[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

湾曲したパラフェニレンで繋がれたジラジカルの挙動  〜湾曲効果による電子スピン状態の変化と特異性〜

[スポンサーリンク]

第342回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院 先進理工系科学研究科・宮澤友樹 さんにお願いしました。

宮澤さんの所属する安倍研究室では化学結合の本質に示唆をあたえるラジカルの化学、特にジラジカルにフォーカスした研究を行っています。そもそもが高い反応性をもつ化学種なので、上手く発生させ、解析すること自体が至難の業です。今回紹介する研究では、歪んだベンゼン環に巧みに発生させたジラジカルのスピン挙動を調べています。J. Am. Chem. Soc.誌 原著論文・プレスリリースに公開されています。

“1,3-Diradicals Embedded in Curved Paraphenylene Units: Singlet versus Triplet State and In-Plane Aromaticity”
Miyazawa, Y.; Wang, Z.; Matsumoto, M.; Hatano, S.; Antol, I.; Kayahara, E.; Yamago, S.; Abe, M. J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 7426–7439. doi:10.1021/jacs.1c01329

研究を指揮されました安倍学 教授から、宮澤さんについての人物評を頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

宮澤くんは、とにかく実験が好きで明るいナイスガイです。雑誌会とか授業のレポートなどがあると、実験の手を止めて資料作りなどをする学生が多い中、宮澤くんは、実験の合間か実験が終わった夜に準備をしている姿を見ます。本当に実験が好きなんだなと感心しています。そのような弛まぬ努力と好奇心が新しい化学を創っていく典型的な例だと思います。うちは共同研究で測定を頼まれることが多いのですが、誰かに研究の手を止めてお願いしないといけないのですが、宮澤くんは率先して助けてくれる「力持ち」です。この調子でより成長されて、次の世代の指導者になって頂きたいと期待しています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

本研究では、光照射によってジラジカルが発生可能なアゾユニット(AZ)を湾曲したパラフェニレン骨格に導入した環状アゾ分子に着目しました。湾曲したパラフェニレンで繋がれたジラジカル(DR)は、湾曲したベンゼン環によって誘起されるラジカル間の結合性相互作用によって、環状キノイド構造の形成とその面内芳香族性の発現が期待されます。環状アゾ分子の光脱窒素反応によって発生した環状ジラジカルのスピン状態が湾曲効果によって一重項に変化していることを実測から明らかにしました。この湾曲効果を用いることで、可視光から近赤外光に応答する新奇な物質や高次キノイド構造の構築、ポリラジカルのスピン制御へと展開して行くことが出来ます。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

この環状アゾ化合物は、違う環状分子を作ろうと思い、合成を行ったところ、偶然合成が出来た分子です。2年間結果が得られず、途方に暮れつつも、反応をかけまくっていたある時に、これまでにない緑色の化合物が得られました。目的の環状アゾ分子ができたと手応えがあり、「これで卒業できる。卒業していった先輩たちとも顔を合わせられる。」と内心思いながら、単結晶X線構造解析を行なったところ、AZ-6CPP (n=3)が確認されて、パニックになったのを鮮明に覚えています。結果として、この環状アゾ化合物がきっかけで修士から博士課程に進学することになり、現在に至ることになる、自分にとってインパクトのある研究でした。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

合成を偶然達成できたのですが、測定も非常に大変でした。アゾ分子の脱窒素反応は速いと研究室の先輩から聞いていたので、早速、自分の合成した環状アゾ化合物AZ-6CPPに光を当ててみたものの、全く脱窒素反応が進行しなくて発狂しました。光源を365 nm LEDライトから色々と検討し、355 nmレーザーを用いることで脱窒素反応が進行することが分かり、この問題を解決することが出来ました。それでも脱窒素反応がかなり遅かったのですが、最後は力技で長時間ひたすら光を照射することで乗り越えました。測定が昼夜に及ぶことが多々ありましたが、この化合物の測定を行うことにより、昼夜測定にも慣れてしまい、全く苦にならないことも今では良かったと思います。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

日常生活の中で、六角形のタイルが並んでいるのを見て、グラフェンみたいだと笑ったり、ポン・デ・リングをシクロパラフェニレンだと言って崇めたり、桜餅を食べながら、今クマリンを食べていると言ったりするほど、化学に没頭しています。化学の中で自分は、やっぱり合成をしている時が一番楽しいと感じます。設計した分子をどのように合成するか日常生活の中でも考えているほど、身近に置いています。カテナン構造やノット構造といった衝撃的な分子構造の合成報告を見ると震えが止まりません。将来は、化学分野で、驚愕の分子を設計・合成して、インパクトを残したいと思っています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

Chem-Stationのスポットライトリサーチに自分が登場出来るとは夢にも思わず、とても光栄に思います。他の研究者さんの記事を読んでいると、自分の書いた記事は、ダイレクト且つぶっ飛んでいるなと感じました。元来の目的であった環状アゾ化合物も、意外にもこの研究の後、瞬く間に合成でき、現在、物性調査を行なっています。また、新たな研究にも着手し、多忙な日々を送っています。もう一度、スポットライトリサーチに登場することが出来るよう研究に邁進していきたいです。また、春季年会や基礎有機化学討論会といった学会にもよく参加しているため、見かけた時は、気軽に声をかけて頂けたら嬉しいです。一緒に化学をエンジョイしましょう!

研究者の略歴

名前 : 宮澤 友樹 (みやざわ ゆうき)
略歴 : 2019年3月 広島大学 (理学部 化学科) 卒業
2019年4月 広島大学大学院 (理学研究科) 博士課程前期入学
2021年3月 広島大学大学院 (理学研究科) 博士課程前期修了
2021年4月 広島大学大学院 (先進理工系科学研究科) 博士課程後期入学
所属 : 広島大学大学院・先進理工系科学研究科・反応有機化学研究室
研究テーマ : 湾曲したパラフェニレンで繋がれたマルチラジカル

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 糖鎖合成化学は芸術か?
  2. メカノケミカル有機合成反応に特化した触媒の開発
  3. アカデミアケミストがパパ育休を取得しました!
  4. サイエンスアゴラの魅力-食用昆虫科学研究会・「蟲ソムリエ」中の人…
  5. 有機合成化学協会誌3月号:鉄-インジウム錯体・酸化的ハロゲン化反…
  6. 化学に関係ある国旗を集めてみた
  7. 近況報告Part III
  8. 中国へ行ってきました 西安・上海・北京編①

注目情報

ピックアップ記事

  1. 結晶学分野に女性研究者が多いのは何故か?
  2. 化学エネルギーを使って自律歩行するゲル
  3. 常温・常圧で二酸化炭素から多孔性材料をつくる
  4. はしか流行?
  5. コンプラナジンAの全合成
  6. 医薬品天然物化学 (Medicinal Natural Products: A Biosynthetic Approach)
  7. 低い電位で多電子移動を引き起こす「ドミノレドックス反応」とは!?
  8. ネオジム磁石の調達、製造技術とビジネス戦略【終了】
  9. サイエンスアゴラの魅力を聞くー「日本蛋白質構造データバンク」工藤先生
  10. 第175回―「酸素を活用できる新規酸化触媒系の開発」Mark Muldoon准教授

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年9月
月 火 水 木 金 土 日
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

光前駆体法の活用によって、ヘプタセンで初の一重項分裂を観測!

第725回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 理学研究科化学専攻 有機元素化学研究室(山田研…

【スタッフ・寄稿募集】Chem-Stationで、化学を「伝える側」になりませんか?

Chem-Station(ケムステ)は2000年に開設された国内最大の化学ポータルサイトです。大学・…

第17回大津会議―とある参加者の記録―

2026年9月28日~29日に開催された第17回大津会議についての、とある参加者の記録です。この記事…

第17回大津会議 -Otsu Conference- 2026 開催報告 ~新体制で紡ぐ「有機合成の夢」~

第17回大津会議が2026年9月28日(月)〜9月29日(火)びわ湖大津プリンスホテルにて開催されま…

有機合成化学協会誌2026年10月号:医薬品プロセス開発・σ芳香族性・含窒素複素環・メロテルペノイド二量体・高歪み化合物

有機合成化学協会が発行する「有機合成化学協会誌」2026年10月号がオンラインで公開されています。…

時代は水だ! セメントのように水と混ぜるだけで成形・硬化できる「水硬性」高分子

第724回のスポットライトリサーチは、東京科学大学物質理工学院(大塚研究室)博士前期課程2年の徳満玲…

複雑さを設計して、結晶の動きをプログラムする

第723回のスポットライトリサーチは、高知工科大学大学院工学研究科(林研究室) 博士後期課程3年の樋…

ハロゲンの力で強力な結合を切断!天然物クマリンから医薬品・機能性材料原料のクマラノン類へ

第 722 回のスポットライトリサーチは、立命館大学大学院薬学研究科薬学専攻 精密合…

観察を写真で残す!カメラ内蔵リアクタ EasyMax 102i を使ってみた

反応の温度も、攪拌(かくはん)も、滴下も、サンプリングもいまや自動で記録される時代になりました。とこ…

ケムステ人気新着記事 トップ 5【2026年9月版】

2026年9月にケムステでは21本の新しい記事を公開しました。この記事では、その新着記事の中から、ペ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP