[スポンサーリンク]

一般的な話題

Post-Itのはなし ~吸盤ではない 2~

[スポンサーリンク]

 

以前の記事で少々気になったことがあったので追加で調べてみました。

Tshozoです。前回の記事を書いたあと、気になったことがありましたので追加で調べて記事にしてみることにしました。

それは、ヤモリの足のような極端な構造を持ってなくても身近に「すぐ付けて、剥がせる」という特徴を持ったモノがあるじゃないか、ということです。それはタイトルの通り、文房具四天王の1人「Post-It」。随分前に紹介しました3M社(日本では住友3M社)のカンバン商品です。

post-it_03.png住友3M社 HPより引用 
最近の筆者のお気に入りは長さが変えられるロールタイプのもの

 このPost-It、以前から「特殊な接着剤が使ってある」「ノウハウがすごい」というような噂は聞いてましたが、じゃあ実際どういう分子構造の接着剤を使って、どういうノウハウが組み込まれているものなのか、をまともに調べたような話も最近はあまり聞きません。では一体何が特徴で、どこで工夫しているのか。その観点から調査してみましたので、今回追加で展開します。お付き合いください。

 

①なんでくっつくの?

 

 

結論を言いますと、くっつくのは表面に接着剤があるからです。基本特許(失効済)  を見る限り、アクリル酸系ポリマーを主剤として色々混ぜてる(適当)ようですが、このポリマ自体は一般的な接着剤として色々なところに多用されるもので、そこまで特別なものではありません。

post-it_02.png基本特許の実施例1から想定される接着剤の分子構造
イソオクチルアクリレートとトリエチルアミンメタアクリルアミドの共重合体のもよう(ブロック数は不明)

 もちろんこれに色々加えて接着力を調整していることでしょう。しかしこれだけだとフツーの接着剤。何で一体工夫して剥がせるようにしているのでしょうか。

 

②なんで剥がせるの?

 

 で、剥がせるのは、「接着剤の形に特徴があるから」です。日東電工殿が書いているこちら が極めてわかりやすいのですが、要はべたーと接着させるのではなく、丸い接着剤でくっつける/ひっかけるイメージです。どっちかというとクラレファスニング殿 が扱う「マジックテープ」の接着剤版だと考えるとイメージしやすいでしょうか。

post-it_01.jpg

Post-Itの表面の拡大画像(SEM画像)の例1 こちらから引用
丸いところが接着剤(光っているのは観察時チャージアップ防止用の導電材とみられます)

post-it_03.jpgPost-Itの表面の拡大画像(SEM画像)の例2 こちらから引用
同じく丸いところが接着剤 少し配置が異なる

post-it_04.png 接着→剥離のイメージ こちらの図を引用して筆者が作成 

 また特許を見る限り、丸い接着剤をエマルジョン方式により合成→分離して再分散→紙に塗る、として作っているようです。接着剤にどのようにして弾性(元の形状に戻る「バネ」性のこと)を与えるかはもちろん、粒径分布や接着剤表面の官能基、塗り方、組成、乾燥方法などを長年積み重ねたノウハウにより決めているのだと推測します。

 ③ヤモリとの共通点は?

 「多点でくっつける(引っかける)」という点が前回の記事→で見た通り、共通事項でしょう。もしかしたらそれなりに接着性が強い方に振ったら、Post-Itでもガラスの壁にぶら下がれるかもしれません! たぶん。 ただ、Post-Itとヤモリの足の違いとして、下図のように完全接着した場合の接着総面積はヤモリの足の方がかなり大きいことが予想されます。接着強度を本当に比較するには正確に測定しないとわからないのですが、実際には凹凸が酷かったり接着面にホコリがあったりすることを考慮すると、やはりヤモリの足の方に軍配があがるのでしょう。

post-it_05.pngヤモリの足での接着イメージ(赤いのが繊毛:Setae) 引用はこちら
細かい凹凸にも対応可能 
接着面上のゴミなどにも強い可能性があるらしい

 

 ④今後どうなるの?

 基本特許は随分と前に切れており、Post-It市場は今は十数社がひしめく争奪戦になっています。その中でも3M社はそのリーダとして存在感を発揮しているのは間違いないでしょう。あんまりケチをつけたくはないのですが、安いメーカ殿の製品は接着力がイマイチだったりする場合があり、筆者のポリシーとしては今のところPost-It一筋です。ただ対抗馬として有名なテープメーカ「リンテック」殿のように色々な形状のタイプを売り出し、「遊び」道具として、文房具以外の用途でもその戦いの場は広がっています。工業的にも用途が広がることを期待しましょう。

 ところでPost-Itにつき、思わぬ問題点が顕在化している事象があります。それは、図書館などでの古い書籍類・書物類への接着剤の残留。上記のような微妙な構造をしているため、引っぺがす時にどうしても被接着側にも接着剤が残るのです。これが紙魚(シミ)のエサになったり、黄変の原因になったりするようです(黄変に関しては以前少し記載しました→)。そのため図書館によってはPost-It類の使用を控えてもらうよう注意書きをしているところもあるとのことですが、そうした注意すべき事項は一般的には浸透していないようです(恥ずかしながら筆者も知りませんでした)。皆様気をつけましょう。

post-it_04.jpg黄変の例を示した写真 両面タイプのPost-Itでの事例のもよう
引用 → 

 ただしこの件はPost-Itのせいではなく、使用条件をきちんと考慮しましょうね、ということだと思います。思わぬ継時変化が出てくることはよくありますが、材料設計の際にはこうしたノウハウを是非織り込んで製品開発を進めて頂きたいですわ。

 それでは今回はこんなところで。

参考文献

  • 住友3M社 「Post-It」HP →  
  • 日東電工殿 「続・粘着テープ物語 その13
  • US特許 「”Acrylate copolymer microspheres” US 3691140 A」 → 
  • US特許 「”Repositionable pressure-sensitive adhesive sheet material” US 5194299 A」 → 
  • 日本フォーム工連・資材委員会・セミナー記録 「粘着紙の物理特性とアプリケーション(前編)」 → 
  • “To Post-it or Not to Post-it” the Smithsonian Institution Archives → 
  • “Adhesives: How sticky is your tape? – Man-made Products” Akron Global Polymer Academy→ 

 

関連書籍

[amazonjs asin=”B0013MW3PO” locale=”JP” title=”ポスト・イット 強粘着ふせん 75x25mm 90枚x5個 蛍光 500-5SSAN”][amazonjs asin=”B000IGS3XM” locale=”JP” title=”ポスト・イット ノート 超徳用 75x75mm 450枚 パステル CP-33SE”]
Avatar photo

Tshozo

投稿者の記事一覧

メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

関連記事

  1. 超多剤耐性結核の新しい治療法が 米国政府の承認を取得
  2. メタルフリー C-H活性化~触媒的ホウ素化
  3. 高分子鎖デザインがもたらすポリマーサイエンスの再創造|オンライン…
  4. 博士の学位はただの飾りか? 〜所得から見た学位取得後のキャリア〜…
  5. ミツバチに付くダニのはなし
  6. ベンゼンの直接アルキル化
  7. 光刺激で超分子ポリマーのらせんを反転させる
  8. ストリゴラクトン類縁体の構造活性相関研究 ―海外企業ポスドク―

注目情報

ピックアップ記事

  1. アルメニア初の化学系国際学会に行ってきた!②
  2. キャリー・マリス Kary Banks Mullis
  3. 第170回―「化学のジョブマーケットをブログで綴る」Chemjobber
  4. ロベルト・カー Roberto Car
  5. スタンリー・ウィッティンガム M. S. Whittingham
  6. ベンジル保護基 Benzyl (Bn) Protective Group
  7. 超難溶性ポリマーを水溶化するナノカプセル
  8. 化学研究ライフハック:ソーシャルブックマークを活用しよう!
  9. 総合化学大手5社、4-12月期の経常益大幅増
  10. 第117回―「感染症治療を志向したケミカルバイオロジー研究」Erin Carlson准教授

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2014年8月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

条件の「前後」も実験条件である【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

そのpH、“本当にその場所”の値ですか?ニードル式pHセンサーを使ってみた!

突然ですが、「培養の再現性がなんか悪い」「同じ条件のはずなのに結果がズレる」といった経験はあ…

「骨格編集」×「ナノカーボン合成」〜ナノカーボン合成の新戦略を実証〜

第719回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(忍久保研究室)博士後期課程2年の平…

【書評】立体化学 はじめの一歩

立体化学は,分子の三次元構造を理解するための重要な分野であり,有機化学や…

水のシミュレーション入門 — 水分子を計算機の中でどう”描く”か —

身近なのに、計算機にとって手強い"水"。本記事では、点電荷モデルから機械学習まで、その"描き方"の進…

◆◇◆◇ 第36回フォーラム・イン・ドージン開催のご案内 ◆◇◆◇

同仁化学研究所が熊本から世界へ情報発信するフォーラム・イン・ドージンの開催ご案内です。今年は『な…

『力』による円偏光発光のon/off制御を単一分子レベルで実現

第718回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 物質理工学院(相良研究室)博士後期課程2年の野中…

数日かかっていた反応機構解析を、わずか数分に!

機械学習ポテンシャルが変える計算化学の現在近年、DFT計算による反応機構解析は広く行われるよ…

海外ポスドクのオファーをもらう【アメリカで Ph.D. を取る: 進路編】

ポスドクとして海外に留学する場合、希望する研究室の教授に直接連絡を取り、面接などを通して適性を判断さ…

MDで観るトライボロジー 〜原子が擦れるその場をシミュレーション〜

軽くて強いのに摩耗に弱いチタン合金は、航空機や人工関節に広く使われています。原子が擦れ合うその場を分…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP