[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

「触媒的オリゴマー化」によるポリピロロインドリン類の全合成

植物アルカロイドポリピロロインドリン類の合成が達成された。合成の鍵は銅触媒によるトリプタミドのヨードニウム塩とのアリール化/環化反応を繰り返す、「触媒的オリゴマー化」である。

ポリピロロインドリン類

植物アルカロイドであるポリピロロインドリン類は、鎮痛、抗菌、抗真菌および抗ウイルス作用などの多様な薬理活性を示す(図1A[1])。

これらは、モノマーであるピロロインドリンが、その不斉4級炭素とアリール結合<C3a-C7’>により繰り返しつながったオリゴマーである。最終的に、不斉4級炭素同士<C3a-C3a’>で結合することによりオリゴマー化が終結する。

このユニークなオリゴマー鎖を構築する上での合成化学上の課題は、C3a-C7’位の結合に関連する不斉4級炭素構築である。代表的な例として、ホジキンシン類の全合成過程における不斉Heck反応(93%、79-83% ee、図1B[2])とジアステレオ選択的α-アリール化(77%、single diastereoisomer、図1C[3])が挙げられる。

今回、プリンストン大学のMacMillan教授らは、キラル銅触媒3によるトリプタミド1のジアリールヨードニウム塩2との高エナンチオ選択的アリール化/環化反応によって、C3a-C7’位の結合に関連する不斉4級炭素を構築した(98%、86% ee、図1D)。本反応を活用することにより、未踏分子であったクアドリゲミン HおよびイソサイコトリジンB、Cを含む、ポリピロロインドリン類の全合成を達成したので紹介する。

図1. ポリピロロインドリン類<C3a-C7’>位の結合に関連する不斉4級炭素の構築法

 

“Catalyst-controlled oligomerization for the collective synthesis of polypyrroloindoline natural products”

Jamison, C. R.; Badillo, J. J.; Lipshultz, J. M.; Robert J. Comito, R. J.; MacMillan, D. W. C. Nature Chem. 2017.

DOI: 10.1038/NCHEM.2825

論文著者の紹介

研究者:David W. C. MacMillan
研究者の経歴:
1996 カリフォルニア大学アーバイン校 博士号取得(L.E.Overman教授)
1998 ハーバード大学 博士研究員 (D.A.Evans教授)
2004 カリフォルニア工科大学 Earle C. Anthony Professor of Chemistry
2006 プリンストン大学 A. Barton Hepburn Professor of Chemistry
2011プリンストン大学 James S. McDonnell Distinguished University Professor of Chemistry
研究内容:不斉有機分子触媒の開発にもとづく新規合成方法論の開拓

論文の概要

著者らは、キラル銅触媒によるトリプタミドとジアリールヨードニウム塩の高エナンチオ選択的アリール化/環化反応を既に報告しているが、用いたジアリールヨードニウム塩は単純なアリール基のみをもつ [4]

ポリピロロインドリン類を合成するためにはアリール基にもうひとつの「トリプタミド部位」を導入する必要があった。

問題は、2つの同じ「トリプタミド部位」をもった本反応は、連鎖的に進行し、ポリメリ化することだ。そこで、トリプタミドのC3位を電子求引性の高いケトアミドに変えたトリプタミド部位をもつヨードニウム塩2とすることで解決した。

すなわち、カップリングにより生成した4のケトアミド部位の求核性は1より低下し、ポリメリ化が抑制できる。本反応の効率およびエナンチオ選択性の向上には、低濃度であること、2を過剰量用いること、キラル銅触媒の改良(最終的に3が最適)が必要であった。

4はHantzschエステルによってC3位選択的に還元することにより、求核性の高いトリプタミド部位をもつ5へ変換することができる。5から「カップリング→C3位還元反応」を繰り返し行うことにより、トリマー6およびテトラマー7を導くことができた。

本合成の詳細は論文を参照されたいが、567から各4工程で不斉4級炭素同士<C3a-C3a’>の結合と末端のピロロインドリン部位を構築することで、非天然物を含むポリピロロインドリン類の全合成を達成した。

図2. ポリピロロインドリン類の全合成

参考文献

  1. Steven, A.; Overman, L. E. Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 5488. DOI: 10.1002/anie.200700612
  2. Kodanko, J. J.; Overman, L. E. Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 2528. DOI: 10.1002/anie.200351261
  3. Snell, R. H.; Woodward, R. L.; Willis, M. C. Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 9116. DOI: 10.1002/anie.201103864
  4. Zhu, S.; MacMillan, D. W. C. .J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 10815. DOI: 10.1021/ja305100g
The following two tabs change content below.
山口 研究室
早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. サーモサイエンティフィック「Exactive Plus」: 誰で…
  2. ケムステ版・ノーベル化学賞候補者リスト【2018年版】
  3. 人工DNAから医薬をつくる!
  4. 有機化合物で情報を記録する未来は来るか
  5. プロワイプ:実験室を安価できれいに!
  6. 印象に残った天然物合成1
  7. カルシウムイオン濃度をモニターできるゲル状センサー
  8. シャンパンの泡、脱気の泡

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. キャリー・マリス Kary Banks Mullis
  2. ビタミンB1塩酸塩を触媒とするぎ酸アミド誘導体の合成
  3. 切磋琢磨するアメリカの科学者たち―米国アカデミアと競争的資金の申請・審査の全貌
  4. アンソニー・スペック Anthony L. Spek
  5. アセチレン、常温で圧縮成功
  6. レイングルーバー・バッチョ インドール合成 Leimgruber-Batcho indole synthesis
  7. ファンケル、「ツイントース」がイソフラボンの生理活性を高める働きなどと発表
  8. ボロン酸を用いた2-イソシアノビフェニルの酸化的環化反応によるフェナントリジン類の合成
  9. カイコが紡ぐクモの糸
  10. カーボンナノベルト合成初成功の舞台裏 (1)

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

博士後期で学費を企業が肩代わり、北陸先端大が国内初の制度

 北陸先端科学技術大学院大学は、産業界と連携した博士人材の育成制度を2019年度から開始する。企業が…

有機ホウ素化合物を用いたSNi型立体特異的β-ラムノシル化反応の開発

第166回目のスポットライトリサーチは、慶應義塾大学理工学部博士課程・西 信哉(にし のぶや)さんに…

アルキルアミンをボロン酸エステルに変換する

不活性C(sp3)–N結合をボリル化する初めての反応が開発された。入手容易なアルキルアミンから様々な…

生物の仕組みに倣う:背景と光に応じて色が変わる顔料の開発

第165回目のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科 ・坂井美紀(さかい みき)さんに…

イミデートラジカルを用いた多置換アミノアルコール合成

イミデートラジカルを用い、一挙に多置換アミノアルコールを合成する方法が開発された。穏和な条件かつ位置…

ジェフリー·ロング Jeffrey R. Long

ジェフリー·ロング(Jeffrey R. Long, 1969年xx月xx日-)は、アメリカの無機材…

PAGE TOP