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捏造は研究室の中だけの問題か?

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 今回はScientific Misconduct、いわゆる「データ捏造」について思うところありまして記載させていただきます。

Tshozoです。ドイツとか超好きです。 「窒素固定をめぐって-2」の前に気になる事件が起きましたので小トピックとして紹介致します。

その事件というのは、燃料電池用触媒をめぐるデータ捏造の事件です(記事のリンクはこちら、大学からの調査結果はこちら)。全国紙にも載りましたが、まずは整理を。

燃料電池は水素(還元剤)と酸素(酸化剤)から水(など)が出来るときのエネルギーを電位差として取り出すための機構です(下図)。この反応を効率よく進めるには両極(Anode, Cathode)に触媒が必要で、通常は高価な貴金属が使用されています。

 

fuel-cell_Crosssection.jpg

燃料電池(PEMFC)の構造。水素極(Anode)と酸素極(Cathode)に分かれ、

熱ではなく電気として化学エネルギーを取り出す(図はこちらから引用)

 東工大の研究員Wu Libin氏はカーボンアロイ(グラファイトの出来損ない・酸化反応において触媒作用を示す場合がある)の構造制御に加え、窒素原子ドープ追加処理に着目。貴金属に代わる触媒に使用するため2010年前後からプロジェクトが開始しました。論文も何本か出したようです。

ところが昨年、プロジェクト参加企業の分析で、貴金属が含まれていないはずの電極から白金が出てきたため騒ぎになりました。調査した結果、Libin研究員が意図的に白金を混入させ効果を水増ししていたことが判明。厳しい処分が下されるものと推測されます。論文捏造事件が世間を騒がせたのはこれが初めてではありませんが、自分が経験した分野でも起きたか、と悲しい気持ちになったのが今回記事を書くきっかけになりました。今後研究組織のトップを担っていかれるであろう方々の耳情報になれば幸いです。

で、今回疑問に浮かんだのは「捏造は研究室の中だけの問題かな?」です。一般には教授・スタッフが悪いということで手打ちになりますが、本当にそうでしょうか。

まずは下記の表に物理・バイオ・薬理・化学にまつわる主な捏造事件を挙げます。2はNHKスペシャル「論文捏造」でも取り扱われました(なお有名なFleischman-Ponsの常温核融合についてはまだ議論中ですので除外、東大で騒ぎになったアニリール・セルカン氏はそもそも科学者と呼べないのでこれも除外しました)。

 

有名な捏造事件一覧表(こちらも参照ください)

Millikanを除き、ほとんどの場合の論文がRetractionを喰らっている

misconduct-table.jpg

1-9でそれぞれ何が起きたか簡単に記載します。なお、ほとんどのケースで論文はScience, Natureなどの超一流誌に投稿されていました。

1:Robert Millikanが電子電気素量の成果論文を部下から実質略奪(1909年)

2:ベル研のHendrik Schonによる超伝導・有機半導体の成果がことごとく捏造と発覚(2000年)

3:LBNLで超ウラン元素の発見に関わったVictor Ninovによる不正なデータ処理が発覚(2002年)

4:ソウル大の黄禹錫がES細胞に関わる論文データを捏造(創作)、倫理2違反も発覚(2005年)

5:多比良和誠教授とその助手によるmRNAに関わる論文から多数のデータ捏造が発覚(2005年)

(ただし多比良教授の実績は高く、懲戒解雇には多方面から反対声明が出された)

6:下村伊一郎教授が学生に出させた論文に捏造データがあったことが発覚(2005年)

(当該学生がやや暴走気味だったとの噂あり)

7:杉野明雄教授が多数の論文でデータを捏造したことが発覚(2006年)

(杉野教授は「岡崎フラグメント」発見にも関わった分子生物学のキーパーソンだった・本人は記録したノートを「奪い去られた」と主張。ただ共研者が『自殺』したり(こちら)、杉野教授本人の意見書が全く証拠として採用されなかったりと、色々と物議を醸した)

8:岡崎研二教授、原田直明准教授が老化・認知症に関わる論文でデータを多数捏造(2011年)

(原田准教授はテレビにも何度か出演していたもよう)

9:D. Sames教授が、博士課程の学生B. Sezenによる実験の再現が出来ないため捏造と判断、JACS論文6本を含む7本(全て2人のみによる著作論文)を撤回(2006年)

(後日研究倫理委員会(ORI)が行った調査によると、Sezenによる明らかな捏造があったとのこと)

 

・・・ただ、このままではどこに問題があったかよくわかりません。そこでこれらの10ケースについて、論文が出来るまでのプロセスを切り口として問題を見てみましょう。研究室をひとつのシステムとした場合、下図のように表されると思います。

 

Labosystem1.jpg

一般的な研究室のシステム

企業の場合は一般に部長、部メンバとなる

外部(企業や社会的ニーズなど)や知的好奇心から励起を受けて、教授以下が自律的に動き、Outputを出すというのが一般的な研究室の在り方だと思います。まずは、上記の10ケースで問題があったところを番号ごとに記してみます。

 Labosystem2.jpg

やっぱり教授とスタッフに問題が・・・?

 ということで、ほぼ予想通りですが

A.スタッフの意識の問題(Outputのインパクト+名声>信義則)

B.現物と結果の再現性を教授がチェックしてない(できない)

C.教授の意識の問題(Outputのインパクト+名声>信義則)

の3点に問題があったようです(私見:個人的にはBがかなり重大な問題だと思います。現物を見て、紙上のデータだけでなく全てのトレースを自分の目の前でする・させることが大きな防止策になると思います・・・)。

しかし、それだけでしょうか?

実はこの図にはOutputのインパクトを見ている「世間の目」(厳密に言うなら、研究資金出所の目)が抜けています。通常、政治的なものを除けば研究室予算やGrantは研究室のOutputのインパクトによって決められ、一流紙に論文が掲載されれば得やすくなるのは容易に推測できます。その場合教授含めたスタッフが信義則を裏切る方向に出るのは、名誉や研究資金を求める人の心理を考えた場合無理からぬことでしょう。

一番の問題は、この「世間の目」の基準が多くの場合「一流論文誌に載ったかどうか」にかなり依存していることだと思います。例えば2のシェーンの担当教授であったProf. Batloggは捏造論文を元に名門大学への実質的な昇進を受け、それは撤回されていません。捏造しても逃げ切ってしまえば勝ちという構図がありうることにもなります。

このような事態を防ぐには、研究室内の意識改革はもちろんですが「世間の目」の評価基準も変わらなければならないと思います。つまり本来はNatureに載った云々で決まるものではなく、「誰がやっても再現できる」ことが大原則でなければなりません。例えば予算の8割は再現性が確保できた2年以上前の成果に基づく、残りの2割は捏造リスクも考え2年以内の成果に基づくとするなどしなければ、同じような事件はなくならないでしょう。特に専門性が高度に進み、再現性がとりにくい分野でこそ、直近の成果を評価に取り入れる、ということの見直しは必要なのではないかと思います。

ただ研究予算がますます縮小される中、現場の大学内や研究室ではこのような理想論がなかなか通らないのは理解しています。再現性なんか誰も見ねえ、今をとりあえず逃げ切ればOKだ、誰でもやってる、という意識も出るでしょう。ですが研究室の方々にはそこを何とか踏ん張って、「お天道様に顔向けできる研究者である」ことを守っていって頂きたいと思います。  また、評価をする側の方々にも、科学的な正しさに基づく評価基準を立てていって頂きたいと切に願います。

 (注:全ての案件につき事件報告書、Web情報及び書籍から集めた内容に基づき記載しておりますが、当事者の方々にとっては不快に感じられる表現があるかもしれません。また、実際には政治的なパワーにより責任をなすりつけられたケースもありえます。つきましては訂正等必要でしたらご意見頂ければありがたいです

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メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

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