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化学者のつぶやき

官能基化オレフィンのクロスカップリング

はじめまして、bonaです。今回がはじめての執筆となりますが、面白い化学の話題、とりわけフレッシュな注目研究を紹介していきたいと思います。

さて、早速ですが、ご存知のように分子を構成する炭素骨格をつなぐ「炭素ー炭素結合反応」は有機合成化学の基本中の基本です。これまで幾多数多の炭素ー炭素結合反応が開発されてきました。新しい結合反応の開発は化合物の革新的な合成ルートを実現し、新規物質の創成や複雑化合物の短工程合成を実現します。

そのような結合反応を開発する際に、気になるのがそれぞれの炭素骨格がもっている官能基。名前の通り、とっても反応しやすい部分ですから、いかなる官能基があっても結合反応が進行すれば、例えば多数の官能基をもつ複雑天然物の合成に応用できるわけです。これは「官能基許容性」という有機合成反応を評価する一つの重要なファクターとして広く知られています。

さて、昨年末の話になりますが、炭素骨格としてオレフィン同士をつなげる新しい触媒反応が米国スクリプス研究所のPhil S. Baranのグループによって報告されました。

“Functionalized olefin cross-coupling to construct carbon–carbon bonds”

Lo, J. C.; Gui, L.; Yabe, Y.; Pan, C.–M.; Baran, P. S. Nature 2014516, 343. DOI:10.1038/nature14006

この反応は、新しい炭素ー炭素結合形成反応であるだけでなく、驚くべき官能基許容性を有しているのです。

それでは研究の背景から簡単に紹介していきましょう。

 

鉄触媒を用いたオレフィンの還元的カップリング反応

今回、紹介する鉄触媒を用いた異なるオレフィン同士の炭素ー炭素結合反応(還元的クロスカップリング反応)は、2014年に報告した鉄触媒を用いたオレフィンの還元的カップリング反応が発端となっています[1]

オレフィンの還元的カップリング反応といえば、オレフィンの「ヒドロ官能基化反応」が古くから知られています。例えば大学学部で教わるH. C. Brownによって開発されたヒドロホウ素化は水素原子とホウ素原子をつけるヒドロ官能基化反応です。近年では、鉄やコバルト、マンガンといった遷移金属触媒をもちいた触媒的ヒドロ官能基化反応が、安価な金属触媒かつ穏和な条件で反応が進行するという利点から盛んに研究されています[2]

触媒的ヒドロ官能基化反応は図1に示すように一電子酸化還元を伴うラジカル機構で進行すると考えられており、金属-ヒドリド錯体によって生じるラジカルドナーが求電子剤(青色)とカップリングを起こすことで生成物が得られます。

 

図1 金属触媒(Fe, Co, Mn)を用いたオレフィンのヒドロ官能基化

図1 金属触媒(Fe, Co, Mn)を用いたオレフィンのヒドロ官能基化

 

図1中の求電子剤としてオレフィンを用いることができれば、オレフィン間の還元的クロスカップリング反応が実現するのはお分かりになることでしょう。

しかしオレフィンのヒドロ官能基化による炭素ー炭素結合形成はほぼ例がなく、異なるオレフィン同士のカップリング、つまり還元的クロスカップリングに至っては未踏の化学反応でした。

Baranらは鉄触媒を用いた反応系を検討し、3級ラジカルもしくは2級ラジカル(ドナー)と電子求引基をもつオレフィン(アクセプター)間のカップリングが効率良く進行する反応系を発見しました(図2)。 2009年にD. L. Bogerのグループによって報告されている、Fe2(ox)2·6H2O及びNaBH4を用いたオレフィンのヒドロ官能基化反応[3]を基に条件の最適化が行われ、より触媒活性の高いFe(acac)3/PhSiH3を用いた反応系に行き着いています(このように書きましたが、BaranとBogerは同じスクリプス研究所でありそもそもこの反応をヒントにはじめたという経緯があるようです)。

 

Baranらによる鉄触媒を用いたオレフィンのクロスカップリング

図2 Baranらによる鉄触媒を用いたオレフィンのクロスカップリング

 

官能基化オレフィンのクロスカップリング

さて、Nature誌に掲載された今回の論文では、先行研究からのジャンプアップとしてボロン酸エステルやチオエーテル、ハロゲンなどの官能基を直接有するオレフィンをカップリングさせることに成功しています。反応形式は同じだろ?という声も聞こえてきそうですが、用いたオレフィンは様々な官能基を有しています。上述したように官能基は次の結合形成にも繋げることのできる重要な「アンカー」であるにもかかわらず、目的の反応の”邪魔”をするのです。

この反応においても官能基の電子的性質によってはラジカルを発生させる位置選択性の発現が難しくなりますし、酸化的付加やトランスメタル化などの触媒金属との反応、官能基の脱離などを制御する必要が生じるためカップリングの難易度は格段に上がります

そこでBaranらは、先行研究で用いていたFe(acac)3に換えてFe(dibm)3を用いることでラジカル生成の位置選択性や副反応を制御し、官能基化オレフィンのカップリングに成功しました。Fe(dibm)3はFe(acac)3に比べルイス酸性が低いため、ルイス塩基性の官能基をもつオレフィンでの反応に効果的なようです。またdibmはacacに比べ嵩高いため、ラジカル生成の位置選択性向上に寄与していると考えられます。

特筆すべきは、本論文では酸素、窒素、硫黄、ホウ素、ケイ素、ハロゲン官能基を有する60以上のオレフィンが適用可能であることが示されている点です。そのうちの多くの基質において収率は決して高いとは言えないですし、反応条件の細かいチューニングも必要ではありますが、このような難しい反応をこれだけ多くの基質に対しmajorで進行させられているだけ高く評価されるべきと筆者は思います。

 

スクリーンショット 2015-01-15 13.59.56

図3 Baranらによる官能基化オレフィンのクロスカップリング

 

また本法で注目していただきたいのは、従来法では困難とされていた、ハロアルキルを原料とした官能基をもつ化合物からもラジカル中心を生成させることができることです。なお空気中でも反応が進行することや、1時間という短時間で反応が集結することも長所として挙げられます。

長い過程を経る全合成などにおいては、反応性の高い官能基を維持しながら分子変換を行うことにしばしば問題が生じます。そのため、導入したい官能基を他の部分を侵すことなく、穏和な条件で分子骨格を構築する方法は非常に有用です。本論文で合成された分子は簡単な構造にも関わらずその90%以上が新規化合物であるらしく、本反応を用いることではじめて合成できる有用分子もこれから多く出てくるのではないでしょうか。

ちなみに、余談ですが、Baranらは自身のブログを所有していて、そこでも開発した反応のコツや合成した化合物の合成段階で苦労したところなどを紹介しています。今回の反応に関しても動画を含めて紹介されているのでぜひご覧になってはいかがでしょうか。

今後は配位子や反応条件の改良によって適用できる基質の幅がより広がることや、本反応が有用物質の合成において活躍することを期待したいと思います。

 

参考文献

[1] Lo, J. C.; Yabe, Y.; Pan, C.-M.; Baran, P. S. J. Am. Chem. Soc. 2014136, 1304. DOI:10.1021/ja4117632

[2] Isayama, S.; Mukaiyama, T. Chem. Lett198918, 1071. DOI: 10.1246/cl.1989.1071

[3] Ishikawa, H.; Colby, D. A.; Boger, D. L. 2008, 130, 420. DOI: 10.1021/ja078192m

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