[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

(-)-Cyanthiwigin Fの全合成

[スポンサーリンク]

The total synthesis of (-)-cyanthiwigin F by means of double catalytic enantioselective alkylation
Enquist, J. A.; Stoltz, B. M. Nature 2008, 453, 1228. doi:10.1038/nature07046

 

カリフォルニア工科大学Brian M. Stoltzらによる報告です。

このような三環性炭素骨格をもつ天然物には、興味深い生物活性を示すものが数多く存在します。Cyanthiwigin F自体も例に漏れず、その細胞毒性から抗ガン作用が期待されています。 このため、全合成の研究材料として近年多くの注目を集めています。

Stoltzらは、以下の鍵反応を巧みに用い、全合成を達成しています。

まず第一は、脱炭酸型不斉αーアルキル化反応。この反応は、立体混合物から単一の立体を持つ化合物へと収束する反応です。動的速度論的光学分割の一種ですが、彼らはこのような反応群を立体除去反応(Stereoablative Reaction)[1]と名付けています。Pd-PHOX触媒条件[2]を用い、構築困難な二つの四級炭素を完全な立体制御にて一段階で構築しています。

 

cyanthiwiginF_2.gif

 

続いて、連続的メタセシス反応。基質には三箇所オレフィンがあるのですが、基質の特性を上手く活用し、分子内反応(RCM)のみをまず起こし、引き続きビニルピナコールボランを加えて分子間反応(CM)を進行させています。これによってC環構築と官能基付与を同時に行っています。巧妙なルート設定の賜といえます。

cyanthiwiginF_3.gif

 最後に、ラジカル環化条件[3]に伏すことで、A環を構築しています。環化は完全なジアステレオ選択性で進むそうで、これまた縮環構造の特性を上手く活かした方法となっています。

cyanthiwiginF_4.gif

 

論文を通じてそこまで斬新なコンセプトが見いだせないため、Natureに掲載されている理由には正直言って疑問符がつきます。ただ、恐ろしいほどに無駄の無いルート設定で合成をしあげており、レベルの高い合成研究の一つであるのは確かと思われます。

 

関連文献

  1. 総説: Mohr, J. T.; Ebner, D. C.; Stoltz, B. M. Org. Biomol. Chem.  2007, 5, 3571. DOI: 10.1039/b711159m
  2. Behenna, D. C.; Stoltz, B. M. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 15004.  DOI: 10.1021/ja044812x
  3. Yoshikai, K.; Hayama, T.; Nishimura, K.; Yamada, K.; Tomioka, K. J. Org. Chem. 2005, 70, 681. DOI: 10.1021/jo048275a

 

関連リンク

  • Stoltz Group カリフォルニア工科大学・ストルツ研究室のホームページ

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 自動車の電動化による素材・化学業界へのインパクト
  2. YMC-DispoPackAT 「ケムステを見た!!」 30%O…
  3. howeverの使い方
  4. 「坂田薫の『SCIENCE NEWS』」に出演します!
  5. Carl Boschの人生 その7
  6. 【基礎からわかる/マイクロ波化学(株)ウェビナー】 マイクロ波の…
  7. 電子不足トリプトファン誘導体を合成する人工酵素
  8. 【経験者に聞く】マテリアルズ・インフォマティクスの事業開発キャリ…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. チャート式実験器具選択ガイド:洗浄ブラシ・攪拌子編
  2. 【東日本大震災より10年】有機合成系研究室における地震対策
  3. ベーシック反応工学
  4. 第八回ケムステVシンポジウム「有機無機ハイブリッド」を開催します!
  5. ケムステVシンポ「最先端有機化学」開催報告(後編)
  6. 褐色の要因となる巨大な光合成膜タンパク質複合体の立体構造の解明
  7. チャン転位(Chan Rearrangement)
  8. 乳がんを化学的に予防 名大大幸医療センター
  9. ダイセル化学、有機合成全製品を値上げ
  10. ホウ素から糖に手渡される宅配便

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2008年6月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2023年3月号:Cynaropicri・DPAGT1阻害薬・トリフルオロメチル基・イソキサゾール・触媒的イソシアノ化反応

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年3月号がオンライン公開されました。早…

日本薬学会  第143年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part 1

さて、日本化学会春季年会の付設展示会ケムステキャンペーンを3回にわたり紹介しましたが、ほぼ同時期に行…

推進者・企画者のためのマテリアルズ・インフォマティクスの組織推進の進め方 -組織で利活用するための実施例を紹介-

開催日:2023/03/22 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part3

Part 1・Part2に引き続き第三弾。日本化学会年会の付設展示会に出展する企業とのコラボです。…

第2回「Matlantis User Conference」

株式会社Preferred Computational Chemistryは、4月21日(金)に第2…

日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part2

前回のPart 1に引き続き第二弾。日本化学会年会の付設展示会に出展する企業とのコラボです。…

マテリアルズ・インフォマティクスにおける従来の実験計画法とベイズ最適化の比較

開催日:2023/03/29 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part1

待ちに待った対面での日本化学会春季年会。なんと4年ぶりなんですね。今年は…

グアニジニウム/次亜ヨウ素酸塩触媒によるオキシインドール類の立体選択的な酸化的カップリング反応

第493回のスポットライトリサーチは、東京農工大学院 工学府生命工学専攻 生命有機化学講座(長澤・寺…

カーボンニュートラルへの化学工学: CO₂分離回収,資源化からエネルギーシステム構築まで

概要いま我々は,カーボンニュートラルの実現のために,最も合理的なエネルギー供給と利用の選…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP