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スポットライトリサーチ

光で水素を放出する、軽量な水素キャリア材料の開発

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第248回のスポットライトリサーチは、東京工業大学物質理工学院(宮内研究室)・河村 玲哉さんにお願いしました。

水素は軽量、エネルギー密度が高い、廃棄物が水だけで済むなど、未来のエネルギーキャリアに有望な一つとされています。しかしながら可燃性の気体であるため、運搬・貯蔵に難があります。別の形で水素を運搬・貯蔵するために様々な材料が検討されていますが、今回の研究では「ホウ化水素シート」の可能性を示したモノとなっています。Nature Communications誌 原著論文とプレスリリースに公開されています。

“Photoinduced hydrogen release from hydrogen boride sheets”
Kawamura, R.; Cuong, N. T.; Fujita, T.; Ishibiki, R.; Hirabayashi, T.; Yamaguchi, A.; Matsuda, I.; Okada, S.; Kondo, T.; Miyauchi, M. Nat. Commun. 2019, 10, 4880. doi:10.1038/s41467-019-12903-1

研究室を主宰されている宮内 雅浩 教授から、河村さんについて以下の人物評を頂いています。今後は企業に就職されるとのことですが、修士論文執筆でお忙しい中のご回答を頂きまして、スタッフ一同感謝申し上げます。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

 河村君は明るくリーダーシップがあり、いろいろな研究のアイデアを発案してくれました。今回、ホウ化水素シートに光を当てるだけで水素が放出する機能を報告しましたが、それ以外にも量産化に関わる重要な知見を見出し、3件の特許発明者となりました。本人のコメントにもあるように、これらの成果は異分野の共同研究をもとにしています。共同研究において、お互いの専門を尊重し切磋琢磨しながら大きな目標に向かっていくプロセスも学んでもらえたと思います。こうした経験をもとに、企業で大活躍することを信じてやみません。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

近年、化石燃料に替わるエネルギー源として水素を用いようと世の中が動き始めており、爆発性のある水素を安全に運搬するために多くの検討がなされています。しかし既存技術のほとんどは水素の運搬や放出時に高圧や高温が必要となるものでした。
本成果は、新規二次元材料であるホウ化水素シートへ紫外光を照射することで水素を放出させることができる現象を見出し、そのメカニズムを第一原理計算によって明らかにしたものです。この水素放出は室温大気圧下という非常に穏やかな条件で達成されること、さらにホウ化水素シートは軽元素であるホウ素と水素から成るために質量当たりの水素の貯蔵量が多いことから、安全で軽量な水素キャリアとして応用が期待できます。

図 ホウ化水素シートのバンド構造と2つの許容遷移(左) 可視光と紫外光照射時の水素放出(右)
α→β遷移は可視光によって、α→γ遷移は紫外光によって引き起こされる。γ軌道はホウ素と水素の反結合性軌道からなり、α→γ遷移は水素の脱離を引き起こす。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

実は、ホウ化水素シートへの光照射は始め可視光で行う予定でした。しかしこの時光源の選択を誤った結果紫外光を照射してしまい、そのときに初めて水素の放出を確認しました。その後可視光を使っても実験の再現が取れず、原因究明をする過程で光源の波長が水素の放出に重要であることが明らかになりました。そこからは光学特性の測定を行ったり、第一原理計算によって電子構造を調べたりしながらメカニズムを推定して行きました。
今考えてみれば、「光照射による水素放出」「ホウ化水素シートの光学特性」「第一原理計算によって明らかになったユニークな電子構造」といった一つ一つの事象に過ぎないこれらの結果に、最もよく説明できる考察を与えて検証を行うというサイクルをうまく回せたことが本成果につながったと思います。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

研究室に所属するまでセラミックスや固体物理について学んできた自分にとって、ホウ素や水素という軽元素、二次元物質の物理はまったく未知のものでした。このような中で合成系や評価系を立ち上げて、研究の指針を見つけることに非常に苦心したことを覚えています。けれど指導教員の宮内雅浩先生や、ホウ化水素シートの合成法を最初に見出した筑波大学の近藤剛弘先生をはじめ、多くの方とディスカッションをさせていただき、結果を積み重ねることで困難を乗り越えてこれました。特に本成果は、様々な分野の研究者との協同によって生まれたものであり、皆さんとのチームワークの賜物であると考えています。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

学部4年生、研究室に配属されたばかりのときに「見つかったばかりで何ができるかわからない物質がある」と言われて飛びついたテーマとともに、ここまで来れたことに言い尽くせない思いを抱いています。
これから自分は修士課程を修了した後民間企業へ就職し、仕事としてはアカデミックからも化学からも遠ざかることが決まっています。しかし、人々にインパクトを与えるモノづくりをしたいという気持ちは変わっておらず、自分にとっては少し手段が変わるだけのようにも思います。そのうえ、化学を学び研究をしてきた経験と身に着けたスキルは自分にとってかけがえの無いものとなっています。
これからは少し離れたところから化学の魅力を伝えていくことで、化学に興味を持つ人、化学者を目指す人たちの助けになれたらいいな、なんて考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

今回の研究対象であるホウ化水素シートという新規二次元材料は、本成果において水素キャリアへの応用可能性を示すものでした。しかし私たちの研究グループは、ホウ化水素シートがまだまだ多くのユニークな可能性を示してくれると信じています。皆さんもホウ化水素シートや二次元材料のユニークな特性について少しでも興味を持ってくれると嬉しいです。

最後に、本研究に関することから日頃の生活に至ることまで熱心に相談に乗ってくださった宮内雅浩先生、本研究を遂行するにあたり何度もディスカッションやアドバイスをしてくださった筑波大学の近藤剛弘先生に深く感謝申し上げます。

研究者の略歴

名前:河村 玲哉
所属:東京工業大学 宮内研究室

略歴:
2018/3 東京工業大学 工学部無機材料工学科卒
2018/4~ 東京工業大学大学院 物質理工学院材料系材料コース

cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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