級C-Hでの反応が優先された(2列目左端の基質)。

ブロモ基やエステルを持つ基質においても高収率で反応が進行し、ジアゾエステル側の芳香環部位も、ヘテロサイクルやトリフルオロメチル、メトキシを持つものに変更可能であった。

またcholesteryl pelargonateに対して、既報触媒を用いて位置選択性の違いを確認したところ、期待通りRh2[R-3,5-di(ptBuC6H4)TPCP]4では立体的に空いた2級C-H結合に、Rh2[R-TCPTAD]4では最も空いた3級C-H結合にて反応が進行した。

③選択性発現の考察

テトラクロロフタルイミド型配位子はそのCl-O結合間相互作用により、全てのフタルイミドが片側に向いた形で固定化されていることがCharetteらによって報告されており[2]、DaviesらもX線結晶構造解析でその姿を確認した。

またフタルイミド面では16.2Å幅のスペースがあるのに対し、アダマンタンが向いている面では7.8Å幅のスペースしかなく、ジアゾエステル(9.6Å)はフタルイミド面でのみメタルカルベン錯体を形成することが示唆された。

冒頭論文より引用

さらに計算の結果、カルベンが結合した後は一つのCl-O結合が崩れ、フタルイミド環と基質芳香環とがπ面スタックを取ることが明らかになった。π面スタックの状態では空いているRe面から反応が優先する。

 

冒頭論文より引用

このように、Rh2[R-TCPTAD]4ではカルベン周りが比較的すいているため、2級炭素ではなく電子的に有利な3級炭素にて反応が進行する。

議論すべき点

  • アリル位・ベンジル位など以外の活性化部位以外に、配向基を使わず高収率にて分子間C-C結合形成反応が進行する報告として画期的なものである。しかしながら論文中では基質検討表にアリル位やベンジル位を持つ化合物は並べられておらず、そこは基質依存になっているように見える。
  • 前回報告されたRh2[R-3,5-di(p-tBuC6H4)TPCP]4を用いる2級C-H選択的な反応では、3級C-Hとの完全な区別はまだ出来ておらず、2級C-Hだけを選択的に修飾することは未だに課題と考えられる。

参考文献

  1. Liao, K.; Negretti, S.; Musaev, D. G.; Bacsa, J.; Davies, H. M. L. Nature 2016, 533, 230. doi:10.1038/nature17651
  2. (a) Lindsay, V. N. G.; Lin, W.; Charette, A. B. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 16383. DOI: 10.1021/ja9044955 (b) Goto, T.; Takeda, K.; Shimada, N.; Nambu, H.; Anada, M.; Shiro, M.; Ando, K.; Hashimoto, S. Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 6803. doi:10.1002/anie.201101905

外部リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 化学者のためのエレクトロニクス講座~無電解貴金属めっきの各論編~…
  2. 世界初の気体可塑性エラストマー!!
  3. 有機合成化学協会誌2020年10月号:ハロゲンダンス・Cpルテニ…
  4. シリルエノールエーテルのβ位を選択的に官能基化する
  5. 炭素をつなげる王道反応:アルドール反応 (1)
  6. マダンガミンの網羅的全合成
  7. 有機無機ハイブリッドペロブスカイトはなぜ優れているのか?
  8. ルイス酸性を持つアニオン!?遷移金属触媒の新たなカウンターアニオ…

注目情報

ピックアップ記事

  1. Carl Boschの人生 その11
  2. マテリアルズ・インフォマティクスにおける初期データ戦略 -新規テーマでの対応方法をご紹介-
  3. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり⑭: 液タブ XP-PEN Artist 13.3 Proの巻
  4. ヘメツバーガー インドール合成 Hemetsberger Indole Synthesis
  5. 有機スペクトル解析ワークブック
  6. 熱化学電池の蘊奥を開く-熱を電気に変える電解液の予測設計に道-
  7. 抗体を液滴に濃縮し細胞内へ高速輸送:液-液相分離を活用した抗体の新規細胞内輸送法の開発
  8. 使っては・合成してはイケナイ化合物 |第3回「有機合成実験テクニック」(リケラボコラボレーション)
  9. 支局長からの手紙:科学と感受性 /京都
  10. ペッカ・ピューッコ Pekka Pyykkö

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年11月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

注目情報

最新記事

粉末 X 線回折の基礎知識【実践·データ解釈編】

粉末 X 線回折 (powder x-ray diffraction; PXRD) は、固体粉末の試…

異方的成長による量子ニードルの合成を実現

第693回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科(佃研究室)の髙野慎二郎 助教にお願…

miHub®で叶える、研究開発現場でのデータ活用と人材育成のヒント

参加申し込みする開催概要多くの化学・素材メーカー様でMI導入が進む一…

医薬品容器・包装材市場について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、医…

X 線回折の基礎知識【原理 · 基礎知識編】

X 線回折 (X-ray diffraction) は、原子の配列に関する情報を得るために使われる分…

有機合成化学協会誌2026年1月号:エナミンの極性転換・2-メチル-6-ニトロ安息香酸無水物(MNBA)・細胞内有機化学反応・データ駆動型マルチパラメータスクリーニング・位置選択的重水素化法

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2026年1月号がオンラインで公開されています。…

偶然と観察と探求の成果:中毒解毒剤から窒素酸化物を窒素分子へ変換する分子へ!

第692回のスポットライトリサーチは、同志社大学大学院理工学研究科(小寺・北岸研究室)博士後期課程3…

嬉野温泉で論文執筆缶詰め旅行をしてみた【化学者が行く温泉巡りの旅】

論文を書かなきゃ!でもせっかくの休暇なのでお出かけしたい! そうだ!人里離れた温泉地で缶詰めして一気…

光の強さで分子集合を巧みに制御!様々な形を持つ非平衡超分子集合体の作り分けを実現

第691回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院 融合理工学府 分子集合体化学研究室(矢貝研究室…

化学系研究職の転職は難しいのか?求人動向と転職を成功させる考え方

化学系研究職の転職の難点は「専門性のニッチさ」と考えられることが多いですが、企業が求めるのは研究プロ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP