[スポンサーリンク]

M

モッシャー法 Mosher Method

[スポンサーリンク]

概要

Mosher試薬(α-Methoxy-α-(trifluoromethyl)phenylacetyl Chloride, MTPA-Cl)を二級アルコールもしくはα-三級アミンと縮合させて合成されるMTPAエステル/アミドのジアステレオマー間のNMR化学シフト値の変化(Δδ)を読み取ることで、化合物の絶対配置を決定する手法。X線構造解析でしばしば困難となる単結晶の作成が不要なことがメリットである。

・ジアステレオマー比から、エナンチオ過剰率(ee)も決定できる。フッ素を含有するので、19F NMRを用いることも可能。ただし、絶対配置の決定においては、19F NMRを用いる方法は信頼性が低い。

・原報ではβ位プロトンまで帰属を行うことで絶対配置を決定している。γ位以降のプロトンまで帰属する改良法を用いることで、信頼性が向上する(柿沢・楠見 変法)。

・立体要請の大きい化合物などは厳密に決定できないこともある。

O-メチルマンデル酸エステルを用いる別法(Trost法)も知られている。

 

基本文献

 

原理

(S)-MTPAエステルを例にとって説明する。(R)-MTPAクロリドとアルコールとの反応から合成される(S)-MTPAエステルは、二級アルコールエステル部がs-trans、カルビニルプロトンおよびCF3基がsynの形でカルボニルと同一平面になる配座をとる。この結果、ベンゼン環がもたらす磁気異方性効果(遮蔽効果)の差が置換基R1,R2の間に生じる。結果、NMRの化学シフト値が大きく変化する。下図のケースでは、ベンゼン環近傍にある置換基R2のプロトンが高磁場シフトを起こす。


mosher_ester_3.gif

実験手順

絶対配置決定法[1]
① 二級アルコールを(S)- および (R)-MTPAエステルへとそれぞれ誘導する。
② 各々のジアステレオマーのプロトンを出来るだけ多く帰属する。
③ 各ジアステレオマーのプロトン化学シフト値の差をΔδ = δSRとして求める。
④ Δδの正負によってプロトンを分類し、下図のような関係に当てはめれば、二級アルコールの絶対配置が決定できる。


mosher_ester_4.gif

実験のコツ・テクニック

※Mosherエステル化の際には、試薬を多めに用いるなどしてなるべく完全に変換を行う。ジアステレオマーを与える反応なので、反応時にresolutionがかかる可能性がある。
(S)-MTPAエステル/アミドを合成したい場合には、(R)体の試薬を用いること。縮合の結果、置換基のCIP順位が変わってしまうために、R/S表記が逆転することに留意。

 

参考文献

[1] Hoye, T. R.; Jeffrey, C. S.; Shao, F. Nature Protocols 2007, 2, 2451. doi:10.1038/nprot.2007.354

 

関連反応

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4431710817″ locale=”JP” title=”有機化合物の構造決定―スペクトルデータ集”]

 

外部リンク

関連記事

  1. 根岸カルボメタル化 Negishi Carbometalatio…
  2. ロイカート・ヴァラッハ反応 Leuckart-Wallach R…
  3. チチバビン反応 Chichibabin Reaction
  4. ニコラス反応 Nicholas Reaction
  5. ガスマン インドール合成 Gassman Indole Synt…
  6. ソープ・インゴールド効果 Thorpe-Ingold Effec…
  7. 還元的脱硫反応 Reductive Desulfurizatio…
  8. 宮浦・石山ホウ素化反応 Miyaura-Ishiyama Bor…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 天然物の生合成に関わる様々な酵素
  2. 新海征治 Seiji Shinkai
  3. 有機合成化学協会誌2022年1月号:無保護ケチミン・高周期典型金属・フラビン触媒・機能性ペプチド・人工核酸・脂質様材料
  4. 有機合成化学協会誌2021年4月号:共有結合・ゲル化剤・Hoveyda-Grubbs型錯体・糸状菌ジテルペノイドピロン・Teleocidin B
  5. 微生物の電気でリビングラジカル重合
  6. 2005年2月分の気になる化学関連ニュース投票結果
  7. 化学者のためのエレクトロニクス講座~半導体の歴史編~
  8. ケムステイブニングミキサー2018ー報告
  9. メソリティック開裂を経由するカルボカチオンの触媒的生成法
  10. ケムステV年末ライブ2021開催報告! 〜今年の分子 and 人気記事 Top 10〜

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年9月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

アザボリンはニ度異性化するっ!

1,2-アザボリンの光異性化により、ホウ素・窒素原子を含むベンズバレンの合成が達成された。本異性化は…

マティアス・クリストマン Mathias Christmann

マティアス・クリストマン(Mathias Christmann, 1972年10…

ケムステイブニングミキサー2025に参加しよう!

化学の研究者が1年に一度、一斉に集まる日本化学会春季年会。第105回となる今年は、3月26日(水…

有機合成化学協会誌2025年1月号:完全キャップ化メッセンジャーRNA・COVID-19経口治療薬・発光機能分子・感圧化学センサー・キュバンScaffold Editing

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年1月号がオンライン公開されています。…

配位子が酸化??触媒サイクルに参加!!

C(sp3)–Hヒドロキシ化に効果的に働く、ヘテロレプティックなルテニウム(II)触媒が報告された。…

精密質量計算の盲点:不正確なデータ提出を防ぐために

ご存じの通り、近年では化学の世界でもデータ駆動アプローチが重要視されています。高精度質量分析(HRM…

第71回「分子制御で楽しく固体化学を開拓する」林正太郎教授

第71回目の研究者インタビューです! 今回は第51回ケムステVシンポ「光化学最前線2025」の講演者…

第70回「ケイ素はなぜ生体組織に必要なのか?」城﨑由紀准教授

第70回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

第69回「見えないものを見えるようにする」野々山貴行准教授

第69回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

第68回「表面・界面の科学からバイオセラミックスの未来に輝きを」多賀谷 基博 准教授

第68回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP