CAS Future Leaders Programは、アメリカ化学会(ACS)の情報部門(CAS)が主催する、博士課程在学中の学生やポスドクを対象とした情報交換プログラムです。世界中から集まった参加者には、リーダーシップに関するトレーニングプログラムや米国化学会秋季大会での発表の機会が与えられるほか、様々な豪華特典があります。
次回、2026年のCAS Future Leaders Programの募集が今年12月に開始されました。(外部リンク: 2026 CAS Future Leaders プログラムの参加者を募集します; 締め切りは2026年1月25日)
プログラムの詳細から申請書作成について、実際参加された方の声をお聞きしたいと思い、ケムステでは参加された方のインタビュー記事を公開しています(2024年, 2023年, 2022年, 他多数)。今回は2025年のプログラムに参加された阪一穂 様にインタビューを行いました。お忙しい中ありがとうございます。皆様、ぜひご覧ください。
Q1. 自己紹介をお願いします。
大阪大学大学院薬学研究科(阪大院薬)・機能分子製造化学分野(澤間研究室)ポスドク(日本学術振興会特別研究員PD)の阪一穂です(研究室HP)。博士課程では阪大院薬にて赤井周司教授・澤間善成准教授(現・教授)のご指導の下、創薬研究を志向した新規重水素化試薬の開発と、重水素化化合物の物性評価に取り組んできました。
代表論文
- Angew. Chem. Int. Ed. 2023, 62, e202311058. DOI: 10.1002/anie.202311058
- Bull. Chem. Soc. Jpn. 2024, 97, uoae109. DOI: 10.1093/bulcsj/uoae109
- ChemMedChem 2024, 19, e202400201. DOI: 10.1002/cmdc.202400201
- Org. Biomol. Chem. 2024, 22, 2734-2738. DOI: 10.1039/D4OB00046C
また、2025年4月からドイツ・ミュンスター大学のFrank Glorius研にて、Postdoctoral Research Fellowとして勤務しています(研究室HP)。
Q2. CAS Future Leaders Programへの申し込みのきっかけを教えてください
プログラムの存在は、JAICIやChem-Stationの記事を以前から拝見しており知っていました。しかし、自分にはまだ早いと思い、見送っていました。2025年1月に博士論文がひと段落付いたころ、Chem-Stationで2024年参加者の森圭太さんの体験記を見かけ、思い切って応募を決断しました。そのため、私も諸先輩方の例にもれず、1月に入ってから準備を始めました。
Q3. どのようなプログラムなのでしょうか。特に印象に残っているイベントはなんですか?
本プログラムは2週間にわたって開催され、大きく2部構成となっています。1週目はCAS本部もあるオハイオ州コロンバスでFuture Leadersになるための様々なレクチャーを受けました。具体的には、今年はこのような日程でした。
0日目:オープニングパーティー(顔合わせ)
1日目:Storytelling
2日目:CAS本部見学+研究紹介(ポスター発表)
3日目:Coaching
4日目:Outreach
5日目:橋渡し研究(@ネイションワイド小児病院)
StorytellingやCoachingなど素晴らしいレクチャーの数々は、これまでのJAICI・Chem-Stationの記事に譲ります。
特に印象に残ったのは、アウトリーチ活動に関する一連の講義です。インターネットやSNSが発展した昨今、研究者も教育や研究成果の広報にこれらのツールを活用していく必要があります。今回のプログラムでは、具体例を見ながら効果的な活用法を議論することができ、非常に興味深い講義でした。講義後には、本プログラムのプロモーションビデオを撮影しました。

2週目はACS Fall(今年はワシントンDCでした。来年はシカゴだそうです)に参加しました。円安で国際学会への参加が難しい昨今、研究発表できたのは非常に良かったです。
Q4. プログラムに参加してよかったと思うことはなんですか
一番は、世界中の若手研究者とのネットワークを作れたことです。2週間にわたり、ほぼ寝食を共にするため、密な交流ができます。また、彼らは講義中、いい意味で遠慮なく発言しており、ハングリー精神など見習わなければならない点を見出せたのもよかったです。
プログラム中、アメリカ文化の一端に触れることもできました。1週目の朝・昼はホテルから提供され、アメリカ特有のカリカリベーコンをはじめ、様々なアメリカ料理を楽しめました。

講義中(左)とお昼(右)
また、CAS本部では、コロンバス発祥のキックボールを体験しました。

Q5. 事前に準備したこと・ものはありますか
CAS本部での研究紹介用ポスターと、ACS Fallでの発表資料は準備しました。それ以外の事前準備は特にしませんでしたが、ドイツ留学での生活は結果的に役立ちました。Glorius研メンバーはみな英語が堪能で、プログラムまで4か月間、英会話の特訓ができました(英会話力を劇的に伸ばすことはできませんでしたが)。

Q6. 参加前に準備しておけばよかったことはありますか
プログラムを全力で楽しもうとする気持ちでしょうか。英語会話力を向上も大切ですが、短期間では中々難しいです。つたない英語でも伝えようとする努力する姿勢を見せれば、相手も頑張って聞いてくれます。1週目は特に、言いたいことを表現できず歯がゆさを感じると思いますが、その中でもめげずにがんばってください。
Q7. 応募書類ではどのようなエッセイを書きましたか?どのような点に気を付けましたか?
エッセイは例年通り500-1000 wordsで、「① 現在の研究と将来のゴール(Your current research projects and future goals)」「② SciFinderをはじめとする科学情報ソリューションが研究に及ぼす価値(The value of CAS SciFinder or other scientific information solutions to your research)」についてまとめることが求められました(今年も同様ですね)。私は、下記のような構成で作成しました。
① 現在の研究と将来のゴール(Your current research projects and future goals):6割
私は、future goalsを「自身の将来像」ととらえ、「現在の研究」および「CAS Future Leadersプログラム」が将来像に結びつくように纏めました。執筆の際、学振DCの申請書が役立ちました(私が応募したころの申請書には「目指す研究者像」の項目があり、参考になりました)。また、「プログラムに参加することで、自身の将来にどのようなメリットがあるのか」まで説明できるとよいと思います。
② SciFinderをはじめとする科学情報ソリューションが研究に及ぼす価値(The value of CAS SciFinder or other scientific information solutions to your research):3割(+まとめ1割)
私もこれまでの方々同様、苦慮しました。有機合成化学研究者にとってSciFinderは欠かせないツールですが、だからこそ、どのように差別化するかが課題でした。私は、博士論文研究の傍ら取り組んでいた別テーマの研究も交えながら、SciFinderが私の研究の発展にいかに重要だったかまとめました。
また、本エッセイは2つまで図表を添付できるので、図だけで研究内容が伝わるように注力しました(図表にサイズ指定はないので、作りこみがいがあります)。私はカラーで図表を作成しました。なお、文章は、チャッピー(ChatGPT)に厳しく校閲してもらいながら、推敲していきました。
Q8. 読者の皆さんにメッセージをお願いします
より詳細なプログラムの様子は、JAICI様から公開されているインタビュー記事で紹介しております。また、プログラムの紹介動画がCAS(シーエーエス)から公開されています(Future LeadersプログラムHP参照)。興味を持った方は、今すぐ視聴してみましょう。プログラムがどんな雰囲気か、なんとなくイメージできると思います。本プログラムは、性別、国籍、研究分野ともに非常に多様性を考慮して選考されています。また、参加者同士の交流にとても重きが置かれおり、毎日様々なイベントが企画されています。国際的な若手研究者の交流の場は、リンドウ会議やHOPEミーティングなど他にもありますが、CAS Future Leadersほど密に交流できるプログラムはおそらくないと思います。国際的な人脈や知見を広げたいと思っている方はぜひ応募してみてください。化合物を(データであっても)取り扱っている人全員が応募できます。
以下、角度を変えてもう少しプログラムについてせっかくなので紹介します。
- プログラムは過密スケジュールなのかと思いきや、全くそんなことはありません。午前中3時間、午後3時間の計6時間程度で、適宜休憩をはさみながら和やかな雰囲気で進行していきます。
- ホテルは、ヒルトンホテル(コロンバス)やマリオットホテル(ワシントンDC;学会会場まで徒歩5分程度の超好立地)を手配してくださっていました。ヒルトンホテルの最上階にはBarがあり、幾度かみんなで向かいました。
- コロンバスにはいくつもKaraokeがあり(日本のカラオケBoxとは雰囲気が違うのでびっくり)、有志で行きました。しかし日本の曲は全くなく、私はBeatlesのLet it beを歌いました。海外の楽曲のレパートリーを増やしましょう。プログラムをより楽しめます。
- 渡航費はCASが負担してくださいます。採用時は大阪大学でしたが、その後ドイツへ渡航したため、ドイツ発着でチケットを手配していただきました。加えて、フライトスケジュールも融通してくださいます。私はプログラム終了後にニューヨーク(NY)へ寄りたかったため、相談したところ、帰りのチケットをNY発で用意してくださいました(アメリカ国内の旅費は自費です)。
最後になりますが、素晴らしいプログラムを提供してくださったCASの皆様に深く感謝いたします。あわせて、博士課程にて熱心にご指導くださり、お忙しい中推薦状の作成も快く引き受けてくださった赤井周司先生、長きにわたり直接研究指導してくださり、現在もPDとして受け入れてくださっている澤間善成先生に厚く御礼申し上げます。



























