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化学者のつぶやき

触媒でヒドロチオ化反応の位置選択性を制御する

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触媒の配位子で位置選択性を制御できるヒドロチオ化反応が開発された。本反応はアミノチオエーテル化合物の効率的合成に役立つであろう。

ヒドロチオ化反応

不飽和化合物のヒドロヘテロ原子化反応は水素原子とヘテロ元素を炭素骨格に導入できる、原子効率100%の付加反応である。しかしながら非対称不飽和化合物の場合、「望みの位置に付加反応を進行させる」というその位置選択性の制御が課題となる。位置選択的な付加反応を触媒で制御することは、有機合成化学者の匠なワザのみせどころであるといってもよい。今回は、水素と硫黄原子を導入するヒドロチオ化反応について考えてみよう。

アルキンやアレーンに対する触媒的なヒドロチオ化反応は1992年の小川・園田(大阪大学)らの先駆的な結果を発端とし[1]、その位置選択的な制御も含めて数多く報告されている(図1 AおよびB)。一方で、アルケンに対しては未だ基質も限られ位置選択的制御の例も少ない(図1C)。また、チオールエン反応がアンチマルコフニコフ型ヒドロチオ化反応の信頼性の高い手法として知られているが、遷移金属触媒を用いたものは少ない。小川ら(大阪府立大)は最近金触媒による位置選択的アンチマルコフニコフ型ヒドロチオエーテル合成を報告している [2]

今回、イリノイ大学のHull助教授らは新たにロジウム触媒を用いたアリルアミンの位置多様性ヒドロアミノ化反応を見出したため紹介する(図1D)。

Rhodium-Catalyzed Regiodivergent Hydrothiolation of Allyl Amines and Imines”

Kennemur, J. L.; Kortman, G. D. and Hull, K. L. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 11914. DOI: 10.1021/jacs.6b07142

本反応は触媒の配位子を変更することにより、マルコフニコフ型生成物とアンチマルコフニコフ型生物を作り分けが可能である。

2016-10-06_16-00-24

図1. 遷移金属触媒を用いたヒドロチオ化反応

 

論文著者の紹介

2016-10-06_16-01-48

研究者:Kami L. Hull

研究者の経歴:

-2003 BSc, Macalester College

2003-2009 Ph.D. The University of Michigan, USA (Prof. Melanie Sanford)

2009-2012 NIH postdoctoral fellow, Stanford University, USA (Prof. Barry M. Trost)

2012- Assistant Professor at University of Illinoi, Urbana-Champaign

研究内容:遷移金属触媒反応の開発および機構解析

論文の概要

Hullらは以前、位置多様性ヒドロアミノ化反応を報告しており[3]、今回の報告はヘテロ元素をNからSへ変更した応用研究である。[Rh(Cod)Cl2]触媒と適切な配位子存在下、様々なアリルアミン誘導体に対してチオールを導入できる(図4)。反応はLiBrを添加剤として用いると、収率が改善される。その理由は生成物阻害を防ぐ、もしくはより活性なRh-Br種を発生させるためと述べている。 ヒドロチオ反応の位置選択性は触媒(配位子)で制御可能であり、配位挟角 (bite angle)により、生成物が変化する。すなわち、大きい配位挟角をもつDPEphos(102°)などを用いた場合は1、2-アミノチオエーテル(マルコフニコフ型生成物)、小さい配位挟角をもつdppz(83°)を用いた場合は1,3-アミノチオエーテル(アンチマルコフニコフ型生成物)が得られる。

2016-10-06_16-03-03

図2. Rh触媒を用いた位置多様性ヒドロチオ化反応(L1を用いた場合は出発物質がイミンであり、その後還元してアミンとしている)

 

ではなぜ配位子で位置選択性を制御できるのか?速度論的同位体効果(KIE)の測定と実験結果により、配位挟角の大きな配位子を用いた場合、Rh-S挿入反応が進行し律速段階となることがわかった。その段階でRhにアミン(イミン)が配位し、反応性の獲得によりマルコフニコフ型で反応が進行、C–H還元的脱離により生成物が得られる。一方、配位挟角小さな配位子を用いた場合はRh–H挿入反応が進行し、付加と脱離の平衡状態にある。エネルギー的に有利なD’からのC–S還元的脱離によりアンチマルコフニコフ型で生成物が得られる。反応の律速段階は還元的脱離であると推定されている。推定反応機構は論文を参照されたい。本反応で得られるアミノチオエーテル化合物は生物活性物質や配位子に多くみられ[4]、これらの化合物群の効率的な合成に威力を発するだろう。

参考文献

  1. Ogawa, A.; Sato, K.-I.; Ryu, I.; Kambe, N.; Sonoda, N. J. Am. Chem. Soc. 1992, 114, 5902, DOI: 10.1021/ja00040a087
  2. Tamai, T.; Fujiwara, K.; Higashimae, S.; Nomoto, A.; Ogawa, A. Org. Lett. 2016, 18, 2114, DOI: 10.1021/acs.orglett.6b00746
  3. (a) Ickes, A. R.; Ensign, S. C.; Gupta, A. K.; Hull, K. L. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 11256, DOI: 10.1021/ja505794u. (b) Gupta, A. K.; Hull, K. L. Synlett 2015, 26, 1779, DOI: 10.1055/s-0034-1380750. (c) Ensign, S. C.; Vanable, E. P.; Kortman, G. D.; Weir, L. J.; Hull, K. L. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 13748, DOI: 10.1021/jacs.5b08500.
  4. (a) Ilardi, E. A.; Vitaku, E.; Njardarson, J. T. J. Med. Chem. 2014, 57, 2832, DOI: 10.1021/jm401375q. (b) M.; Voituriez, A.; Schulz, E. Chem. Rev. 2007, 107, 5133, DOI: 10.1021/cr068440h

山口 研究室

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