[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

アミン存在下にエステル交換を進行させる触媒

[スポンサーリンク]

エステルは香料や医薬品などの部分構造として重要です。合成法としてのエステル交換は様々な酸触媒によって促進されることが知られています。もっとも古典的な条件はFischer法と呼ばれ、硫酸などの強力な酸を用いて加熱条件にて行われます。ただ、そのような激しい条件は、多くの官能基をもつ複雑化合物への適用は難しいです。現在でも穏和に効率よくエステルを合成すべく、多くの触媒開発研究が続けられています。

アミン官能基存在下に人工的にエステル交換を起こすことは、これまで不可能とされてきました。アルコールよりもアミンのほうが求核性が高いため、アミド形成のほうが優先してしまうのです。 このため、予めアミンを保護してから反応を行い、脱保護するという冗長なプロセスが必要不可欠でした。(有機って面白いよね!「無保護のペプチド合成を目指して」も参照ください)

大阪大・真島教授・大嶋准教授らのグループが開発した、亜鉛四核クラスター触媒[1]は、この教科書的常識を覆しました。

たとえば、下のような基質を用いた場合、アルコールとだけエステル交換を起こすことができます[1a]。アミドはほとんど生成してきません。THPなどのよ うな酸に不安定な官能基をもつものでも、収率良く反応が進行します。(相応の加熱は必要ですが)エステル合成はもちろん、新しい選択的保護・脱保護用途に も有用ではないでしょうか。

transester1.gif

  このクラスターは酵素類似のメカニズムでエステル交換を起こす、と筆者らは推測しています。すなわち、求核剤であるアルコールと、求電子剤であるエステル を二つのオキソフィリックな亜鉛が近傍に担持・活性化して反応を促進させている、というものです(上図破線内)。読みとれるデータだけでは正直、実験的根 拠に乏しいという感が否めないですが、今後の機構解析によってその詳細が明らかになってゆくことを期待したいと思います。

  • 関連文献
[1] (a) Ohshima, T.; Mashima, K. et al. J. Am. Chem. Soc. 2008, ASAP. DOI: 10.1021/ja711349r (b) Ohshima, T.; Iwasaki, T.; Mashima, K. Chem. Commun. 2006, 2711. DOI: 10.1039/b605066b

  • 関連書籍
Green Chemistry: Frontiers in Benign Chemical Syntheses and Processes
Oxford Univ Pr (Sd)
Paul T. Anastas(編集)Tracy C. Williamson(編集)
発売日:1998-10
Vch Verlagsgesellschaft Mbh
Masakatsu Shibasaki(著)Yoshinori Yamamoto(著)
発売日:2004-11-30
  • 関連リンク

Mashima Lab. 大阪大学・真島研究室のホームページ

Ohshima Research Group 大阪大学・大嶋准教授のホームページ

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 論文の自己剽窃は推奨されるべき?
  2. 第17回ケムステVシンポ『未来を拓く多彩な色素材料』を開催します…
  3. 「細胞専用の非水溶媒」という概念を構築
  4. ケムステイブニングミキサー2018ー報告
  5. J-STAGE新デザイン評価版公開 ― フィードバックを送ろう
  6. 炭素をつなげる王道反応:アルドール反応 (1)
  7. 比色法の化学(後編)
  8. 触媒でヒドロチオ化反応の位置選択性を制御する

注目情報

ピックアップ記事

  1. 原油高騰 日本企業直撃の恐れ
  2. マレーシア警察:神経剤VX検出で、正男氏は化学兵器による毒殺と判定
  3. 上村 大輔 Daisuke Uemura
  4. 日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part3
  5. 社会人7年目、先端技術に携わる若き研究者の転職を、 ビジョンマッチングはどう成功に導いたのか。
  6. 癸巳の年、世紀の大発見
  7. 気になるあの会社~東京エレクトロン~
  8. 工業生産モデルとなるフロー光オン・デマンド合成システムの開発に成功!:クロロホルムを”C1原料”として化学品を連続合成
  9. 熱や力で真っ二つ!キラルセルフソーティングで構築されるクロミック二核錯体
  10. 生体外の環境でタンパクを守るランダムポリマーの設計

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2008年2月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
2526272829  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP