[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

炭素をつなげる王道反応:アルドール反応 (1)

[スポンサーリンク]

アルドール反応(Aldol reaction)を御存じだろうか?

歴史、原理、応用、有用性、方法論・・・諸々の観点から、有機合成化学において最重要視されてきた化学反応の一つであり、「有機化学反応の王道」とも呼ばれる存在である。

本シリーズでは、アルドール反応の特徴、歴史的マイルストーンとなった研究、最近の動向などについて、順を追って解説してみたい。

まず第1回目は、アルドール反応とは何か?という基本事項から。

アルドール反応とは?

アルドール反応を知らない人の為に、まずは簡潔に説明してみよう。 アルドール反応の定義は以下の通りである。

【α水素をもつカルボニル化合物から発生したエノラート(エノール)がもう一つのカルボニル化合物へ求核付加し、β-ヒドロキシカルボニル化合物を与える反応】

図1:アルドール反応

この一つの反応だけで、過去から現在にわたり膨大な研究が行われている。なぜ、こうまで化学者の興味を惹き、また重宝されているのだろうか? 概して、以下の4つの価値がその理由とされている。

① 新しい炭素-炭素結合を作ることが出来る
有機化合物の基本骨格を、二つのフラグメントを結合する形で繋げ、より複雑なものに出来る。

② 官能基を豊富に持った生成物が得られる 
あとあと、好きな構造に変換することが簡単。

③ 連続する不斉炭素を作れる

不斉合成法へと展開できれば反応価値を向上でき、生物活性物質の精密合成にも有用となる。

原子効率の高い反応

ゴミを少なく出来る、環境に優しい反応。

この特徴ゆえに、複雑化合物を効率合成する必要がある医薬品産業などに、とりわけ需要の高い反応とされている。

古典的条件とその難点

アルドール反応そのものは、Charles Adolphe WurtzおよびAlexander Borodinらによって、19世紀後半に独立に発見された。

当初の古典的条件は、硫酸などのブレンステッド酸、もしくはプロトン性溶媒+ナトリウムエトキシドなどといった、ブレンステッド塩基を用いて進行させるものだった(図)。

図2:古典的アルドール反応のメカニズム

図:古典的アルドール反応のメカニズム

これは、エノラート(エノール)を発生させる条件としては、かなり強力なものである。それゆえ、コントロールがとても難しいという欠点があった。もっと役立つ反応にするには、以下の3点を解決する必要があった。

① 化学選択性の制御 → 沢山の副生成物を減らし、欲しいものだけを合成したい
② 可逆・平衡条件の回避 → 化合物によっては、収率が上がらないのを何とかしたい
③ 交差反応の促進 → 同種縮合を抑えることで、反応に一般性・多様性をもたせたい

この問題解決にむけ、下記年表に示すとおり、現在に至るまで数え切れないほどの研究が為されることになる。その発展の歴史については、次回から順を追って述べてみたいと思う。

図1:アルドール反応のマイルストーンとなった研究年表(MacMillan研セミナー資料より引用)

年表:アルドール反応のマイルストーンとなった研究一覧(MacMillan研セミナー資料より引用)

 

(※本稿は以前公開していた記事に現代事情を加筆・修正したうえで、ブログに移行したものです)
(2001.6.4 執筆 by ブレビコミン、2015. 9.19 加筆修正 by cosine)

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. DOIって何?
  2. 95%以上が水の素材:アクアマテリアル
  3. 東レ先端材料シンポジウム2011に行ってきました
  4. ノーベル賞化学者と語り合おう!「リンダウ・ノーベル賞受賞者会議」…
  5. 荒木飛呂彦のイラストがCell誌の表紙を飾る
  6. TED.comで世界最高の英語プレゼンを学ぶ
  7. 反応機構を書いてみよう!~電子の矢印講座・その1~
  8. Macユーザーに朗報!ChemDrawとWordが相互貼付可能に…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 有機合成化学協会誌2020年2月号:ナノポーラス スケルトン型金属触媒・フッ化アルキル・2,3,6-三置換ピリジン誘導体・ペプチドライゲーション・平面シクロオクタテトラエン・円偏光発光
  2. ルドルフ・クラウジウスのこと② エントロピー150周年を祝って
  3. 有機合成化学協会誌2018年4月号:脱カルボニル型カップリング反応・キレートアミン型イリジウム触媒・キラルリン酸・アリル銅中間体・窒素固定
  4. 有機化学者の仕事:製薬会社
  5. アカデミアからバイオベンチャーへ 40代の挑戦を成功させた「ビジョンマッチング」
  6. エリック・ジェイコブセン Eric N. Jacobsen
  7. スイスの博士課程ってどうなの?2〜ヨーロッパの博士課程に出願する〜
  8. シリリウムカルボラン触媒を用いる脱フッ素水素化
  9. 新たな青色発光素子 京大化学研教授ら発見
  10. 相田卓三教授の最終講義をYouTube Live配信!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年9月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

ブーゲ-ランベルト-ベールの法則(Bouguer-Lambert-Beer’s law)

概要分子が溶けた溶液に光を通したとき,そこから出てくる光の強さは,入る前の強さと比べて小さくなる…

活性酸素種はどれでしょう? 〜三重項酸素と一重項酸素、そのほか〜

第109回薬剤師国家試験 (2024年実施) にて、以下のような問題が出題されま…

産総研がすごい!〜修士卒研究職の新育成制度を開始〜

2023年より全研究領域で修士卒研究職の採用を開始した産業技術総合研究所(以下 産総研)ですが、20…

有機合成化学協会誌2024年4月号:ミロガバリン・クロロププケアナニン・メロテルペノイド・サリチル酸誘導体・光励起ホウ素アート錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年4月号がオンライン公開されています。…

日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました

3月28日から31日にかけて開催された,日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました.筆者自…

キシリトールのはなし

Tshozoです。 35年くらい前、ある食品メーカが「虫歯になりにくい糖分」を使ったお菓子を…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP