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化学系必見!博物館特集 野辺山天文台編~HC11Nってどんな分子?~

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bergです。突然ですが今回から「化学系必見!博物館特集」と銘打って、私が実際に訪れたいちおしの博物館・科学館を特集する連載をはじめたいと思います。

第1回にご紹介するおすすめスポットは、長野県南牧村(みなみまきむら)に位置する「国立天文台 野辺山宇宙電波観測所」(通称;野辺山電波天文台)です。

え、Chem-Stationなのに化学とは関係ないの?と思った貴方、ぜひ最後までお読みください。野辺山天文台は素朴ながら、化学好きの好奇心をくすぐる展示がいっぱいのスポットなのです。それではご覧ください。

(注)入館料無料ですが、予告なく変更される可能性がございます。ホームページ等で最新の情報をご確認ください。

(注)オンラインショッピングに対応していない製品・店舗もございます。実店舗は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策等で平常時とは異なる営業形態をとっている場合もあります。また、都道府県境をまたいだ不要不急の外出自粛要請が発出される可能性もありますので最新の情報をご確認ください。なお、2020/12/28執筆時点で日本政府のGoToトラベルキャンペーンは運用停止されています。

国立天文台とは

国立天文台(National Astronomical Observatory of Japan, NAOJ)は、核融合科学研究所、分子科学研究所、基礎生物学研究所、生理学研究所などとともに自然科学研究機構の中核をなす研究所の一つです。宇宙航空研究開発機構(JAXA)などとともに日本の天文学、宇宙科学研究をリードする研究機関であり、研究施設を提供する大学共同利用機関の役割も果たしています。日本の暦を規定する機関でもあります。

野辺山高原以外にも全国に観測所を展開しており、岩手県奥州市の水沢VLBI観測所(水沢キャンパス)、沖縄県石垣市の石垣島天文台、アメリカ ハワイ州のすばる望遠鏡、南米チリのアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(アルマ望遠鏡)など、数多くの観測施設を所管しています。

本部(三鷹キャンパス)は東京都三鷹市に所在しており、こちらでも様々な展示や一般向けイベントが行われております。最寄りの三鷹駅は東京23区に隣接し、新宿駅からJR中央線で15分ほどとアクセス抜群ですので興味がおありの方はぜひ。

国立天文台 三鷹キャンパス(画像:Wikipedia

野辺山地区の概要

1969年に国立天文台が観測拠点としたものが野辺山地区です。長野県南東部に位置する南牧村の八ヶ岳山麓に広大な敷地と多くの大掛かりな観測施設が所在しています。野辺山の地は南の甲府盆地方面から北の佐久平方向へと抜ける峠状の地形であり、西側を八ヶ岳連峰と赤石山脈、東側を秩父山地に囲まれています。そのため、関東平野や東海地方からの電波ノイズが物理的に遮られ、安定して観測が可能で、国内最大級の電波天文学の拠点となっています。また、海から遠い中央高地に位置するため湿度が低く天候に恵まれており標高1300 mの高原のために大気の揺らぎや水蒸気による吸収(※)も軽減されます。さらにJR小海線が利用できるアクセスの良さも強みです。近隣には信州大学の実験農場があり、開設にあたって協力関係があったといわれています。

(※)ミリ波帯は赤外領域に近く、大気の吸収による影響を強く受けます。詳細は過去記事

観測施設

現在は以下の観測機器が設置されています。

・45mミリ波電波望遠鏡

…世界最大級の大口径を活かして宇宙からの微弱なミリ波も捉え、星間物質などの研究に役立てられています。

・太陽電波強度偏波計(NoRP: Nobeyama Radio Polarimeters)

…8台のパラボラアンテナを用いて太陽活動を調べます。

・ミリ波干渉計(NMA: Nobeyama Millimeter Array)

…6台のアンテナをつなぎ直径600 m相当の電波望遠鏡として機能します。現在は大阪府立大学が運用中です。

・電波へリオグラフ(NoRH: Nobeyama Radioheliograph)

…84台のアンテナによって直径500 m相当の解像度で太陽活動を監視しています。もともとは併設されていた野辺山太陽電波観測所の所有でしたが、2020年3月に運用が終了しました。

このほかに、現在でも最新技術の粋を集めた受信機や分光計など、多くの機器の開発が進められています。

・・・

なお、敷地内に併設されていた野辺山太陽電波観測所は2015年3月に閉所され、現在は往時を偲ぶホームページが残されています。(https://solar.nro.nao.ac.jp/indexj_nsro_last.html)機器や施設は野辺山宇宙電波観測所のほか野辺山電波ヘリオグラフ運用延長国際コンソーシアム(ICCON)などに引き継がれています。

 

行ってみた!

以下、筆者が実際に2度訪れた際の様子です。

(注)3年以上前(2020/12/28現在から起算)の情報です。ホームページ等で最新の情報をご確認ください。

私はJR小海線の野辺山駅から片道20分以上かけて歩くというアホっぷりを発揮しましたが、、、

駅からの道のりは「八ヶ岳スケッチライン」というよく整備された一直線の道路で八ヶ岳を望めるなど、景観は抜群でした。夏場は清里高原にもほど近い避暑地ということもあり日中でも20℃前後と大変肌寒い涼しいのですが、冬場は3月でも氷点下の日が多いので防寒対策をしっかりされた方がよいでしょう(厳冬期は-20℃を下回る日もあるそうです…ご注意を)。

キャベツ畑のバックに雄大な八ヶ岳が見えます(筆者撮影 左:8月、右:3月)

…普通の人は現地まで車で行くと思います。無料駐車場は50台分ありますが、特別公開日には旧野辺山スキー場に臨時駐車場を利用することになります(かなり遠方のため臨時駐車場と天文台を結ぶシャトルバス(!?)が運行されます)。近くに止めたい方は隣の敷地にあるべジタボール・ウィズ(南牧村農村文化情報交流館)を利用した方がいいかもしれません。なお、ここでもプラネタリウムなど「天文チックな」展示を味わえるほか、カフェレストランで休憩できたりお土産も買えたりと、なにかと重宝しました。余談ですが、ベジタボール。ウィズの屋上展望台からは野辺山天文台の敷地を一望できるのでおすすめです。

野辺山天文台の隣に位置するベジタボール・ウィズ(筆者撮影)

ベジタボール・ウィズの屋上展望台から(筆者撮影)

さて、いよいよ守衛室をくぐるとその先は天文台の敷地内です。口酸っぱく言われますが、ここからは携帯電話の電源を切らなければなりません。わずかな人工の電波も観測の障害となるのですね。なお、このページの写真はデジカメで撮影したものです。

順路を進むと早速「ミリ波干渉計」(NMA: Nobeyama Millimeter Array)がお出迎えしてくれます。運用が停止されてしまったので現在は稼働していませんが、かつての雄姿を堪能できます。45 m望遠鏡と比べると大人と子供のようなサイズ感ですが、直径10 mのパラボラアンテナが6基も並んでいる光景は圧巻です。

ミリ波干渉計(筆者撮影)

少し進むと、ミリ波干渉計に囲まれる形で「自然科学研究機構 野辺山展示室」の建屋にたどり着きます。この建物が野辺山天文台の研究成果を来場者に紹介する博物館(天文館とでも呼ぶべき?)にあたります。宇宙の構造と進化を映像作品にまとめた4次元デジタル宇宙シアター(4D2Uシアター)での上映が人気のようです。

…が、化学徒としては野辺山天文台での観測で発見された星間分子のレトロな展示に目が奪われました(笑)いや、何とも素朴な分子模型が天井から吊るされているのですが、SiO(一酸化ケイ素)、HC9N(シアノテトラアセチレン)、HC11N(シアノペンタアセチレン)などといった常軌を逸した非常に興味深い化学種に度肝を抜かれました。

考えてみればそのはずで、宇宙空間では温度の極めて低い領域が多く、そもそもほとんど真空といっても過言ではないほど分子の密度が低いため、不安定な化学種が生じても自ら転位や解離を起こさない限りはほかの分子と衝突する頻度は極めて低いのです。そのため、宇宙線の照射など何らかの要因で生じたラジカルなどの不安定化学種も長い半減期を有し、分光学的に観測可能となるのでしょう。

単純な星間分子(筆者撮影:CO、HCN、SiO(!?))など

複雑な星間分子(筆者撮影:HC9N、HC11Nなど)

順路をさらに進むと、いよいよ目玉の45 mミリ波電波望遠鏡が姿を現します。

45 mミリ波電波望遠鏡(筆者撮影)

手前左側のパラボラアンテナでも人の背丈の倍ほどはあるのですが、大きすぎて見切れちゃってますね(笑)

この45 m電波望遠鏡が天文学の発展に果たした役割は計り知れず、原始星周囲のガス円盤、ブラックホール存在の証拠の発見など、世界的に重要な観測成果を与えたことでも知られているようです。2017年には以前の記事でご紹介したIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineersから25年以上に渡って世の中で高く評価を受けてきた電気・電子・情報技術やその関連分野の歴史的偉業に対して授与されるIEEEマイルストーンにも認定されたようです。

さきほどの星間分子の発見に寄与したのもこの45 m電波望遠鏡です。ここで観測しているのはミリ波帯ですので、回転準位の遷移に相当する吸光・発光を検出していることになります。星間分子は多くの場合低温であるため強い発光を示しませんが、背後の恒星などから照射された光の吸収スペクトルを解析することで同定されているようです。

興味深いところでは、銀河系中心部における13C16O/12C18O存在比が地球(太陽系)の位置する銀河系外延部での値より大きい[1]という発見や、最近ではいて座の方角に、コマのように長軸周りに回転するアセトニトリルCH3CN分子を多数発見した[2]ことが話題となりました。

45 mミリ波電波望遠鏡の遠景(筆者撮影)

うっかりして宇宙のあまりに壮大なスケールに心打たれて太陽電波強度偏波計(NoRP: Nobeyama Radio Polarimeters)と電波へリオグラフ(NoRH: Nobeyama Radioheliograph)の写真を撮り忘れました…申し訳ありません。電波へリオグラフは比較的小さなアンテナが84基も整然と並んでいて壮観だった記憶があります。

周辺は観光地然としており、駅前にはペンションや旅館が立ち並んでいるほか、近隣の清里はかつて「高原の原宿」とよばれるほど賑わっていました。避暑地で雄大な自然が満喫できることから現在でも人気のエリアです。

私は訳あって北隣の川上村に宿泊しましたが、そこで見た満天の星空は今でも印象に残っています。首都圏出身の私にとっては肉眼で天の川が見えるのは非常な衝撃でした。この地が天体観測のメッカとなったゆえんが窺い知れたような気がします。

天文台周辺の夜空(筆者撮影)

・・・

一般向けにここまで本格的な公開をしている国立天文台 野辺山地区ですが、国からの運営費交付金の削減もあって現在は財政難に喘いでいるようです。宿泊施設を備えた本館の閉鎖や、職員の段階的な削減などの経費削減対策を余儀なくされていますが、このままでは観測所の存続も危ぶまれる状況のようです。記事執筆時点で南牧村はふるさと納税型のクラウドファンディングを募っています。

このような素晴らしい観測所、そして科学技術史に残る遺産が今後も存続することを願っています。この記事を読まれたみなさんも、ぜひ新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着いたら足をお運びいただき、応援していただければと思います。

見学案内

・年末年始休業(12月29日〜1月3日)を除き、毎日見学(入場は無料、自由見学)できます。

・見学時間は、通常、午前8時30分〜午後5時までです。

夏期(7月20日〜8月31日)の見学時間は午前8時30分〜午後6時までです。

・見学に要する時間は、およそ1時間です。見学時間終了の1時間前までに入場することをお勧めいたします。

・このほか、国立天文台野辺山では電波天文学研究の成果、観測所の仕事を楽しくご覧いただくために、観測施設の特別公開を年に一回行っています。

 

アクセス・周辺情報

・JR小海線野辺山駅下車 徒歩2 km

…新宿駅→(JR中央線 特急あずさ 2時間弱)→小淵沢駅→(JR小海線 30分)→野辺山駅

※野辺山駅にはタクシー乗り場があるほか、駅横の観光案内所でレンタサイクル(http://nobeyama-annaijyo.jp/publics/index/2/)もあります。

・中央自動車道 長坂インターより清里道路を経て20 km

〒384-1305

長野県南佐久郡南牧村野辺山462-2

TEL:0267-98-4300

FAX:0267-98-3579

長野県 南佐久郡 南牧村(濃い緑)の位置(画像:Wikipedia

関連書籍

関連サイト

国立天文台 野辺山宇宙電波観測所

国立天文台

ベジタボール・ウィズ(南牧村農村文化情報交流館)

東京理科大学 理学部第一部 化学科 築山研究室(研究紹介)

参考文献

野辺山天文台の観測に基づく業績

[1] Aya Ubagai et al 2019 Res. Notes AAS 3 78 https://doi.org/10.3847/2515-5172/ab2463

[2] Mitsunori Araki et al Mon. Notices Royal Astron. Soc., Volume 497, Issue 2, September 2020, 1521-1535, https://doi.org/10.1093/mnras/staa1754

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化学メーカー勤務。学生時代は有機をかじってました⌬
電気化学、表面処理、エレクトロニクスなど、勉強しながら執筆していく予定です

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