前回まで
1. 設定温度と系内の実温度のお話
2. 温度値をどう判断するか
3. 反応操作をしなくても、化合物は変化する
4. わざと失敗する実験
5. 水分はどこにあるのか
6.蒸留操作で水はどう動くのか
7.酸素は系内に入り込み続ける
8.酸素は見えないが、時に「色」として現れる
圧力は設定値だけでは分からない
温度、水分、酸素と同様に、圧力も設定した値が、そのまま反応場を表しているとは限りません。
加圧反応や減圧操作を設定値だけで議論すると、
実際の反応場や操作環境を見誤るリスクがあります。
圧力を測定せず反応傾向が見えなかったケース
以下は、反応性の違いは分かったものの、その差を定量的に評価できなかった例です。
私の在籍していた頃の研究室は
水素添加(接触還元)反応は風船を三重くらいに重ねて
圧をかけて行うことがスタンダードでした。
一般的なオレフィンの還元に対しては速やかに反応が完結するので、
特に問題視する人はいませんでした。
一方で保護基の脱離反応では保護基が外れたり、外れなかったりまちまちで、
特に2つの保護基を同時に外す工程では上記操作で片方しか外れず、問題視されました。
そこで学校に眠っていたオートクレーブを発掘し、
より高圧条件で反応を行うことで2つの保護基を脱離させることができました。
ある日、脱保護反応をかけようとしましたが、オートクレーブが使用中でした。
待てない私は試しに5重にした風船で反応をしかけました。
すると反応が完結しました。
その時私は「圧力が高いほど反応性が良い」という定性的な知見は持っていました。
しかし反応系の圧力値を測定していなかったため、実際に反応場が何MPaだったのかはブラックボックスのままで、
定量的な議論ができませんでした。
図 オートクレーブ vs 風船 片方の圧力を測定してないので本質は分かりません。

減圧蒸留の傾向を見誤るケース
減圧蒸留実験をしていた時の話です。
減圧蒸留のスケールアップをした際に、登頂温度が異なることに気づきました。
小スケールの時は、実測した登頂温度がCOX線図を用いて算出した登頂温度と同等だったのに対し、
スケールアップをした際には10℃程度乖離がありました。
原因調査をすると、ポンプ手前で測定した圧力と、実際の釜側の圧力が大きく異なっていました。
原因は接続部に隙間があり、常に大気を吸引していたことでした。
つまり、ポンプの圧力計が示していた値と、実際に蒸留が行われていた圧力は一致していなかったのです。
結果、その蒸留は傾向は見れたものの
目的の減圧度での各留分の登頂温度は正確には分かりませんでした。
このように系内の圧力が均一でないケースがあります。
どこを測るかで見かけ上の圧力が変わってきてしまうのです。
そのため、単純な登頂温度だけでは議論できません。沸点温度は圧力で変わります。
理論値に近似した沸点温度なのか、
異なる場合、系内圧力は正しく測定できているのか疑う必要があります。
図 減圧蒸留の測定箇所で圧力値が変わっている。

まとめ
実験における圧力は、見落とされやすい管理要素です。
特にラボ実験では、どこの圧力を測定しているのか、
本当に反応場の圧力を反映しているのか、という視点が重要になります。
圧力は設定するものではなく、反応場で成立している値を把握・管理するものです。
設定値を見るだけではなく、「どこの圧力を測定しているのか」を意識して初めて、再現性のある実験条件になります。
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