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化学者のつぶやき

ヒト胚研究、ついに未知領域へ

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ヒト胚を受精後13日まで培養できる方法が編み出された。この手法を用いて、ヒトの初期発生を知るための手がかりが得られそうだ。

 

タイトルおよび画像はネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)の出版している日本語の科学まとめ雑誌である「Natureダイジェスト」8月号から。最新サイエンスを日本語で読めるNatureダイジェストから個人的に興味を持った記事をピックアップして紹介しています。過去の記事は「Nature ダイジェストまとめ」を御覧ください。

 

ヒト胚の体外培養 で最長記録達成

13日が最長記録。短いように思うかもしれませんが、ヒト胚を培養できる期間には限りがあります。ヒトで受精が行われたあと、1個の胚が2つに分かれて、一卵性双生児となる限界の発生段階だからです。すなわち、この時点を過ぎると唯一無二の個体となるため、倫理的な観点から「規制」されているのです。正確に言えば、以下の図で濃い青色の部分は「法律で14日以内」と規定され、薄い青色の部分は「学協会のガイドラインで規定」されています。

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各国の規制状況(出典:Natureダイジェストより)

  そもそもそんな規定があっても、これまでの体外培養の最高は9日。今回大幅に記録を更新したこととなります。これらを達成したのは英国の生物学者Magdalena Zernicka-Goetz博士らと米国のAli Brivanlou教授らのチーム。その手法と研究は同日のNature誌とNature Cell Biology誌を飾りました[1]。記事では、この培養手法と得られた知見、そして、今後のヒト胚培養期間制限に関して述べています。

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ヒト胚培養に成功した英米の研究代表者

「観察できる胚発生の限界が1時間伸びるたびに新しい宝箱が開いていくのです」

と、Brivanolou教授は述べています。研究者ならば新しい宝箱を開けたいところですが、倫理との大きなトレードオフが待ち構えています。

 

「再現性の危機」はあるか?−調査結果

 なんと9割にのぼる研究者が、実験結果の再現性に危機的な状況を感じていることが明らかとなった。

1

「再現性の危機は」あるか調査結果(出典:Natureダイジェストより)

以前Natureダイジェストでは「実験の再現性」についての特集を組んでいましたが、今回の記事では研究の「再現性」に関してNature誌がアンケートをとった結果をまとめています。全データは元記事でみることができ、本記事はウェブで無料公開されています。ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

データをみてみるとやはり、化学者は”ある程度”、化学分野の論文を信頼していることがわかります。しかし、論文を再現できなかった経験は一番多いというなんとも面白い結果がでていました(苦笑)。合成化学者ならば、完全に再現できないというと化合物は合成できますが、収率が記載通りにはならないことを本結果は述べているように思えますが、他の分野の方はどうなんでしょうか?

それらの関連記事は以下。

 

博士研究員の給与引き上げを機に改革推進を

Editorialに気になる話が。現在の博士研究員の最低賃金4万7476ドルの引き上げが予定されているとのこと。

そもそも、「そんなにたくさんもらってるの?」

と思いました。私が博士研究員だった約10年前(2007)は3万〜3万5千ドルがいいところ。

海外学振を頂いていたのでよかったですが、私のポスドク先であったラホヤ(カルフォルニア州サンディエゴ)では、家賃の相場が1500ドル/月前後であったので、税金もとられると、博士研究員はかなり苦しかったようです。ただ給料があがるのは良いことだと思いますが、予算はかわっていないので、その分雇える人数が少なくなりますね。

たくさんもらえるに越したことはないですが、そんなこと気にせずに、「こんなことやれたら絶対に世界を変えることができるのに!」と毎日研究のアイデアを考えていたものでした。

実際は、世界を変えることのできるアイデアではなかったもの、間に合わなかったもの(そもそもより頭の良い研究者がよりよい方法で世の中に紹介した)が大半でしたが、いつも”夢”みていたのを覚えています。

無い物ねだりというのはこういうものですね。ちょっと話がそれましたが、記事では、博士研究員の増加や人事の停滞の要因、キャリアセミナーについて簡単に述べています。

 

夏休みの読み物としていかが?

企業の研究者は夏休みはない!というかもしれませんが、大学関係の研究者や学生は夏休みですね。Nature ダイジェストは購読すれば、バックナンバーもすべて読むことができます。こんな時こそゆっくりと科学の最新の話題について勉強してみましょう。私は、ここぞとばかりに毎日のように依頼された論文審査と自分の論文を仕上げる合間に、これまでのバックナンバーをのぞこうと思います。

最後に1点だけ要望。通常PDFやアプリで読めるNature ダイジェストですが、引用文献やオリジナル記事に直接リンクをつけてくれると、原著論文や元の記事に簡単に楽にたどり着けるどうにかなりませんか。ということで、「Nature ダイジェスト」ご意見係にも意見を出してみました。返信はまたここでお知らせいたします。

ではまた次回に。

 

参考文献

  1. (a) Deglincerti, A.; Croft, G. F.; Pietila, L. N.; Zernicka-Goetz, M.; Siggia, E. D.; Brivanlou, A. H. Nature 2016, 533, 251. DOI: 10.1038/nature17948 (b)  Shahbazi, M. N.; Jedrusik, A.; Vuoristo, S.; Recher, G.; Hupalowska, A.; Bolton, V.; Fogarty, N. M. E.; Campbell, A.; Devito, L. G.; Ilic, D.; Khalaf, Y.; Niakan, K. K.; Fishel, S.; Zernicka-Goetz, M. Nature Cell Biology 2016, 18, 700. DOI: 10.1038/ncb3347

 

過去記事はまとめを御覧ください

 

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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