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英語発表に”慣れる”工夫を―『ハイブリッド型報告会』のススメ

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化学会年会では、今年から口頭発表Bが「英語推奨」になりました。この決定を受け、各所で議論が起きているようです。
ことさら述べるまでも無く、日本人は総じて英語がニガテ。筆者も例外では無く、苦労に苦労を重ね現在に至っています(→留学時に編み出した工夫)。
しかし今後の時代潮流を考えると、英語での発表スキルは習得不可避だとも思えます。教育側としては、この現実にどう対応していけばいいのでしょうか。

筆者個人は、英語の使用に「慣れる」環境作りがまず重要と考えます。

英語は上手くなくても良い!

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研究発表の英語化は、実は機会を増やす入り口として良い方策です。当意即妙さの要る日常会話と違い、準備と対策が効くからです。

加えて重要な点は、「上手い英語である必要は全くない」ということです。

少々発音が変でも、言いたいことが伝わればとりあえずOK。原稿読んで発表しても、それはそれでOK。専門用語以外は中学レベルでも、単語を組み合わせれば話は作れます。上手く口が回らないと恥ずかしい?いやいや大御所先生であっても、ペラペラな人はそこまで多くないはずですよ。動画で彼らの講演をご覧ください(歴々の大御所達が講演する向山アルドールシンポジウムの様子→)。堂々としゃべることが何にも増して重要です。英語に「慣れる」ことでしか、これは達成できません。

ただ、限られた回数の学会発表だけでは、「慣れる」までには至らないでしょう。スピーキング機会を組み込んだ「現場の教育環境作り」も必要です。とはいえカリキュラムを機関単位で変えようとすると、時間もコストもかかりすぎます。世の中は悠長に待ってくれません。まずはともかく、少人数の「ラボ単位」から始めてしまうのが得策でしょう。

 

完璧主義を捨てよう

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どこのラボでも、「研究進捗報告会」はあると思います。これに英語スピーキングを組み込めれば実践的です。実際、英語での進捗報告を課すラボも数多く存在しています(筆者の属するラボもその一つです)。

しかし他大学の知人に聞くと、「英語で進捗発表をさせるのは、トップ校以外では現実的に無理」という意見ばかりを耳にします。メンバーが英会話に気を取られすぎて、化学の議論がおろそかになってしまうからだそうです。

まぁ、この意見も全くごもっともかと思います。筆者自身も「良い仕事が出来ることが第一、英語はプラスアルファ」とするスタンスです。ディスカッションなどの双方向コミュニケーションは、一方通行のプレゼンと違う障壁があり、また難度の違う話として捉えるべきでしょう。

ただ別の見方をすれば、この意見は悪しき完璧主義の産物とも取れます。できない人が大半なのに、何でもかんでも一度にこなそうとするから無理が出るのです。そこはレベルに合わせた上手い方策を考えるべきでしょう。

 

「一部だけ」英語に変えてみよう

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筆者が知る限り最良と思える折衷案は、【ハイブリッド型研究報告会】というものです。

これは研究のイントロ部分だけ、英語発表を義務づけるというスタイルです。慣れないうちは英文原稿を作ってしゃべってOK。もちろん準備時間は少々余計に必要ですが、そこは英語訓練のコストと捉えましょう。

新しいデータの説明や科学的議論は大抵込み入った話になります。その部分は無理せず日本語でやります。ここで理解度を落としても良いことはありません。

なぜ「イントロだけ」に限定するのか?――それは教育的利点が多くあるからです。

【ハイブリッド型報告会】にて、ラボの学生が英語原稿を作る様子を想像してみてください。慣れない彼らは、参考文献から「英語表現の切り貼り」をするようになると思います。

しかしイントロのストーリーを組み立てるには、切り貼りといえど意外としっかり文献に当たる必要があります。

つまり教員が日本語で意義を伝える過程に加え、「参考文献の英語を通じて、研究意義を学生自身が再度学べる機会提供」にもなるのです。

またイントロは短期でそう変わるものではありません。常に中身の異なる「実験データ」とは、この点でだいぶ気楽さが違いますし、報告会の度に、何度も同じ内容を英語で繰り返ししゃべることになります。そのうち、研究意義も英語も学生のアタマに浸透していきます。繰り返し=復習の効果は絶大なのです。イントロだけなら原稿なしでしゃべれる日も遠くは無いでしょう。同じことの繰り返しであれば、改善策も立てやすいという現実的利点も無視できません。

全て英語で発表させたり、議論を英語で行うのは、こういったレベルのことが普通にできるようになってからでも遅くはないのです。それでもキツイという環境ならば、たとえば学部生のうちは全部日本語発表、修士はハイブリッド型、博士は英語、と課題を徐々にレベルアップさせる方式でも良いでしょう。応用の余地はいろいろあるはずです。

 

日本人同士の英会話は恥ずかしくないし、意味もある

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良く聞く意見として、「日本人同士で英語をしゃべるなんて気恥ずかしい」「下手な英語で語り合っても意味ないだろう」、というものがあります。しかし筆者は、これも「慣れてない」ことに起因する心理的問題と考えます。

そもそも「何が恥ずかしい」のでしょうか?日本語と同じ内容を英語でしゃべっているだけに過ぎません。よくよく聞くと汚い日本語ばかり使う人は、学生・教員問わずいます。英語のほうがよほど綺麗な言葉使いになることもあり、これ自体は恥ずかしくないのだろうか?と思うことがあります。

要するに「周りの皆が共にやってないこと」が違和感の根源にあるのでしょう。よって、「うちはラボぐるみでこうしているから」「うちの学会ではこうだよ」とコミュニティ文化にしてしまう策は、実に教育観点からも有効なのです。もちろん最初は違和感があるでしょうが、徐々に普通になっていくものです。これこそが「慣れる」ということでしょう。

「意味が無い」こともありません。下手な英語すら出来ないのに、流暢な英語までたどり着けるはずも無いからです。「慣れる」にしたがい、徐々に改善していけば良い話だと思います。「慣れない」人が多いからこそ、「意味が無い」と断ずる拒否反応がでているのが本当のところではないでしょうか。

今回の年会発表にしても、あくまで英語は「推奨」であって「義務」ではありません。議論は日本語でもいいのですから、いつも通り発表に臨めば良いのです。質問側も「英語質問は、満足な答えが返ってきそうな人を目利きしてする」ぐらいの配慮を、オトナの作法として欲しいところです。サイエンスは気持ちよく議論したいですよね。

 

おわりに

「慣れ」というのは心理的に大きな要素です。多くの恐怖反応は「慣れる」だけでだいぶ改善できるものです。

誰しも、「英語が全くできない」などということは無いはずです。日本の英語教育は、読み書きだけ見れば存外ちゃんとしたもの、大学入試でもきっちり問われています。つまり知識的な素地は、既に誰もが備えているのです。

基礎知識はあるのですから、これを応用できる環境づくりができれば、ちゃんと功を奏してくれるハズなのです。

繰り返しますが、「研究英語が普通のものとして側にあり、それに慣れる環境作り」が重要です。いきなり英会話を義務化しても実施は難しいでしょうから、出来ることから始めていきましょう。

その第一歩としての【ハイブリッド型報告会】は、とても効果的だと思います。英語にお悩みのラボは、是非一度お試しあれ。

 

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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