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アメリカの研究室はこう違う!研究室内の役割分担と運営の仕組み

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アメリカの大学院に来て驚いたこと。その一つは、研究室の運営の仕組みが日本とかなり違うことです。特に、アメリカの研究室では、教授と学生の間に助教のような立場の人がいないので、責任の重い仕事を学生間で分担する必要があります。今回は、アメリカの研究室でどのように役割分担がなされ、助教の力なしに研究室が運営されているのか、私が大学院留学で経験したことをもとに綴ります。

1. アメリカの研究室の構造

アメリカでは一般的に、1つの研究室に教授が一人しかいません。日本のように、准教授や助教が教授の下にいるのではなく、助教授の段階から独立した研究室を持っています(図1)。研究室のメンバーにおいても、大学院1年生(G1)からポスドクまで、日本のようにはっきりした上下関係はありません。

図1. 研究室のメンバー構造。(アメリカでのG1は大学院1年目、つまり日本のM1に相当。)

助教や准教授のような「研究室の日常的なまとめ役」がいなければ、研究室はうまく回るんだろうかと不思議に思われる方もいるかもしれません。どうやって研究室が運営されているのかというと、ポイントは2つあります。

  • 学生やポスドクが、重要な仕事も分担して請け負っている。
  • 専門スタッフ・専門部署の存在。

このようなポイントを踏まえて、研究室での役割分担について次の項で紹介します。

2. 研究室での役割分担

研究室の役割分担には、それぞれの機器の管理に加え、安全管理委員(Safety Officer)や試薬在庫登録の管理係、ウェブサイトの管理係など、様々な役割があります。私の研究室の場合は、70近くの役割があり、それを15人ほどのメンバーで分担しています(図2)。メンバーが卒業したりポスドクを終えるタイミングで役割分担の更新を行い、業務がうまく引き継がれるようになっています。

図2. 研究室の役割分担表の一部。

一人が複数の役割を受け持つことにはなっていますが、めったに故障しない装置などもあるので、それほど仕事が多いということはありません。細かく担当者を決めておくことで、たまに不具合があった際に、誰かが責任を持って解決するようになっています。

3. 安全管理委員(Safety Officer)の役割

助教や准教授のようなまとめ役がいない状況で、特に重要なのが「安全管理委員」という役職です。安全管理委員は、新しいメンバーに対して安全トレーニングを行ったり、毎年行われる研究室の安全調査(Safety Inspection)の対応をしたり、研究室大掃除のまとめ役を担ったりと、様々な仕事があります。

とても重要な役職でありながら、安全管理委員は大学院2年目程度の学生が担うことも稀ではなく、私も研究室に入って1年後から安全管理委員を担っています(2人いるうちの1人)。研究室の安全管理というかなり重要な仕事を学生に任せられる理由は、主に以下の3です。

  1. 大学院生が自立した責任ある立場だとみなされている。(大学院生は、給与を支払われる被雇用者のような立場でもある。
  2. 安全管理は個々の研究室の努力ではなく、学科・大学全体で行うものだとされている。
  3. 大学の安全管理部署(Safety Office)がかなり積極的に研究室内の安全管理支援を行ってくれる。

(a) について、私の大学では、入学時の新入生安全講習・隔年での学科全体安全講習(教授も全員参加)の2つが行われています。研究室の新メンバーは、全体講習への参加・学科の安全マニュアルの熟読・研究室個別トレーニングの受講を行い、研究室の安全管理委員と教授からサインをもらわなければ、研究を始めることができません。このように、各研究室の安全管理委員以外にも、多数の人が安全管理について責任を担っているので、学生にも安全管理委員を任せられる仕組みになっています。

また、(b) について、学内の安全管理部署により、年に1度安全検査(Safety Inspection)が行われます。Inspectionとは言っても、悪い点を見つけて咎められるというような雰囲気ではなく、安全管理部署と研究室が協力して安全向上に努めることが目的です。Inspectionでは、安全管理部署の担当者と研究室の安全管理委員が共に研究室を歩いてまわり、問題点を見つけた際に解決策を一緒に考えます。Inspection後には、教授と安全管理委員の元にレポートが送られてくるので、それぞれの項目について問題を解消した後、安全管理部署に返信します。問題の解決策について何か質問がある場合は、安全管理部署が気軽に相談に載ってくれるため、学生の立場で分からないことが多くても困ることはありません。また、Inspectionの際には、新メンバーへの個別トレーニングについても、内容を議論します。研究室にどのような危険があるかを精査し、トレーニングで伝える内容のリストを適宜修正します。このような安全管理部署による細かな支援があるため、准教授や助教のような責任者がいなくても、学生が仕事を果たせるようになっています。

4. 研究室の機器管理

個々の装置の管理についても、助教の存在なしにうまくこなせる理由は、学生の自立性と専門スタッフの存在です。NMRや質量分析器、電子顕微鏡などの大きな装置は、学科や大学全体の共通機器として専門スタッフに管理されていることがほとんどなので、研究室内の役割として仕事が分担されることはありません。(教授からRAとして任されることはあります。)

細かな機器は、学生・ポスドクが個別に担当し、故障した場合には担当者が販売会社と連絡を取り合って解決します。新規購入を行う場合は学生自身が調べ、費用について事務補佐・教授と相談し、廃棄の場合は大学の機器廃棄の担当部署に連絡、という手順を取ります。何を誰に相談すれば良いかがある程度決まっているので、学生の立場でも自立して行動することができます。また、細かな機器は故障しても、大抵の場合他の研究室に代わりがあるため、故障のせいで研究活動に大きく影響が出ることはあまりありません。機器の貸し借りは研究室間でかなり自由に行われているので、故障の際にバックアップとなります。

5. おわりに

安全管理委員と機器の管理について主に書きましたが、外部部署との廃棄物処理の手続き、遺伝子組換え実験の手順報告書の提出など、文書業務も含め様々な役割を学生が担っています。下級生の指導も、手取り足取り教わるのは学部生のみで、大学院生はごく最初に他の学生から指導を受けるだけで、あとは自力で、分からないことは誰かに聞きつつ研究を進めます。このように学生が自立していること、学生でも仕事をこなせるような外部の専門部署・専門スタッフのサポートがあること、さらに、重要な事柄にはバックアップが存在するため学生にも任せられること(安全管理は複数の人がチェック・機器には代替機器がある)が、アメリカの研究室が一人の教授のもとで成り立つ理由だと思います。

大学や研究室によって異なる部分も多々あり、ラボマネージャーや専門スタッフが雇われ、研究指導や装置管理、その他の雑務を行っているケースもあります。「アメリカの研究室は〜」と一概には言えないかもしれませんが、機器などのリソースは共有し、人によりお金をかける(学生への給与の支払い・専門スタッフの雇用)というやり方が、アメリカの多くの研究室でなされていると、大学院生活を通して感じました。

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アメリカの製薬企業の研究員。抗体をベースにした薬の開発を行なっている。
就職前は、アメリカの大学院にて化学のPhDを取得。専門はタンパク工学・ケミカルバイオロジー・高分子化学。

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