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- 何をする反応か — Fmoc-SPPS のピペリジン処理中に、Asp 残基の側鎖エステルが隣の主鎖アミド窒素に分子内攻撃され、5員環イミド(アスパルチミド)へ環化してしまう望まない副反応。
- 何ができるか — α-/β-(イソ)アスパルチルペプチド、D体(エピマー)、ピペリジド付加体という分離困難な不純物群。しかも加水分解体は目的物と等質量で質量分析に映らない。
- いつ使うか — 使う反応ではなく避けるべき反応。Asp-Gly/Asp-Asn/Asp-Ser を含む配列を組む前に、保護基(OMpe・OBno・CSY 等)と脱保護条件(弱塩基・酸性添加剤・低温)を決めておく。
概要
アスパルチミド化(アスパルトイミド化, Asi)とは、ペプチド中のアスパラギン酸(Asp)残基の側鎖カルボニルが、 すぐC末端側にある残基の主鎖アミド窒素に分子内攻撃されて5員環スクシンイミドを生じる副反応である[22]。 Fmoc 法固相合成(Fmoc-SPPS)では毎サイクル行うピペリジン処理がこの環化を触媒するため、現在のペプチド合成における最も厄介な副反応の一つとされる[22]。
問題の本質は、生じたアスパルチミドがその先で複数の副生成物に分岐する点にある[22]。 ① 加水分解により α-アスパルチルペプチドと β-(イソ)アスパルチルペプチドの混合物、 ② 環内α位が酸性化することによるエピメリ化、③ ピペリジン等の求核性塩基が開環付加したピペリジド付加体、 ④ さらに N 末端でピペラジン-2,5-ジオンを形成しての鎖伸長停止[14]などの問題を引き起こす。とりわけ厄介なのは、加水分解生成物が目的物と完全に等質量であることで、この「見えなさ」ゆえに 化学タンパク質合成の現場では長らく見落とされてきた[20]。
現象自体は1888年の Piutti による α-/β-アスパラギン研究にまで遡るが、Boc 法の時代には Asp(OcHex) と嵩高い塩基の組み合わせで比較的抑えられていた。塩基性脱保護を毎サイクル必須とする Fmoc 法への移行によって遭遇頻度が飛躍的に増大したという歴史的経緯がある[22]。
反応機構
塩基触媒による環化
Asp 残基のC末端側の主鎖アミドの脱プロトン化が、β-カルボキシルのカルボニルへの求核攻撃を 引き起こす。
(1) 脱プロトン化 — ピペリジン等の塩基が、Asp のすぐC末端側の残基の主鎖アミド N–H を引き抜く。
(2) 分子内求核攻撃 — 生じたアミドアニオンの窒素が、Asp 側鎖 β-エステルのカルボニル炭素を攻撃する。
(3) 脱離 — アルコキシド(Asp(OtBu) なら tBuO⁻)が脱離し、5員環スクシンイミドが生成する。
N–H の脱プロトン化をトリガーとするため、塩基の強さ(共役酸の pKa)・濃度・接触時間が決定要因になる。 実際 DBU(共役酸 pKa 13.5)はピペリジン(同 11.1)よりもアスパルチミド化を促進し、 モルホリン(同 8.4)では大きく抑えられる[22][18]。機構の最も直接的な証拠は、 主鎖アミド N–H をベンジル化して塞ぐ(Hmb / Dmb 主鎖保護)で、この反応が止まることである[2][9]。
アスパルチミドの下流
| 経路 | 生成物 | 親ペプチド基準の質量差 |
|---|---|---|
| 加水分解(再水和) | α-アスパルチルペプチド + β-(イソ)体(総説では β:α ≈ 3:1) | 0 Da(等質量) |
| α位のエピメリ化 | D体(α-L / α-D / β-L / β-D の4種に分岐しうる) | 0 Da(等質量) |
| 塩基による求核開環 | α-/β-ピペリジド付加体 | +67 Da |
| (環状イミドのまま検出) | アスパルチミド | −18 Da |
さらに、ピペリジド化した鎖の N 末端でジケトピペラジンが生じると鎖伸長が止まり、収率そのものが低下する[14]。
補足:計算化学と酸触媒経路
スクシンイミド形成の DFT 研究は、リン酸イオン触媒下で環化が律速(障壁 約 100 kJ/mol ≈ 24 kcal/mol)[28]、 Asn–His 配列では His 側鎖が分子内塩基として働き律速障壁 約 20 kcal/mol[27] と見積もられている(タンパク質老化研究の文脈で調査されている)。
Boc-SPPS でアスパルチミド化が相対的に少ないのは Asp(OcHex) と嵩高い塩基(DIEA)の組み合わせによるが、 最終の HF 処理では酸触媒によるアスパルチミド化が起こりうる[22]。
特徴・適用範囲・類似反応との比較
環化が分子内反応で、しかも最も生成しやすい5員環をとる。 Fmoc 法では毎サイクル塩基に曝されるため、1回あたり 0.1% 程度でも100サイクルでは無視できない量まで累積する。 生成物の一部は目的物と等質量であるため、通常の LC-MS を素通りしてしまう。引き金が主鎖アミド N–H の脱プロトン化に限られるため、 その N–H を塞ぐ(Hmb / Dmb)か、β-カルボニルの求電子性を消す(CSY / CyPY / MNI / ヒドラジド)ことで原理的に完全抑制できる。塩基・温度・接触時間というパラメータをチューニングすることでも抑制できる。 一方、嵩高いエステル(OMpe, OBno 等)側鎖保護基は、速度を落とすだけでゼロにはできない。
起こりやすい配列と悪化させる条件
配列依存性は Asp のすぐC末端側の残基(Asp-Xaa の Xaa)で決まる。古典的スクリーニングでは モデル配列Val-Lys-Asp-Xaa-Tyr-Ile(VKDXYI)を用いて Xaa = Gly, Ser, Thr, Thr(tBu), Asn(Trt), Asp(OtBu), Arg(Pmc), Cys(Acm) でアスパルチミドが観測され、「すべての配列を一律に抑えられる手法は 見つからなかった」と結論されている[3]。なかでも Asp-Gly が突出して危険で、メーカーの系統比較でも Asp-Gly ≫ Asp-Arg ≥ Asp-Asp の順位が報告されている。 隣接残基の側鎖保護基までが効く点も実務的に重要で、長時間の塩基処理下で Asp(OtBu)-Cys(Acm) が 27%、Asp(OtBu)-Cys(Trt) が 5.5% とされる[7]。 この配列依存性を体系的に調べた Mergler らの3部作[6][7][8]が主要な出典となる。
| 因子 | 傾向 | 出典 |
|---|---|---|
| 塩基 | DBU(pKa 13.5)> ピペリジン(11.1)> モルホリン(8.4)の順に悪化。求核性の高い塩基はピペリジド生成も招く | [22][5][16][18] |
| 温度 | 顕著に悪化。20%ピペリジン/DMF で 室温 9.2% → 45 °C で >70%(50%モルホリンなら 1.2% → 4.3%) | [18] |
| 溶媒極性・水分 | 高極性ほど悪化。微量の水も Asp(OtBu) を不安定化 | [22] |
| 脱保護サイクル数 | 累積する。Asp は「それ以降に導入する全残基分」の塩基処理に曝される。長鎖・Asp がC末端寄りほど不利 | [22][20] |
| 樹脂・リンカー | 抑制用の弱酸添加剤に長時間曝すと 2-クロロトリチル樹脂のリンカーが損なわれうる | [10] |
抑制戦略
| 階層 | 手法 | 効果 | 主なコスト・制約 |
|---|---|---|---|
| A. 条件のチューニング | 弱塩基(モルホリン, ピペラジン, ジプロピルアミン)、酸性添加剤(0.1 M HOBt / Oxyma、5% ギ酸)、低温化、接触時間短縮 | 低減のみ。ゼロにはならない | ほぼ無料。ただし弱塩基は Fmoc 除去が不完全になりうる |
| B. 嵩高い側鎖エステル | OMpe, ODie, OEpe, OBno, OPhiPr | 大幅低減。完全抑制ではない | 試薬が高価(OtBu 比で1桁〜2桁)。嵩が増すほど導入が難しい |
| C. 主鎖保護/非エステル型マスキング | Hmb, Dmb, 擬プロリン, GABA-Hmb / MNI, CSY, CyPY, ヒドラジド | 原理的に完全抑制 | ジペプチド原料が必要、特殊な脱保護(光, NCS, 銅, 希塩酸)、官能基適合性の制約 |
添加剤(特に HOBt / Oxyma のような N-ヒドロキシルアミン類)による抑制の体系的な整理は Albericio らの総説[21]に詳しい。
保護基の比較
| 保護基 | 除去条件 | 要点 | 出典 |
|---|---|---|---|
| OtBu(t-Bu エステル) | >90% TFA | 標準。安価だが Asp-Gly では不十分 | — |
| OMpe(3-メチルペンタ-3-イル) | >90% TFA | 実用上の第一選択の一つ。OtBu 比で概ね1/3程度に低減 | [4] |
| ODie(2,3,4-トリメチルペンタ-3-イル) | >90% TFA | OMpe と同等。長時間のピペリジン/DBU 曝露に強い | [8] |
| OEpe / OBno(トリアルキルカルビノール) | >90% TFA | OBno は Asp-Gly でも 0.1%/サイクル程度。D-Asp 生成も1桁低減 | [13] |
| OPhiPr(2-フェニルイソプロピル) | 1–5% TFA(選択的) | オンレジンで外し、側鎖に糖鎖等を導入できる | ―― |
| MNI(光ケージ型アミド) | hν 365 nm(1分未満) | モデル配列で Asi ゼロ。エンドセリン-1 に適用 | [12] |
| CSY(シアノスルフルイリド, C–C) | NCS(pH 3–4.5 水系, 25 °C, 5分以内) | 完全抑制。オンレジン溶解性も改善。Met・遊離Cys とは非適合 | [15] |
| CyPY(シアノピリジニウムイリド, C–C) | 希塩酸(350 mM HCl, 45 °C) | CSY の弱点を解消し Met・Cys(Acm) と適合 | [17] |
| NHNMeBoc(ヒドラジド) | CuSO₄ 水溶液, 37 °C, 3 h | Asi を 7% → <1%。銅残留・GMP 適性が課題 | [19] |
| Hmb(主鎖保護) | TFA | Gly/Ala 中心。O,N-アシル転位で隣接カップリングも促進。30% → 90% | [2] |
| Dmb(主鎖保護) | TFA | Hmb より溶解性・カップリング効率で有利。Asp-Gly 用ジペプチドが市販 | [9] |
| 擬プロリン(主鎖保護) | TFA(天然の Ser/Thr に戻る) | Asp-Ser / Asp-Thr / Asp-Cys に有効。凝集抑制効果も | [22] |
| GABA-Hmb(主鎖保護) | — | 2025年報告。NCL 中の Asi まで抑え SUMO-2 合成を達成 | [20] |
反応例
テデュグルチドと LDLa ドメイン
短腸症候群治療薬テデュグルチドは Asp3-Gly4 と Asp15-Asn16 の二つの高リスクモチーフをもつ教科書的標的である。 Asp(CSY) を用いるとクロロトリチル樹脂・HCTU カップリングで 2工程通算 27% の単離収率が得られ、 アスパルチミドは検出されなかった(Asp(OtBu) では 8%)[15]。Asp(OBno) では両 Asp 残基とも1時間 シングルカップリングで、粗ペプチド中の目的物含量が 25% 改善したと報告されている[13]。 同じ CSY 戦略により、Asp(OtBu) では合成が成功しなかった RXFP1 由来 LDLa モジュール(41残基、Cys 6個)がフォールド体まで通算 36% で得られ[15]、第二世代の CyPY では Met や Cys(Acm) を含む LA3/LA4 ドメインとその二量体(約80残基)へ適用範囲が広がった[17]。
ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)
Fmoc 脱保護液に 5% ギ酸(pKa 3.8)を加えるだけで、PTH 合成中のアスパルチミド生成が 約90%削減された[11]。 効果が酸の強度にほとんど依存しないことも示されており、 「強い酸ほど良い」という直感が当てはまらない。
サソリ毒素 II フラグメント
主鎖保護なしでは未修飾ペプチドが 30% しか得られなかった合成が、Hmb 導入により 90% 収率まで改善した[2] 。このモデル配列に由来する VKDXYI がその後の標準ベンチマークとなった。
SUMO-2 の化学合成
アスパルチミド化が SPPS だけでなくネイティブケミカルライゲーション(NCL)の最中にも高頻度で起きていること、 そしてそれが (i) 標準的な HPLC で同定しにくく (ii) 親ペプチドと同一質量の副生成物に in situ で変換されるため 見落とされてきたことが示された[20]。NCL の低温化・短時間化・リン酸緩衝液から HEPES への変更に加え、 新規主鎖保護基 GABA-Hmb により SUMO-2 のアスパルチミドフリー全合成(最終単離 21%)が達成された[20]。
自動フロー合成でのタンパク質合成
1残基あたり約2.5分という過酷な条件下でも、ギ酸添加(40:60 v/v ピペリジン:DMF 中に2%ストック)と Dmb-Gly 主鎖保護の組み合わせが最も有効で、コラーゲンおよび FGF1 の合成に適用された[23]。
ペプチド医薬品の isoAsp / D-Asp 不純物
エキセナチドでは Asn28-Gly29 がホットスポットとなり、37 °C・4週間で親ピーク残存率が pH 4.5 で 88.6%、 pH 7.5 で 30.9%、pH 8.5 で 20.3% と pH に強く依存する[24]。製剤 pH を 4.5–5.5 に置く設計指針は ここから直接導かれる。GLP-1 系医薬でも 9 位 Asp 由来の isoAsp / D-Asp 体が規定不純物として管理されている 。
実験手順
標準的な実施例:アスパルチミド抑制型の Fmoc 脱保護
| # | 組成 | 出典・備考 |
|---|---|---|
| 1 | 20% ピペリジン/DMF + 0.1 M HOBt または 0.1 M Oxyma Pure | 最も汎用的。HOBt は[1]、Oxyma は[10](原著は 1 M、装置メーカー推奨は 0.1 M) |
| 2 | 20% ピペリジン/DMF + 5% ギ酸 | [11]。PTH 合成で Asi を約90%削減 |
| 3 | 40:60 (v/v) ピペリジン:DMF + 2% ギ酸ストック | [23]。85–90 °C の自動フロー合成用 |
| 4 | 約50% モルホリン/DMF | [18]。室温 1.2%、45 °C 4.3%(ピペリジンは 9.2% / >70%) |
| 5 | ピペラジン(0.1 M HOBt 併用) | [5]。ピペリジン・1-ヒドロキシピペリジン・TBAF・DBU との比較で最も副反応が少ない |
| 6 | ジプロピルアミン(DPA) | [16]。無臭・安価だが難合成配列では収率が落ちる場合がある |
トレードオフ: モルホリンのような弱塩基は Asi をほぼ生じない代わりに Fmoc 除去が不完全になりうる。 脱保護時間の延長や反復が必要になり、欠損配列(deletion)のリスクと引き換えになる (メーカー技術資料の指摘。査読外。詳細は外部リンク参照)。
評価法:アスパルチミド化の標準ストレステスト
保護基や脱保護条件の性能を比較するために業界で広く使われる試験法。
- モデルヘキサペプチド H-Val-Lys-Asp-Xaa-Tyr-Ile-NH₂(VKDXYI、Xaa = Gly / Asn / Arg)を、 評価したい Asp 誘導体を用いて樹脂上に構築する。
- 樹脂結合状態のまま 20%(v/v)ピペリジン/DMF に 200 分浸漬する(2分×100サイクル相当の累積曝露)。
- TFA 切り出し後、UPLC で面積%を定量し、一次速度式から「1脱保護サイクルあたりの分解率(%/cycle)」に換算する。
CSY の評価では、ペンタペプチド H-FDGLA-OH を 20 vol% ピペリジン/DMF に12時間浸漬するという、より過酷な変形版が用いられた[15]。
変法:CSY(シアノスルフルイリド)保護基の除去
原著[15]の記載に基づく。溶液中での除去が推奨される。
- 精製済みの CSY 保護ペプチドを 200 mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)、またはタンパク質のフォールドを 保ちたい場合は 200 mM NaCl の酸性生理食塩水(pH 3.0)に溶かす(溶解性が悪ければ MeCN を最大 20–35%)。
- NCS を 100 mM MeCN 溶液として調製し、CSY 1個あたり 1.1–1.2 当量を分割して添加する。
- 25 °C で 5 分以内に完結。CSY は 254 nm に強吸収をもつため、HPLC / LC-MS で追跡しながら滴定的に加える。
樹脂上で行う場合は DMF/H₂O/HFIP = 90:8:2 中、NCS 1.5 当量から2分。NCS は酸化剤のため メチオニン(Nle 置換が必要)と遊離システインは不適合である[15]。この制約を解消したのが CyPY である[17]。
変法:高温・マイクロ波合成における配慮
装置メーカーは対策として、①脱保護液に 0.1 M Oxyma Pure または 0.1 M HOBt を添加、 ②5% ピペラジン(w/v) + 0.1 M Oxyma Pure in EtOH:NMP (10:90) による室温2段階脱保護、 ③Fmoc-Asp(OMpe)-OH、④Fmoc-Asp(OtBu)-(Dmb)Gly-OH ジペプチドの4手法を挙げ、特に Asp-Gly を含む配列では脱保護を室温で行うことを推奨している。
実験のコツ・テクニック
設計段階
- 配列リスクの判定: 着手前に Asp-Xaa を洗い出す。Asp-Gly が最優先、次いで Asp-Asn / Asp-Ser / Asp-Thr / Asp-Cys / Asp-Arg / Asp-Asp。Asn-Gly / Asn-Ser も同型の反応を起こす[3]。
- Asp の位置と鎖長: Asp が C 末端寄りであるほど、また鎖が長いほど危険。以降に導入する全残基分の 脱保護に曝され続けるためである[22][20]。
- 隣接残基の保護基選択: Asp-Cys では Cys(Acm) より Cys(Trt) の方が Asi が少ないと報告されている[7]。
- フラグメント縮合という選択肢: 高リスク部位を含む断片を別に組んでから連結すると、当該 Asp が受ける 塩基処理の回数を減らせる。
脱保護条件
- 塩基の選択: 「嵩高い塩基を、弱く、短く、冷たく」が原則。DBU は速いが Asp-Gly では逆効果になりうる[22]。 モルホリン・ピペラジン・ジプロピルアミンが代替候補[5][16][18]。
- 温度: 上げない。20% ピペリジン/DMF では室温 9.2% が 45 °C で >70% に跳ね上がる[18]。マイクロ波でも カップリングは加熱し、Fmoc 脱保護は室温に留める使い分けが有効とされる。
- 接触時間: 1回20分より 2回5分。総塩基曝露量を減らす操作はいずれも効く方向に働く。
- 添加剤と樹脂の相性: 酸性添加剤は安価で即効性があるが、2-クロロトリチル樹脂では要注意 (リンカーが早期に切れうる)[10]。
検出・分析
- 質量分析だけで「シロ」と判定しない: 加水分解生成物は目的物と完全に等質量である。−18 Da や +67 Da の サテライトが見えないことは、アスパルチミドが起きていないことの証明にはならない[20]。
- 単一ピークを疑う: 「単離された単一ピークにアスパルトイミド関連副生成物が 約 15% 含まれていた」という報告例がある。
- HPLC 条件の作り込み: α/β 異性体の分離には、より浅いグラジエントや移動相 pH の変更が有効との指摘がある 。
- NMR の活用: エピマー混在時に約 1:1 の二組のシグナルとして観測されることがあり、決定的な証拠になりうる。
- 精製・保存中の進行: 逆相 HPLC で常用する TFA 条件や中性〜塩基性水溶液中での室温保存が脱アミド・isoAsp 生成を招くとの報告があり、4 °C 以下での保存が推奨されている。
よくある誤解
- 「Kaiser テスト陰性=問題なし」ではない: Kaiser テストは遊離一級アミンの有無、すなわちカップリングの 完結/欠損をモニターする試験であり、アスパルチミド化は検出しない。
- 「不純物だけの問題」ではない: ピペリジド経由でジケトピペラジンが生じると鎖伸長が停止する[14]。
- 「立体障害を大きくすれば止まる」わけでもない: エステルである限り求電子性は残る[22]。完全に止めるには 主鎖保護か非エステル型マスキングが必要である。
参考文献
【原著】
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【応用例】
- Hartrampf, N.; Saebi, A.; Poskus, M.; Gates, Z. P.; Callahan, A. J.; Cowfer, A. E.; Hanna, S.; Antilla, S.; Schissel, C. K.; Quartararo, A. J.; Ye, X.; Mijalis, A. J.; Simon, M. D.; Loas, A.; Liu, S.; Jessen, C.; Nielsen, T. E.; Pentelute, B. L. Science 2020, 368, 980–987. DOI: 10.1126/science.abb2491 (85–90 °C の自動フロー合成。ギ酸+Dmb-Gly)
- Benet, A.; Halseth, T.; Kang, J.; Kim, A.; Ackermann, R.; Srinivasan, S.; Schwendeman, S.; Schwendeman, A. Pharmaceutics 2021, 13, 1263. DOI: 10.3390/pharmaceutics13081263 (エキセナチドの pH 依存安定性)
- Elashal, H. E.; Koos, J. D.; Cheung-Lee, W. L.; Choi, B.; Cao, L.; Richardson, M. A.; White, H. L.; Link, A. J. Nat. Chem. 2022, 14, 1325–1334. DOI: 10.1038/s41557-022-01022-y (fuscimiditide。酵素が意図的に Asi を導入する天然物)
- Cao, L.; Elashal, H. E.; Link, A. J. Biochemistry 2023, 62, 695–699. DOI: 10.1021/acs.biochem.2c00707 (ラッソペプチド lihuanodin での Asi 生成・加水分解の速度論)
【計算化学】
いずれも水系・タンパク質老化の文脈での計算であることに留意。
- Takahashi, O.; Manabe, N.; Kirikoshi, R. Molecules 2016, 21, 327. DOI: 10.3390/molecules21030327 (Asn–His 配列。His 側鎖による分子内触媒)
- Kirikoshi, R.; Manabe, N.; Takahashi, O. Int. J. Mol. Sci. 2018, 19, 637. DOI: 10.3390/ijms19020637 (リン酸イオン触媒下の環化。律速段階と活性化障壁)
関連反応
- メリフィールド ペプチド固相合成法 Merrifield Solid-Phase Peptide Synthesis
- 9-フルオレニルメチルオキシカルボニル保護基 Fmoc Protecting Group
- 縮合剤 Condensation Reagent
- ネイティブ・ケミカル・ライゲーション Native Chemical Ligation (NCL)
- カイザーテスト Kaiser Test
- O-アシルイソペプチド法 O-acylisopeptide Method
関連書籍
Chemistry Of Peptide Synthesis (Original Price £ 153.00) [Hardcover] [Jan 01, 2017] Leo Benoiton
Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis: A Practical Approach (Practical Approach Series)
Houben-weyl Methods of Organic Chemistry: Substance Index
外部リンク
- Novabiochem NEWS Issue 2 | 2018「アスパルトイミド形成の問題点」(PDF)
- Solving Aspartimide Formation in Fmoc SPPS with Fmoc-Asp(OBno)-OH(Sigma-Aldrich)
- ASPARTIMIDE FORMATION: Measures to Tackle an Undesired Side Reaction(Iris Biotech フライヤー, PDF)
- A Systematic Comparison of Different Methods to Tackle Aspartimide Formation(Iris Biotech)
- PotM: Asp(CSY) – Tackling Aspartimide Formation(Iris Biotech)
- Liberty Blue™ Automated Microwave Peptide Synthesizer User Guide(CEM, PDF)
- Aggregation, Racemization and Side Reactions in Peptide Synthesis(AAPPTec)
- Aspartimide Formation in SPPS(peptidechemistry.org)
- Isoaspartate(英語版 Wikipedia)
- ペプチド医薬合成基礎講座 第2回(富士フイルム和光純薬)
- WO2012028602A1 “Solid phase synthesis of h(Gly2)GLP-2″(Google Patents)
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