[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

1,3-ジエン類のcine置換型ヘテロアリールホウ素化反応

[スポンサーリンク]

3-ブロモピリジン類と1,3-ジエン類を用いたcine置換型ヘテロアリールホウ素化反応が開発された。Cine置換という珍しい形式の反応が新たに見出されたのは現象論として興味深い。

1,3-ジエン類のアリールホウ素化

豊富な化学資源である1,3-ジエン類の二官能基化は重要な反応である。その一例としてアリールホウ素化反応がある。1,3-ジエン類にアリールハライドとビスピナコラトジボロン(B2pin2)を触媒存在下作用させることにより、一挙にアリール基およびボリル基の導入ができる。

2017年にBrownらはCu/Pd協奏触媒を用いる1,3-ジエンの初のアリールホウ素化反応を報告した。すなわち、Cu/ItBu触媒とパラジウム触媒を用いることで、イソプレンの1,4-アリールホウ素化が進行する[1a](1A)。また、興味深いことに4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を添加することで選択性が変わり、2,1-アリールホウ素化が進行する。なお、この反応選択性の発現機構は未だわかっていない。また、Cu/Pd触媒系を用いて、イソプレン以外の1,3-ジエン類に対するアリールホウ素化も報告されており、パラジウム触媒とCu/IPr触媒を用いれば3,4-アリールホウ素化が、Cu/SIMes触媒では1,4-アリールホウ素化が選択的に進行する[1b]

今回、インディアナ大学のBrown准教授らはハロゲン化アリールとして3-ブロモピリジンを用いて1,3-ジエン類のヘテロアリールホウ素化を行ったところ、反応は3,4-アリールホウ素化で進行し、興味深いことに予期していないcine置換体4が得られることを見出したので紹介する(1B)

図1. (A) 1,3-ジエン類のアリールホウ素化反応 (B) Cine置換を伴うアリールホウ素化

 

Copper-Catalyzed Heteroarylboration of 1,3-Dienes with 3-Bromopyridines: A cineSubstitution 

Smith, K. B.; Huang, Y.; Brown, M. K. Angew. Chem., Int. Ed. 2018, 57, 6146.

DOI:10.1002/anie.201801139

論文著者の紹介

研究者:M. Kevin Brown
研究者の経歴:
-2008 Ph.D. at Boston College (Prof. Amir H. Hoveyda)
2008-2011 NIH Post-doctoral fellow at Harvard University (Prof. E. J. Corey)
2011-2017 Assistant Professor at Indiana University
2017- Associate Professor at Indiana University
研究内容:新規クロスカップリング反応の開発

論文の概要

上述の研究の際、Cu/ItBuPd協奏触媒存在下、3-ブロモピリジン1を用いた場合、cine置換体23488:9:3で生成することを発見した(2A)Cu/ItBu触媒のみを用いることで選択性が向上しすることがわかった。なお、この際、1,3-ジエン上では3,4-アリールボリル化が進行する。

 種々の3-ブロモピリジンで反応が進行するが、3-ブロモキノリン(5)ではこのcine置換は起こらず、キノリンC2位での付加反応が進行しジヒドロキノリン6を与える(2B)

 種々の重水素ラベル実験および交差実験により以下の反応機構が推定されている(2C)1) 銅触媒とKOtBuから生じる銅アルコキシドとBpinとのトランスメタル化によりボリル銅Aが生成する。2) Aがイソプレンにボラクプレーションしアリル銅BCとなる。3) BCは平衡状態にあるが[2]、おそらくB1に付加しDとなる。4) Dの形式的な1,5-脱離を経て銅カルベン中間体Eとなる。5) Eの異性化、続く再芳香族化により2が得られ、触媒が再生する。この機構に基づけば、キノリンの場合Dの形式的1,5-脱離が遅く、ジヒドロキノリン体が得られると考えられる。

 今回、3-ブロモピリジンとB2pin2を用いた1,3-ジエンのcine置換型ヘテロアリールボリル化法が見出された。他の銅求核剤などを用いた類似の反応へと展開が期待できる。

図2. (A) 基質適用範囲, (B) キノリンを用いた場合の反応, (C) 推定反応機構

参考文献

  1. [a]Smith, K. B.;Brown, M. K. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 7721. DOI: 10.1021/jacs.7b04024[b] Sardini, S. R.; Brown, M. K. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 9823. DOI: 10.1021/jacs.7b05477
  2. Li, X.; Meng, F.; Torker, S.; Shi, Y.; Hoveyda, A. H. Angew. Chem., Int. Ed. 2016, 55, 9997. DOI: 10.1002/anie.201605001
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 「炭素ナノリング」の大量合成と有機デバイス素子の作製に成功!
  2. セルロースナノファイバーの真価【オンライン講座】
  3. 提唱から60年。温和な条件下で反芳香族イソフロリンの合成に成功
  4. t-ブチルリチウムの発火事故で学生が死亡
  5. エステルからエーテルへの水素化脱酸素反応を促進する高活性固体触媒…
  6. 電子実験ノートSignals Notebookを紹介します ①
  7. マテリアルズ・インフォマティクスの推進成功事例セミナー
  8. 在宅となった化学者がすべきこと

注目情報

ピックアップ記事

  1. カルシウムイオン濃度をモニターできるゲル状センサー
  2. 第45回「天然物合成化学の新展開を目指して」大栗博毅教授
  3. 有機の王冠
  4. 第48回―「周期表の歴史と哲学」Eric Scerri博士
  5. 電子実験ノートSignals Notebookを紹介します ②
  6. 消せるボールペンのひみつ ~30年の苦闘~
  7. 「一家に1枚」ポスターの企画募集
  8. ついったー化学部
  9. その反応を冠する者の名は
  10. 李昂 Ang Li

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年8月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

二酸化マンガンの極小ナノサイズ化で次世代電池や触媒の性能を底上げ!

第649回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院環境科学研究科(本間研究室)博士課程後期2年の飯…

日本薬学会第145年会 に参加しよう!

3月27日~29日、福岡国際会議場にて 「日本薬学会第145年会」 が開催されま…

TLC分析がもっと楽に、正確に! ~TLC分析がアナログからデジタルに

薄層クロマトグラフィーは分離手法の一つとして、お金をかけず、安価な方法として現在…

先端の質量分析:GC-MSおよびLC-MSデータ処理における機械学習の応用

キャラクタライゼーションの機械学習応用は、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)およびラボオートメ…

原子半径・電気陰性度・中間体の安定性に起因する課題を打破〜担持Niナノ粒子触媒の協奏的触媒作用〜

第648回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科(山口研究室)博士課程後期2年の松山…

リビングラジカル重合ガイドブック -材料設計のための反応制御-

概要高機能高分子材料の合成法として必須となったリビングラジカル重合を、ラジカル重合の基礎から、各…

高硬度なのに高速に生分解する超分子バイオプラスチックのはなし

Tshozoです。これまでプラスチックの選別の話やマイクロプラスチックの話、およびナノプラスチッ…

新発想の分子モーター ―分子機械の新たなパラダイム―

第646回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機反応論研究室 助教の …

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

Carl Boschの人生 その11

Tshozoです。間が空きましたが前回の続きです。時系列が前後しますが窒素固定の開発を始めたころ、B…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP