[スポンサーリンク]

一般的な話題

比色法の化学(後編)

[スポンサーリンク]

今回は後編ということで、食品化学の分野で用いられる比色法について紹介しようと思います。といっても、食品化学に用いられる比色法は多種多様なので、今回はそのうちの一つである亜硝酸ナトリウム(NaNO2)の測定について説明しましょう。

 

光の吸収と補色について

その前に前回省略してしまった吸光度について説明したいと思います。この話題は実は奥が深いです。専門的に説明すると、この話で1トピックになってしまうでしょう。ここでは本当に簡単に説明します。

いわゆる私達が見ている物の色とは、全波長の光のうち、特定波長(特定の色)の光が物に吸収された後の、吸収されなかった光の色を見ていることになります。(ここで、マンセルシステムとは互いに補色の関係にある色を対角線上に表示したもの(図1)。

例えば黄緑色の光が物に吸収されると、私たちの目には物は紫色に見えるということです。これは前編のMTT法で説明したFormazanの話に該当します。Formazan の570 nmにおける吸光度とは、黄緑色の光をFormazanがどれぐらい吸収したのかを示すものだったのです。 (「吸光度が高い=その補色が濃く見える」ということなので、前回の説明も間違いではありませんが、より正確に説明すると、こういうことです。)

図1. マンセルシステム(光の色と補色の関係)

図1. マンセルシステム(光の色と補色の関係)

さて、ここで吸光度を改めて定義してみましょう。

吸光度(absorbance)とは、特定の波長の光に対して物質の吸収強度を示す尺度です。

吸光度Aは次の定義に従って算出されます。

A = log10(lo / l)
lo = blank cell(溶媒のみ)の透過光強度  l = sample cell(溶液)の透過光強度

吸光度はSample Cellの光路長 (L) とSample濃度 (C) に比例し、

A = αLC  α = 吸光係数

で表されます。これをランベルト・ベールの法則 (Lambert-Beer law) と呼びます。この法則を使い、検量線から物質濃度を測定することが可能です。

calorimetry_2
また、吸光度を測定するためには分光光度計というものが使用されます。測定する光の波長帯により光源と検出器が異なるので、赤外分光光度計、可視・紫外分光光度計のいずれかの装置で測定されます。つまり、紫外光(〜380nm)、可視光(380〜780nm)、赤外光(780nm〜)によって、装置を使い分けているということです。

 

食品添加物の話

少し前おきが長くなりましたが、そろそろ本題に入ります・・・おっと、ここで食品添加物の話を簡単にしなければいけません。また、前おきかとつっこまれそうですが・・・今回は食品添加物としての亜硝酸ナトリウムについて取り上げるので、この話は避けて通れません。今しばらくおつきあい下さい。

皆さんは食品添加物にどのようなイメージを持っているでしょうか?

昨今、食品の安全性が問題になっており、食品添加物の危険性もよく話題になっていると思われます。しかし、元来、食品添加物とは食品の製造や加工に使用したり、品質を保持したりするほか、味や見栄えをよくするために使われていました。

そのうちの一つである亜硝酸ナトリウムは発色剤としてハムやベーコン、明太子などに使用されています。このような役割の他、食品中の菌の発生を抑えるという有用な働きをする反面、体内の2級アミンと反応してニトロソアミンとなり、発がん性を示すと言われています。よって、食品中に添加してよい亜硝酸ナトリウムの量は法律により、安全性が保たれる量に制限されています(市販食品はまず、大丈夫でしょう)。とはいえ、中には基準量を上回る食品も確かにある(輸入品など)ため、食品中の亜硝酸ナトリウムを測定する必要があります。

亜硝酸ナトリウムの測定方法

ここで、比色法を用いた亜硝酸ナトリウムの測定という本題にやっと入ります。

亜硝酸ナトリウムの測定にはジアゾ化法を用います(図2)。そうです、高校化学でみんなが嫌々ながら(?)反応式を丸覚えした、あのジアゾ化です。

原理ですが、水でホモジナイズして食品から抽出した亜硝酸ナトリウムを、スルファニルアミドと反応させジアゾニウム塩を作ります。これにナフチルエチレンジアミンを加えて、ジアゾカップリング反応させることでアゾ化合物が生成し、ピンク色の溶液となります。この溶液の540 nmでの吸光度を測定します。結果は亜硝酸イオン(亜硝酸根)の量で表します。

図2. ジアゾ化法の原理

図2. ジアゾ化法の原理

 

おわりに

いかがでしたか?今回で比色法の化学はとりあえず、おしまいです。“はかる”ということに色がよく関わっていることを理解していただければ今回の目的はほぼ達成できたかなと思っています。それでは、また。

(2005.6. 21 まろ)
※本記事は以前より公開されていたものをブログに移行したものです。

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4487797004″ locale=”JP” title=”光と色の100不思議”]

光の色と補色の関係について、より詳しい説明があります。

[amazonjs asin=”4889250050″ locale=”JP” title=”食品衛生検査指針 食品添加物編 2003″]

本トピックでは原理にしか触れませんでしたが、食品(検体)の前処理や亜硝酸イオンの検量線の範囲など、実験技術のノウハウはこの本に書かれています。興味のある方は参考にしてください。

関連リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. キノコから見いだされた新規生物活性物質「ヒトヨポディンA」
  2. 高分子材料におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用:高分子…
  3. 続・日本発化学ジャーナルの行く末は?
  4. 音声読み上げソフトで書類チェック
  5. 【技術者・事業担当者向け】 マイクロ波がもたらすプロセス効率化と…
  6. サントリー生命科学研究者支援プログラム SunRiSE
  7. 水-有機溶媒の二液相間電子伝達により進行する人工光合成反応
  8. 有機合成化学協会誌2021年4月号:共有結合・ゲル化剤・Hove…

注目情報

ピックアップ記事

  1. オーラノフィン (auranofin)
  2. 『Ph.D.』の起源をちょっと調べてみました① 概要編
  3. 多様なペプチド化合物群を簡便につくるー創薬研究の新技術ー
  4. 有機合成化学協会誌2024年10月号:炭素-水素結合変換反応・脱芳香族的官能基化・ピクロトキサン型セスキテルペン・近赤外光反応制御・Benzimidazoline
  5. ディスコデルモライド /Discodermolide
  6. むずかしいことば?
  7. 世界最小電圧の乾電池1本で光る青色有機EL
  8. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり⑲:Loupedeck Live Sの巻
  9. 電気化学の力で有機色素を自在に塗布する!
  10. 触媒的芳香族求核置換反応

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2005年6月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP