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スポットライトリサーチ

キョウチクトウ科植物に含有される多量体型アルカロイドの完全化学合成に成功―ビスロイコノチンAおよびボウシゴニンBの世界初の全合成―

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第714回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院医学薬学府(天然物創薬化学研究室)博士課程後期3年の松宮諭史 さんにお願いしました。

今回ご紹介するのは、多量体型インドールアルカロイドのビスロイコノチンAおよびボウシゴニンBの全合成に関する研究です。

3次元的に広がりのある骨格を持つ多量型体天然物は、単量体型には見られないような生物への影響を示すことが報告されています。本研究では、有機分子触媒反応を用いて単量体型インドールアルカロイドに広く共通する「3-エチルピペリジン構造」を構築する方法を新たに開発し、生合成を模倣したカップリング反応により多量体型であるビスロイコノチンAおよびボウシゴニンBのエナンチオ選択的な全合成を報告されました。本成果は、Angew. Chem. Int. Ed. 誌 原著論文およびプレスリリースに公開されています。

Enantioselective Total Syntheses of Bisleuconothine A and Bousigonine B
Matsumiya, S.; Mizukami, Y.; Morita, A.; Hirata, K.; Shiomi, S.; Tominaga, S.; Kogure, N.; Takayama, H.; Kitajima, M.; Ishikawa, H., Angew. Chem. Int. Ed.2026, e6698305. DOI: 10.1002/anie.6698305

研究を指導されている石川勇人 教授から、松宮さんについて以下のコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

松宮君は、私が千葉大学に赴任した際に4年生として研究室に配属された、いわば「千葉大石川研一期生」です。配属当初は不斉反応開発に取り組んでもらいましたが、なかなか高いエナンチオ選択性が得られず、苦労の連続でした。しかし、その過程で見せた粘り強さと実験への真摯な姿勢は非常に印象的でした。

修士課程に進学してからは、その圧倒的な実験量と、セミナーなどで示される鋭い理解力・思考力に感心し、全合成プロジェクトを任せることにしました。当時すでに博士課程への進学も視野に入れていたため、まずは研究室で単離していた比較的複雑さの少ない天然物の全合成に挑戦してもらいました。しかし実際には、化合物の不安定性や取り扱いの難しさなど多くの課題があり、十分な量的供給ができずに何度も壁に突き当たりました。それでも松宮君は持ち前の粘り強さで課題を一つずつ克服し、見事に全合成を達成しました。その成果はすでにJournal of Organic Chemistry誌に掲載されています。

この経験を通じて、「松宮君ならさらに大きく複雑な分子も合成できるのではないか」と確信し、今回の三量体型インドールアルカロイドの全合成という極めて挑戦的なテーマを託しました。結果として私の予感は的中しました。多くの研究者が困難と考える工程においても、必要な原料を短期間で十分量供給し、反応条件を次々と最適化していきました。全合成研究における反応開発や条件最適化には、まず十分な量の基質を迅速に供給する能力が不可欠ですが、彼の研究姿勢を見ていると、その重要性を改めて実感させられます。そして、ここまで全合成研究に適性を示す学生は極めて稀であると感じています。

博士号取得後は製薬企業において創薬研究に従事する予定です。表向きには涼しい顔をしながらも、実際には誰よりも努力を重ね、有望な創薬シーズを次々と切り拓いていくことでしょう。その先に、世界中の患者さんを救う革新的な医薬品が生まれることを、指導教員として心から願っています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

キョウチクトウ科植物より単離されたビスロイコノチンA は、アスピドスペルマ型とエブルナン型のインドールアルカロイドが結合した二量体型アルカロイドであり、強力な抗がん活性を示します。同じくキョウチクトウ科植物より単離されたボウシゴニンBは、ビスロイコノチンAにさらに別のエブルナン型アルカロイドが結合した三量体型アルカロイドです。今回我々は、インドールアルカロイドに広く共通する3-エチルピペリジン骨格のエナンチオ選択的な合成法を開発しました。さらに本手法と生合成を模倣したカップリング反応を組み合わせることで、これら多量体型アルカロイドの効率的合成を達成しました。

具体的にはまず、環状エナミンを求核剤、アクロレイン誘導体を求電子剤として、二級アミン型有機触媒を介した不斉Michael反応を行った後、MeOHによるアセタール環化反応を進行させることで、高い収率かつエナンチオ選択性で3-エチルピペリジン骨格を有した二環性化合物を合成しました。続いて本反応を基に得られた光学活性化合物を共通中間体として、アスピドスペルマ型ユニットとエブルナン型ユニットの合成を行いました。最後に生合成模倣的なカップリング反応の進行を期待し、得られた両ユニットを酸性水溶液中で加熱しました。すると、完全な位置および立体選択性で所望のカップリング化合物が得られ、ビスロイコノチンAの不斉全合成を達成しました。また得られたビスロイコノチンAを再度エブルナン型ユニットとカップリングさせることで、ボウシゴニンBの不斉全合成にも成功しました。

 

本研究では、インドールアルカロイド類に共通する構造を⾒いだし、それを効率的に化学合成するとともに、共通の構成ユニットとして利⽤し、合成終盤でカップリングする戦略を採⽤しました。本戦略はインドールアルカロイドに限らず、さまざまな多量体型天然物の合成にも応⽤可能です。今後、複雑天然物の全合成研究がさらに発展し、それらを基盤とした創薬研究の加速に繋がることが期待されます。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

エブルナン型ユニット9の合成に思い入れがあります。実は論文で報告している9の合成ルートは短工程化された第二世代のルートです。研究を開始した当初は、有機触媒反応により得られる6を還元処理した10を両ユニットの共通中間体として想定していたため、10を出発物質として検討を行っていました。実際に10から9の合成は達成できたものの、一炭素減炭を行うために多くの工程を要してしまい、終盤のカップリング反応に十分な量を供給するには厳しい状況でした。そこで視点を変え、6を脱メトキシ化して得られるエノールエーテル7を共通中間体として再設定し、7より9の合成を目指すことにしました。その結果、7をオゾン分解することで、一炭素減炭されたアセタール12が一段階の変換で得られることが明らかとなり、9の効率的な合成を実現することが出来ました。当初の計画に捉われず、発想を柔軟に転換することの重要性を学んだ経験として、本合成は特に印象に残っています。また多量体型アルカロイドの普遍的な構成ユニットである9を比較的短い12工程で合成した点は、今後類縁天然物の合成を行う上でも非常に重要であったと考えています。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

二量体型アルカロイドであるビスロイコノチンAのNMR測定には苦労しました。原因は明らかになっておりませんが、ビスロイコノチンAと同様の二量化様式を有する化合物は、NMRスペクトルにおいてアスピドスペルマ型ユニット由来のピークのみが著しくブロードします。そのため13C-NMRにおいて一部ピークが明瞭に現れず、ベースライン上のノイズと区別することが困難でした(論文を投稿した際も、レビュワーからその点を指摘されています)。通常、測定時間を延長したりサンプル濃度を濃くしたりすることで解決可能ですが、合成終盤ということもあり量的供給が難しく、一時は窮地に立たされました。そこで理化学研究所の橋本卓也先生、越野広雪先生のご協力のもと、クライオプローブを用いた高感度測定を行っていただきました。その結果、僅かなサンプル量ながら論文掲載に十分なデータを取得することが出来ました。心から安堵すると同時に、自身の研究がたくさんの方々の支えによって成り立っていることを改めて実感しました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

修了後は研究職として製薬企業での勤務を予定しております。どのような形になるかは分かりませんが、有機合成化学を基盤としたモノづくりを通じて社会に貢献していきたいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

本稿をお読みいただきありがとうございます。ご紹介させていただいた内容は、高山廣光名誉教授が研究室を主宰されていたころから続く非常に歴史が深いテーマです。途中、鍵反応に用いるアクロレインが国内販売中止になるなどの危機を乗り越え、前任者の方々が紡いできてくださった本テーマを、多量体型アルカロイドの全合成という形で報告できたことを大変嬉しく光栄に思います。

今回幸運にもこのような成果を出す機会に恵まれましたが、これまでを振り返ると、目に見える結果が得られずに苦しんだ時間の方が長かったように思います。しかし、そのような状況でも目の前の課題に向き合い、自分なりに試行錯誤を重ねた経験は、研究者としての能力向上だけでなく、精神的な強さを培う上でも必要な過程であったと感じています。今後も現状に満足することなく、研究活動を通じて自身を成長させていく姿勢を大切にしていきたいと思います。

最後に、本研究を遂行するにあたり多大なる御指導を賜りました石川勇人先生、北島満里子先生に厚く御礼申し上げます。加えて、共に実験を行ってくれた水上さんをはじめとする共著者の皆様、貴重なご助言をいただいた石川研究室の皆様に感謝申し上げます。さらに、このような素晴らしい機会を与えてくださったChem-Stationスタッフの皆様に感謝申し上げます。

研究者の略歴


名前:松宮 諭史まつみや さとし
所属:千葉大学大学院医学薬学府先端創薬科学専攻 博⼠課程3年 天然物創薬化学研究室
略歴:
2022年3月 千葉大学薬学部薬科学科 卒業
2024年3月 千葉大学大学院医学薬学府総合薬品科学専攻 修了(指導教員:石川勇人教授)

関連リンク

  1. 論文(リンク
  2. プレスリリース(リンク
  3. 研究室(リンク

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