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化学者のつぶやき

無保護環状アミンをワンポットで多重官能基化する

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脂環式アミン類の直截的C–H官能基化反応が開発された。保護基や遷移金属触媒を必要としない本手法は、環状アミン類に対して一挙に三つの官能基の導入が可能である。

脂環式アミン類の直截的C–H官能基化反応

含窒素ヘテロ環化合物は生物活性分子に頻出する重要な化合物群である。豊富な化学原料である脂環式アミン類を直截的に官能基化し、簡便に置換ヘテロ環化合物へ導く手法は、医農薬品開発において待望される。このような背景から、脂環式アミン類の直截的C–H官能基化反応は数多く報告があるが、その多くはアミンの保護が必要であり、無保護の二級アミンに対して同時に二つ以上の官能基を導入した例はない。

無保護環状アミン類の直截的官能基化の古典的な例として、リチオ化されたピロリジンのβ位C–H官能基化反応が古くから知られる。本反応ではリチウムアミドからケトンへのヒドリド移動により環状イミンが生成する(図1A)[1,2]。イミンは即座に脱プロトン化され、1-アザアリルアニオンのケトンへの付加により三級アルコールを与える。以前、Florida大学のSeidelらは、この知見をもとに環状イミンを経由した無保護脂環式アミンのa位直截的官能基化を報告した(図1B)[3,4]。反応条件を精査することで1-アザアリルアニオンの生成を抑制し、種々の官能基の導入に成功した。

今回Seidelらは環状イミンから発生させた1-アザアリルアニオンをアルキル化することで、無保護アミンのβ位官能基化を達成した。生じたイミンを還元することで一置換アミンへ、a位の官能基化によって二置換アミンへ変換できる。さらに、二官能基化されたリチウムアミドのさらなる官能基化により、最大で三つの官能基をワンポットで無保護アミンに導入することが可能である(図1C)。

図1. (A) 無保護環状アミン類の古典的な直截官能基化、(B) 環状イミンを用いたa位の官能基化、(C) 今回の反応

 

“Rapid Functionalization of Multiple C–H Bonds in Unprotected Alicyclic Amines”

Chen, A.; Paul, A.; Abboud, K. A.; Seidel, D.

Nat. Chem. 2020, 12, 545–550. DOI: 10.1038/s41557-020-0438-z

論文著者の紹介


研究者:Daniel Seidel
研究者の経歴:
–1998 BSc, Friedrich-Schiller Universität, Germany (Prof. E. G. Jäger)
1998–2002 Ph.D., University of Texas, USA (Prof. J. L. Sessler)
2002–2005 Postdoc, Harvard University, USA (Prof. D. A. Evans)
2005–2011 Assistant Professor, Rutgers University, USA
2011–2014 Associate Professor, Rutgers University, USA
2014–2017 Professor, Rutgers University, USA
2017– Professor, University of Florida, USA

研究内容:アミンのC–H官能基化反応の開発、新規不斉触媒の開発

論文の概要

本反応は次の機構で進行する(図2A)。まず、1のリチオ化で生じたIから、ケトンへヒドリドが移動し環状イミンIIを与える。LDAで処理することで発生した1-アザアリルアニオンIIIは、アルキルハライドとの求核置換反応によりβ位置換体IVを与える。イミンIVを還元して生じた脂環式アミン2は、単離を容易にするためカーバマート3へと変換される。一方、IVに有機リチウム試薬を作用させた後、プロトン化すると二置換体4が、ケトンを作用させると環状イミンVIが得られる。VIは有機リチウム試薬による攻撃を受けa, b, a’-三置換体5を与える。

本反応における求電子剤はベンジル、アリル、アルキルハライドが使用可能で、アリール基上にメチル基(3a)やシアノ基(3b)をもつベンジルハライドも利用できた(図2B)。また、ブロモ基をもつベンジルハライド(3c)を用いた場合にもブロモ基を損なうことなく反応が進行した。さらに、アルキル基上にエーテル(3d,3e)やエステル(3f)、ハロゲン(3g)が存在しても所望の生成物が得られた。加えて、ピペラジン(3h)や中員環のアミン(3i)を用いても中程度から良好な収率で生成物を与えた。a位およびa’位への求核付加反応では、アルキルリチウムやアリールリチウム(4a–4e,5a5c)が利用でき、ジアステレオ選択的に反応が進行した(図2C,2D)。

図2. (A) 反応機構、(B) b-官能基化の基質適用範囲、(C) a, b-官能基化の基質適用範囲、(D) a, b, a’-官能基化の基質適用範囲

 

以上、環状アミン類の一工程での多重官能基化反応が開発された。本手法はアミンの保護が必要なく、立体選択的に反応が進行する。特殊な試薬や触媒を使用しない、新奇ヘテロ環化合物迅速合成法として利用されることが期待される。

参考文献

  1. Wittig, G.; Heese, A. Hydrid-Übertragung von Lithium-Pyrrolidid auf Azomethine. Liebigs Ann. Chem. 1971, 746, 174–184. DOI : 1002/jlac.19717460118
  2. Wittig, G.; Heese, A. Zur Reaktionsweise N‐Metallierter Acyclischer und Cyclischer Sekundärer Amine. Liebigs Ann. Chem. 1971, 746, 149–173. DOI : 1002/jlac.19717460117
  3. Chen, W.; Ma, L. Paul, A.; Seidel, D. Direct α-C–H Bond Functionalization of Unprotected Cyclic Amines. Nat. Chem. 2018, 10, 165–169. DOI : 10.1038/nchem.2871
  4. Paul, A.; Seidel, D. α‐Functionalization of Cyclic Secondary Amines: Lewis Acid Promoted Addition of Organometallics to Transient Imines. J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 8778–8782. DOI : 10.1021/jacs.9b04325
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