筆者の研究室では有機合成を行っています。合成も大変ですが、何より大変なのが精製操作。
最近、とある研究者・技術との出会いによって、筆者の研究チームの精製操作に革命が起こりつつあります。
本記事ではその鍵となっている『モノリスカラム』について、開発者の方の寄稿を元に紹介したいと思います!
反応が終わっても、精製で一日が終わる
有機合成では、反応そのものよりも、むしろカラム精製に時間を取られていることがあります。
反応が終わったあとに、カラムを流し、分画し、濃縮し、必要ならもう一度精製する。
この流れを繰り返していると、思っている以上に一日が削られます。
新しい反応条件を試したいのに、精製が律速になる。そう感じている人は少なくないはずです。
そうした日常的な不便を少しでも軽くできないか?
その解決策となりうるのが、今回紹介するプレパックタイプのモノリスカラムです!

図1: 食用色素の分離比較写真。粒子径63μmシリカゲル粒子充填カラム(左)、モノリスカラム(右)。① rhodamine B ② brilliant blue FCF, ③ allura red AC, 酢酸エチル:メタノール = 3 : 2。シリカゲル粒子充填カラムの場合、③は分離中に分散してしまう。
分離性能が良いカラム→カラムや溶媒は小さく→研究のスピードアップに
モノリスカラムは、多くの人が精製操作に用いる粒子状シリカゲルではなく、一体型の多孔質シリカゲルであるシリカモノリスを充てんしたカラムです。
電子顕微鏡で見ると数ミクロンのシリカ骨格がジャングルジムのように三次元的に連結しており、その隙間もカラム全体で連続的につながっていて流路となっています。
シリカモノリスでは、高い空隙率と連続した流路を通って溶媒が流れるため、粒子充填カラムと比べて流動抵抗が著しく低くなります。
さらに、数ミクロンの均一なシリカ骨格により溶質バンドの広がりも抑えられるため低圧でありながら高い分離性能を実現できます。
その結果、ガラスカラムやフラッシュクロマトグラフィーの使いやすさを維持しながら高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の分取カラムに匹敵する分離性能を発揮できるプレパック型シリカゲルカラムとして利用できます。
モノリスカラムにはガラスカラムとフラッシュカラムの2種類があります。
ガラスカラムは自己充填シリカゲルカラムに近い感覚で使えるように設計されており、簡易ポンプを用いた低圧で短時間の精製が可能です。
フラッシュカラムはバイオタージ等の多くのフラッシュ精製用装置でも使いやすいように作られています。
どちらも薄層クロマトグラフィー(TLC)との相関を見ながら条件設計しやすく、日常の crude 精製を効率化するツールといえます。

図2: ガラスカラム(左)、フラッシュカラム(中央)、モノリスの電子顕微鏡写真(右)。分離するcrude量に応じて最適なカラムサイズがある。
モノリスカラムは上記の性質をもつため、分離性能が高く、必要以上に大きなカラムを使わずに済みます。それだけで操作が簡単になります。
小さいカラムでも多めのCrudeサンプルをロードして分離でき、分離の再現も取りやすいため毎回の精製条件を考える手間も下がります。
カラムを小さくできると分離に必要な展開溶媒量も半分以下に抑えられます。
回収するフラクション液量も減るので、その後のエバポレーターでの濃縮も楽になります[1]。
つまり、分けたあとの濃縮、溶媒処理、廃液管理、溶媒のコストまで含めて、全体が簡便化されるのです。
カラム精製での全体の作業時間が短くなり、粗生成物から複数の副生成物まで一度で分離ができるようになります。
研究室によっては、学部生でも「反応→カラム精製→NMR測定」を一日に3回できるほどまで実験のスピードが上がった、という興味深い導入テスト結果もあります。合成化学では、一回の大成功よりも、試行回数の多さが効いてくる場面が少なくありません。
カラム精製の速度は、そのまま研究のスピードアップにつながります。

図3: モノリスカラムで実証された廃棄物削減効果。従来品は粒子径63μm球状シリカゲル充填カラム(参考文献1より)。
丁寧に再利用するほど価値が出る
分析用HPLCカラムのように、一つのカラムを繰り返し再利用できる点はモノリスカラムの大きな魅力です。
カラムが汚れてしまった場合、塩酸を添加したメタノールなどで洗えば汚れが除去できて再利用できます。
ただし、再利用できるからといってカラムを雑に扱っても大丈夫という訳ではありません。
試料の前処理、ロードの仕方、使用後の洗浄、保管方法でカラムの寿命は変わります。
例えば、シリカゲル粒子と組み合わせた反応混合物を前処理や、ガラスカラムでは必要に応じて少量のシリカ粒子をプレフィルターのように用い方法が必要になります。
特にフラッシュモノリスカラムでは、展開溶媒を残したまま数時間放置するとカラムが劣化するおそれもあり使用後は速やかに洗浄することが重要です。
モノリスカラムでは化合物との相性や最初の慣れが大事
性能が良いということは、それだけ操作が難しくなるということでもあります。
これまでの粒子充填カラムと同じ操作感とは大きく変わってきますので、導入にそれなりのトレーニングが必要になります。
開発側の感覚としては、粒子充填シリカカラムとモノリスで、その使用感は普通自動車とスーパーカーほど違ってきます。
また、どんな試料でも無条件に分離がうまくいくわけではありません。
サンプル負荷量やロード液量が大きすぎると分離性能がこれまでの粒子充填カラムまで低下することや、
Rf が極めて近い成分同士では分離が難しい場合もあります。
一般的な中性シリカゲルより酸性度が高く、化合物によっては加水分解などが起こりうる可能性もあります。
分離する化合物の性質によって、粒子充填カラムと使い分ける必要が出てきます。
慣れてしまいさえすれば、難溶性化合物の精製でも強い武器になる
どんな試料でモノリスカラムを試していくのがよいかという点ですが、
いきなりRf値の差が近すぎるCrudeのカラム分離など難しい精製をいきなり試すより、
いつも精製している反応 crude を精製してまず差を体感していく、という導入方法がもっとも実践的です。
TLCでのRf 値 を 0.2〜0.4 の範囲に調整するように展開溶媒とフラクション回収量の条件設計をして、
負荷液量で分離性能が変わる点を実感しながら慣れていくのがスムーズでしょう。
さらに、溶解度の低下にともなう析出や閉塞といった粒子充填カラムで問題になることがある難溶性化合物の精製でも分離性能を保ちながら精製を進めやすい利点があります。
モノリスカラムではカラム内での過飽和状態の安定化を利用して、溶解性の高いハロゲン化溶剤を使用しない条件でも難溶性化合物の精製・高純度化が可能であった例もあります[2]。
ハロゲン系溶媒への依存を下げながら高純度化を狙える可能性があるのは、実用上も環境面でも意味があります。
すなわち、普段使いでも強く、難しい系ではさらに真価が出る可能性が見出されています。

図4: ハロゲンフリー精製と併せたカラム精製後の自発的結晶化により高峻度化を実現した低溶解性化合物DACT-IIの精製例(参考文献2より)。
最後に
モノリスカラムは性能が良い反面、ハンドリングの難しさ、酸性シリカと化合物との相性といった課題はありますが、
幸いラインナップには小型のカラムもあるため、初期導入のテストや分解が懸念される試料では、少量サンプルでの事前確認が極めて効率的に行えます。
価格だけを見ると一本が1万円以上であり、一般的なシリカカラムより高価に感じられるはずです。
しかし、何回使えるのか・どれだけ溶媒やシリカの使用量を減らせるのか・どれだけ濃縮や再精製の負担を下げられるのかという総合的なコストが大切と私たちは考えます。
使用の注意点をしっかりと守ってさえすれば、いつもの crudeのカラム精製が極めて楽になります。
普段の精製で差が見えれば、このカラムの使いどころも見えやすくなります。
筆者の研究チーム(もはや隠せていない気がするので書いてしまいますが、名古屋大学理学部有機化学研究室)でも、初期導入は粒子カラムと勝手が大きく変わるため苦労しました。
しかし慣れるとこれまでのカラム精製が本当に楽になり、研究が加速しました。
特に、極性・分子量ともに非常に似通った大環状芳香族分子の分離に威力を発揮してくれています。
モノリスカラムによって初めて精製に成功した大環状芳香族分子があり、おかげさまで現在、その分子の論文執筆に至ることができています。
また、最近の世界情勢不安で溶媒の調達が難しくなっていますが、使用溶媒量が減ることで非常に助かります。
もちろん、単純な荒精製等ではこれまでのシリカゲル粒子がコストパフォーマンスに優れている側面もあります。
モノリスカラムは特殊な場面の精製ツールや有機合成の日常的な精製を一段効率化するための道具として捉えて粒子シリカ充填カラムとの使い分けができると、
研究全体が進みやすくなるかと思います。
現在、モノリスカラムは代理店経由等でテスト販売を開始したとのことで、挑戦されてみてはいかがでしょうか。
参考文献・外部サイト
- R. Miyamoto, K. Kanamori*, H. Nakagawa, H. Tanaka, H. Kaji, “Significant Waste Reduction in Liquid Chromatography by a Reusable Large-Volume Monolithic Silica Column” ACS Sustainable Chem. Eng. 2024, 12, 6509−6518, DOI: 10.1021/acssuschemeng.3c07671
- R. Miyamoto, K. Kanamori*, H. Nakagawa, H. Tanaka, H. Kaji, “Halogen-Free Purification of Low-Solubility Compounds in Supersaturated Liquid Chromatography Using Monolithic Silica” ACS Sustainable Chem. Eng. 2024, 12, 11467−11472, DOI: 10.1021/acssuschemeng.4c02960
- 製造元:フリューゲルズ株式会社のサイト https://flugelz.co.jp






























