[スポンサーリンク]

日本人化学者インタビュー

第73回「分子混合物の分離特性を制御する機能性分離膜の創製」金指 正言教授

[スポンサーリンク]

第73回目の研究者インタビューです! 今回は第54回ケムステVシンポ「構造から機能へ:ケイ素系元素ブロック材料研究の最前線」の講演者の一人、広島大学 大学院先進理工系科学研究科の金指 正言(かねざし まさこと)先生にお願いしました。

8月8日9:00-12:00に開催されるVシンポでは、金指先生のお話もうかがえます。登録ページに直接飛びたい方は こちらの登録ページリンク にどうぞ!

それではインタビューをどうぞご覧ください!

Q. あなたが化学者になった理由は?

祖父や父が大学教授をしていたことから,小学生のころから将来は大学の研究者になりたいと思っていました。化学というよりは化学工学に興味を持ったのは,大学3年生の時に履修した物質移動論がとても面白く,今から考えると多孔体を用いた分離膜の開発や分子の移動論に興味を持ったきっかけになったと思います。大学の研究室も当時物質指導論を担当されていた浅枝正司先生のところに幸いにも配属され,膜分離に関する研究を行なうことができました。現在は私がこの講義を担当しており,先生との縁を感じています。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

研究者になりたいと幼少期より思っていましたので,化学者になっていなくても研究者を目指したと思います。特に興味があったのは,魚類や昆虫などの分野です。

Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?

地球レベルでの環境負荷が問題となる現在では,持続可能な社会を構築するためにどのような貢献ができるかが重要です。膜分離工学は,化学や医薬などすべての工業プロセスで重要な役割を果たし,水処理やCO2分離のような環境問題の解決においてもキーテクノロジーとなるため,国連が定めた,Sustainable Development Goals(SDGs,持続可能な開発目標)への貢献が大きい技術です。当研究室では,シリカ,チタニアなどの無機材料,および有機・無機ハイブリッド材料に着目し,製膜・評価技術の確立,透過・分離特性の検討を通じてあらゆる膜分離プロセスについて基礎から実用レベルの研究を行っています。これまでにナノ多孔質材料を分子レベルで構造制御することで,様々なガス分離膜(水素,二酸化炭素,炭化水素),有機溶媒の脱水,脱塩,ナノろ過膜などの開発に成功しています。分子サイズが近接した分子混合物の分離では,分子ふるいをベースにした分離のみでは十分な分離性が発現しないので,透過分子と膜構造との親和性(吸着性)を制御することも重要になります。透過分子の吸着特性は,分離する温度や圧力により制御することができるので,実プロセスへの応用のために化学工学的な評価を常に意識しています。今後は分離対象に応じたテーラーメイド技術を用いた大面積化,実際の化学プロセスへの応用によるプロセス強化に展開したいと思っています。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

明治天皇です。まず天皇陛下というもの自体,滅多にお目にかかれるお方ではないため可能であるなら1度お会いしてみたいという気持ちがあります。また,徳川政権が終わり,700年近く続いた武士の時代から再び朝廷が直接政治に関わる時が訪れた訳ですが,そのことについてどう感じていたのか,また,いつ政権返上されてもいいように生まれた時からその心積もりでいたのか尋ねてみたいです。食事もどのようなものを好まれるのか,興味があります。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

2021年1月に投稿論文の査読結果への対応のために実験を行ないました。当時修士課程の学生は修論の執筆で実験がほとんどできない状況でしたので,私が代わりに実験を行なったかたちです。Triethoxyfluorosilane (TEFS)をSi前駆体に選定し,Si-OH基を疎に制御したシリカ系多孔膜を製膜して,水熱雰囲気 (500-750℃,水蒸気分圧: 90 kPa)での安定性を評価しました。最終的には,膜構造変化と細孔径の関係を定量的に議論することができました。投稿論文は,米国化学工学会発刊のAIChE Journal誌に無事掲載されました(https://aiche.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/aic.17292)。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

「How to Survive in a Desert: A Brief Survival Guide Based on Brad’s Story」
これしかないと思います。とにかく生き残ることが大事なので。
基本的に音楽は必要ないと思いますが、強いて言うならQueenの「We will rock you」でしょうか。励みになりそうなので。

Q.次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。

アリゾナ州立大学のJerry Y. S. Lin先生です。私が博士研究員として研究留学した際にお世話になった先生で,無機膜の開発,膜分離工学の世界的第一人者です。常に研究アイデアや膜工学の発展性について考えられており,ちょっとした会話や研究ディスカッションからも多くのことを勉強することができます。とてもアトラクティブなインタビューになると思います。

関連リンク

第54回ケムステVシンポ「構造から機能へ:ケイ素系元素ブロック材料研究の最前線」を開催します!

spectol21

投稿者の記事一覧

ニューヨークでポスドクやってました。今は旧帝大JKJ。専門は超高速レーザー分光で、分子集合体の電子ダイナミクスや、有機固体と無機固体の境界、化学反応の実時間観測に特に興味を持っています。

関連記事

  1. 第89回―「タンパク質間相互作用阻害や自己集積を生み出す低分子」…
  2. 第32回「生きている動物内で生理活性分子を合成して治療する」田中…
  3. 第13回 化学を楽しみ、創薬に挑み続ける ―Derek Lowe…
  4. 第25回「ペプチドを化学ツールとして細胞を操りたい」 二木史朗 …
  5. 第48回―「周期表の歴史と哲学」Eric Scerri博士
  6. 第109回―「サステイナブルな高分子材料の創製」Andrew D…
  7. 第35回「金属錯体の分子間相互作用で切り拓く新しい光化学」長谷川…
  8. 第138回―「不斉反応の速度論研究からホモキラリティの起源に挑む…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 日本プロセス化学会2005サマーシンポジウム
  2. ランシラクトンCの全合成と構造改訂-ペリ環状反応を駆使して-
  3. 視覚を制御する物質からヒントを得た異性化反応
  4. ダン・シェヒトマン Daniel Shechtman
  5. α‐リポ酸の脂肪蓄積抑制作用を高める効果を実証
  6. 【緊急】化学分野における博士進学の意識調査
  7. これならわかるNMR/二次元NMR
  8. 第94回日本化学会付設展示会ケムステキャンペーン!Part I
  9. デーヴィス酸化 Davis Oxidation
  10. 自律的に化学実験するロボット科学者、研究の自動化に成功 8日間で約700回の実験、人間なら数カ月

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2025年8月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP