[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

位置選択的C-H酸化による1,3-ジオールの合成

[スポンサーリンク]

“1,3-Diol Synthesis via Controlled, Radical-Mediated C-H Functionalization”
Chen, K,; Richter, J. M.; Baran, P. S. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 7247. DOI: 10.1021/ja802491q

スクリプス研究所・Phil Baranらによる報告です。

C-H結合を直接官能基化する反応は、未来指向型の変換プロセスとして現在大きな注目を集めています。この「つぶやき」でも、過去いくつかそういった反応を取り上げてきました(関連リンク参照)。

この種の反応で常に考えなければならないのは、多数存在するC-H結合をどうやって化学選択的に変換するか?ということです。その克服に、研究者それぞれのアイデアや工夫が見られます。

本報告における実際の反応機構は、以下のようになるとされています。

baran_CHoxi_2.gif

 スキームを見る限り操作が煩雑で、実際やろうとするとちょっと面倒そうだなぁ、というのが偽らざる本音です。が、特筆すべきアイデアや特徴はいくつも見られます。以下に箇条書きにしておきましょう。

・アルコールというありふれた官能基を足がかりにすることが出来る
・1,3-ジオールのみが通常得られる (White触媒ジメチルジオキシランとは異なる位置選択性)
・光照射ラジカル条件で進む
・N-ブロモカルバメート中間体からの反応性を高めるべくトリフルオロエチルカルバメートを使う
・環化を促進するべく、炭酸銀でアルキルハライドを活性化
・反応点はベンジル位・三級C-Hにほぼ限定される
・ジアステレオ選択性には改善の余地がある
・官能基受容性はそれほど高くない

さらに彼らは合成化学者らしく、いくつかの化合物合成に本プロセスを応用してもいます。

 

baran_CHoxi_3.gif

 この例でもそうですが、こういった反応の進展によって、今まで不可能であった逆合成ルートでの化合物合成が可能となる、というのが視点として最重要なのではないでしょうか。収率や試薬の量・価格などというものは、将来的に改善できる可能性があるなら、現時点では至極些末なこと(学術研究ならばなおさら)にも思えます。が、その辺りは人によって意見が大きく違いそうなので、深入りしないことにしましょう。

関連書籍

[amazonjs asin=”3527310746″ locale=”JP” title=”Handbook of C-H Transformations (2 volumes set)”][amazonjs asin=”0470010223″ locale=”JP” title=”Handbook of Reagents for Organic Synthesis, Reagents for Direct Functionalization of C-H Bonds (Hdbk of Reagents for Organic Synthesis)”]

関連リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. パーソナル有機合成装置 EasyMax 402 をデモしてみた
  2. ポンコツ博士の海外奮闘録XXIII ~博士の危険地帯サバイバル …
  3. CO2の資源利用を目指した新たなプラスチック合成法
  4. 【超難問】幻のインドールアルカロイドの全合成【パズル】
  5. 一重項励起子開裂を利用した世界初の有機EL素子
  6. 嫌気性コリン代謝阻害剤の開発
  7. スチレンにCoのHATをかぶせれば、インドールを不斉アルキル化
  8. 常圧核還元(水添)触媒 Rh-Pt/(DMPSi-Al2O3)

注目情報

ピックアップ記事

  1. 槌田龍太郎 Ryutaro Tsuchida
  2. 還元された酸化グラフェン(その1)
  3. 共役はなぜ起こる?
  4. 【ユシロ】新卒採用情報(2026卒)
  5. START your chemi-storyー日産化学工業会社説明会2018
  6. 2009年5月人気化学書籍ランキング
  7. 高活性な不斉求核有機触媒の創製
  8. フリッチュ・ブッテンバーグ・ウィーチェル転位 Fritsch-Buttenberg-Wiechell Rearrangement
  9. 第57回有機金属若手の会 夏の学校
  10. KISTEC教育講座 「社会実装を目指すマイクロ流体デバイス」 ~プラットフォームテクノロジーとしての超微量分析ツール~

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2008年5月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP