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化学者のつぶやき

ChemDraw の使い方【作図編④: 反応機構 (前編)】

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ChemDraw の使い方シリーズでは、これまでに基本機能の解説に続いて、作図編として、反応スキーム触媒サイクル、そしての書き方を紹介してまいりました。今回は、『反応機構』を見やすく、そして誤解を与えないように書くための機能とテクニックを紹介します。

ChemDraw で反応機構を書くのは難しい

電子の流れを表す巻矢印を用いて反応機構を書く際、手書きであれば矢印の軌跡を自在に示すことができます。しかし、それを ChemDraw で再現するためには、テクニックと経験が必要です。例えば、Mannich 反応の反応機構を ChemDraw で描いたものを下に示します。

上の反応機構でも読み手に伝わりますが、ぎこちない点や誤解を招きやすい点があります。 ウォーレン有機化学の言葉を借りると、「有機化学では言葉よりも構造の方が重要」なのです。それと同じように、反応機構を説明する際には、長ったらしい文章ではなく、美しく描かれた電子の動きを示す巻矢印さえあれば十分だと思います。上の反応機構は、具体的に、以下の点を改善することが可能です。

巻矢印と構造式が同じ色なので紛らわしい

遠くへ伸びた巻矢印の頭の大きさが、小さい巻矢印の頭と不揃い

ヘテロ原子に向かう矢印が小さい

多重結合の π 電子による求核攻撃の配向性が不明瞭

本記事では、反応機構を美しく描きたいというこだわりを持つ方のために、反応機構の巻矢印を書くために便利なツールとコツを伝授いたします。今回の記事と次回の記事を併せて読めば、次のような反応機構を書けるようになることを保証します。

色を変える

構造式と巻矢印を同じ色で描いてしまうと、構造式と巻矢印が同じ強さで視界に入るため、パッと見たときに単調なスキームになってしまいます。矢印と構造式の色を変えて、しっかり区別することをオススメします。

スタイルツールバーの右端に色を変更するツールがあります。色を変更したい巻矢印を選択した後で、好きな色に変更しましょう。Chem-Station 内の記事では、水色やグレーがよく使用されています。水色は鮮やかで、視界に映えます。グレーはあまり目立ちませんが、白黒印刷にも耐えるので、印刷する配布資料を作成する際などにはオススメです。ただし、グレーはデフォルトに用意されていないため、自作する必要があります。といっても、手順はとても簡単です。「Other…」を選んで、黒色から明度を下げるだけです。

ツールボックスの巻矢印は使いどころが限られる

Arrows のツールボックスには、270, 180, 120, そして 90°の弧を描くことができる巻矢印が用意されています。これらの巻矢印のうち、120°の巻矢印は、炭素骨格上で共役した二重結合間の電子の動きを表すには適しています。

しかし、そのほかの場面でツールボックスの中の巻矢印をそのまま使用すると不細工になりがちです。例えば、カルボニル基への付加反応を表すために、二重結合の電子を酸素上に動かす巻矢印を描きたいとします。180º の弧を使うと、矢印の頭が酸素原子にぶつかってしまいます。ぶつからないように矢印を少し右にずらすと、矢印の始点が結合から浮いてしまいます。そこで、弧の角度を変えて、270º の矢印を使ってみると、結合に接するように巻矢印が出発してしまいます。理想を言うと、一番下の手書きの図のように、結合から垂直に矢印を出発したいところです。このような問題は、ヘテロ原子上の孤立電子対の押し出しを表す際にも遭遇します。ChemDraw でこれらの矢印を上手く書くことはできないのでしょうか。

巻矢印の中心角やたわみ具合を変更する

もっともシンプルな対処法は、巻矢印の中心角を変更することです。触媒サイクルの書き方の記事でも紹介されている通り、巻矢印と頭や尻にカーソルを合わせ、円弧にそってドラッグすると、巻矢印の中心角を変更できます。このテクニックを反応機構の巻矢印に応用すれば、矢印がヘテロ原子と衝突したり、長さが不足したりする問題を一部解決できます。

ついでに言うと、矢印の腹の部分にカーソルを合わせて上下にドラッグすれば、矢印の始点と終点を固定したまま、たわみ具合を変更することも可能です。巻矢印を遠くに伸ばすと、円の半径が大きくなるので、弧のアーチが高くなってしまいますが、このテクニックを利用すれば、遠くに伸ばした矢印をコンパクトにすることができます。

楕円弧の巻矢印は意外に便利

先ほど、ツールバー中の巻矢印を紹介しましたが、1 種類紹介していませんでした。それは、中心角 270°の楕円弧の巻矢印です。このツールでは、ドラッグする方向によって様々な向きの楕円弧を描くことができます。ドラッグの終点は、矢印の終点に対応します。ただし、ドラッグの開始点は、矢印の始点と一致しません。一見すると使いどころが難しそうな巻矢印ですが、前述した角度調節のテクニックと組み合わせることで、巻矢印の表現の幅が一気に広がります。

例えば、下の図に示した手順で、ヘテロ原子の孤立電子対の押し出しを表す巻矢印を書くことができます。つまり、楕円巻矢印を作成したあと、角度調節機能により余分な部分を除くのです。こうすることで、孤立電子対から垂直にスタートし、終点が結合と垂直に向くような巻矢印を描くことができます。

さらに、この矢印を利用すると、ウォーレン有機化学が言うところの、「原子指定の矢印」を作成可能です。つまり、結合電子対から出発して、片側の原子を貫くように巻矢印を描くのです。そうすることで、どの原子が求核剤として作用するかを指定することができます。この原子指定の矢印を使えば、芳香族求電子置換反応や不飽和結合への求電子付加反応の配向性を明確に記述することができます。

ベジエ曲線で自在に矢印を書く

もっと自由自在に矢印を描くツールとして、ベジエ曲線なるものが存在します。これについて紹介しようと思っていたのですが、ベジエ曲線とはなんだ?という解説をすると長くなりそうです。なので、このツールを使えばどんな曲線を描くことができるかを示しておいて、詳細は次回にお話しいたします。

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PhD候補生として固体材料を研究しています。学部レベルの基礎知識の解説から、最先端の論文の解説まで幅広く頑張ります。高専出身。

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