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スポットライトリサーチ

光で結晶の傷が癒える!?光応答性分子を用いた自己修復への挑戦

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第713回のスポットライトリサーチは、立教大学理学部(森本研究室)に所属されていた西村涼 助教にお願いしました。現在、西村先生は山梨大学大学院総合研究部にてPIをされています(西村研究室リンク)。

今回ご紹介するのは、光応答する有機結晶に関する研究です。

有機結晶は高い秩序構造を持つ一方、一般的に脆く、機械的な変形や損傷に弱いという課題があります。そのような機械特性制御を光によって行うことは、非接触・高速・空間選択的という点で魅力的です。本研究では、光応答性分子として知られるジアリールエテンにアルキル鎖を導入した分子を合成し、その結晶が光照射によって柔軟性と脆性を可逆的に切り替え、さらに亀裂を自己修復することを明らかにされました。本成果は、J. Am. Chem. Soc. 誌 原著論文およびプレスリリースに公開されています。

Photoswitchable Flexible-Brittle Transition with Reversible Cracking and Healing in a Photochromic Crystal
Nishimura, R.; Fukuchi, J.; Hirai, Y.; Ohmura, T.; Sugiyama, H.; Morimoto, M., J. Am. Chem. Soc.2026, 148, 17958–17966. DOI: 10.1021/jacs.6c01187

研究室を主宰されている森本正和 教授(立教大学)から、西村先生について以下のコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

西村先生と私の付き合いは西村先生が龍谷大学内田研究室の学生だったころからですが、西村先生は当時から面白い研究をしていました。立教大学に来ていただいたあとも、持ち前の能力に一層磨きをかけ、独自の研究を展開されました。科学者としての「嗅覚」と「鑑識眼」に優れており、いつも落ち着いていて、頼れる存在です。2026年4月からは山梨大学で研究室を主宰されており、今後益々活躍されることと思います。
福地さんは、西村先生との阿吽の呼吸により、今回の論文の内容だけでなく、他にも多くのテーマを同時並行で進めていました。仕事の手際がとてもよく、何でもスマートな感じでやってのけていました。多忙な中でも規律正しい研究室生活を送っており、その姿に私は感心していました。ユーモアにあふれ、私のくだらない雑談や独り言にも付き合ってくれる優しい人柄で、私のメンタルケアにも貢献してくれました。
西村先生と福地さん、共同研究者の方々の歯車ががっちり噛み合ったことで、今回の興味深い現象が論文発表されました。おめでとうございます!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

本研究では、「光照射によって結晶の柔軟性が変化し、さらに損傷を自己修復する有機結晶」を開発しました。一般に結晶は「硬くて割れやすい」と考えられていますが、本研究で扱った有機結晶は、ゴムのようにしなやかに曲がる柔軟性を示します。

さらに、紫外光を照射するとこの柔軟性が失われ、結晶は硬く脆い状態へと変化します。一方で、可視光を照射すると再び元の柔軟な状態へと戻ることから、光によって結晶の柔軟性を可逆的に制御できることを見出しました。

加えて興味深いことに、紫外光照射により結晶表面に生じたひび割れが、可視光照射によって自発的に修復される「自己修復現象」も確認されました。これは、人間の皮膚が傷を治すように、結晶自身が損傷を回復しているような現象です。

これまで自己修復材料の多くは高分子材料(プラスチックやゲルなど)を中心に研究されてきましたが、分子が規則正しく配列した「結晶」においてこのような現象が観測される例は極めて稀であり、新たな材料科学の可能性を示すものです。

今後は、本研究で得られた知見を基に自己修復機能の分子設計指針を確立し、さまざまな固体材料への展開が期待されます。

詳しい現象は、ぜひ論文の動画でご覧ください!

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

この研究は、「柔らかい結晶を作りたい」というシンプルな発想から始まりました。私は学生の頃から、光で色が変わるフォトクロミック分子であるジアリールエテンを用いた機能性材料の研究を続けてきました。そこで、比較的素直な発想として、液晶分子にならい、ジアリールエテンに柔軟な部分(アルキル鎖)を導入してみることにしました。

この分子は、2021年に立教大学に着任した直後、がむしゃらに分子設計と合成に取り組んでいた頃に作ったもので、個人的にも思い入れのある分子の一つです。当時すでに、得られた結晶が「なんとなく柔らかい」ことや、結晶の先端が糸がほどけるように崩れていく様子は観察していました。しかし、その現象の面白さを十分に見出せず、そのまま眠らせてしまっていました。

その翌年、本論文を共にまとめた福地純君(2025年度修士課程修了)にこの結晶を触ってもらったところ、光照射によって柔軟性が切り替わる現象、さらに予想外だった自己修復現象が見出されました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

本研究で特に苦労したのは、結晶の作成と取り扱いです。分子自体が柔軟であるため、アルキル鎖の長さによっては結晶化しにくかったり、期待していたような層構造を形成しなかったりと、適切な結晶化条件を見つけるのにかなり試行錯誤が必要でした。

また、得られた結晶の扱いも一筋縄ではいきませんでした。金属ニードルで一本取り出そうとするだけで、結晶が曲がってしまったり、簡単に壊れてしまったりするため、まっすぐで綺麗な結晶を準備するのにも苦労しました。この点については、福地君に結晶の扱いに慣れてもらうしかなく、相当な数の実験をこなしてもらったと思います。

さらに、修復メカニズムの解明にも時間がかかりました。当初は分子レベルの視点から、結晶中でのアルキル鎖の運動や分子間相互作用に着目して解析を進めていましたが、最終的には電子顕微鏡観察や熱分析の結果から、光照射によって結晶表面が融解し、その後再結晶化することで修復が起きている、という現象に基づく理解に至りました。この点は、本研究の理解を大きく前進させたポイントだったと感じています。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

私自身の興味は、分子の集合体(結晶に限らず)を設計して、面白い機能を世にたくさん出していきたいという、大雑把な目標はあります。もちろん研究自体も大事ですが、その過程を通じて社会で活躍できる人材を輩出したいし、化学に興味を持つ人を増やしていきたい。それが私自身の化学との関わりになっていくかと思います。

そのためには、研究を行っている私たち自身だけでなく、誰が見ても「面白い!」と思えるような現象や材料を見つけ出すことが大事だと考えています。

日々分子を合成し、これまでになかった「面白い」を探求していきたいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

面白い現象というのは、予想だにしないところから生まれるものです。また、その現象が「面白い」かどうかは、人によって感じ方も変わると思います。実際に私の研究も、他の人が見て面白いと感じるかどうかは分かりません。ただ、ある現象が面白いかどうかを判断するための知識は、日頃から蓄えておくべきですし、おかしなことを見逃さないよう、研究に対する集中力と行動力も非常に大事だと思います。また、そのような突発的な現象を受け取れるような精神状態を保つことも重要だと考えていますので、そのような環境を作る、人間関係を作る、コミュニケーションをとる事も我々スタッフの役割だと思って努めています。

最後に、この研究に携わっていただいた、立教大学理学部化学科の森本正和教授、当時学生の福地純 氏、森本研究室の学生の皆様、共著者の先生方にこの場を借りて御礼申し上げます。また、このような機会を下さった、Chem-Stationのスタッフの皆様に厚く御礼申し上げます。

この研究が、誰かの何かに役立つことを願っています。

研究者の略歴


名前:西村 涼にしむら りょう
所属:山梨大学大学院総合研究部工学域物質科学系(工学部 応用化学コース)助教(PI)
略歴:
2016年3月 龍谷大学理工学部物質化学科 卒業 (内田欣吾教授)
2018年3月 龍谷大学理工学研究科物質化学専攻修士課程 修了(内田欣吾教授)
2020年3月 龍谷大学理工学研究科物質化学専攻博士後期課程 修了(内田欣吾教授)※早期学位取得
2018年4月―2020年3月 日本学術振興会特別研究員(DC1)(内田欣吾教授)
2020年4月―2021年3月 日本学術振興会特別研究員(PD)(内田欣吾教授)※早期学位取得に伴う資格変更
2021年4月―2026年3月 立教大学理学部化学科 助教 (森本正和研究室)
2026年4月―現在     山梨大学大学院総合研究部工学域物質科学系 助教(PI)

関連リンク

  1. S. Bonardd et al., Self-Healing Polymeric Soft Actuators, Chem. Rev. 2023, 123, 736–810. DOI: 10.1021/acs.chemrev.2c00418
  2. T. Aida et al., Mechanically Robust, Readily Repairable Polymers via Tailored Noncovalent Cross-Linking, Science 2017, 359, 72-76. DOI: 10.1126/science.aam7588
  3. M. Reddy et al., Autonomous Self-Repair in Piezoelectric Molecular Crystals, Science 2021, 373, 321-327. DOI: 10.1126/science.abg3886
  4. P. Naumov et al., Self-Healing Crystals, Nat. Rev. Chem. 2025, 9, 343-355. DOI: 10.1038/s41570-025-00706-6

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大学院生です。ケモインフォマティクス→触媒

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