[スポンサーリンク]

日本人化学者インタビュー

第四回 期待したいものを創りだすー村橋哲郎教授

[スポンサーリンク]

第4回目のインタビューは第2回目の伊丹健一郎先生からの紹介で大阪大学大学院工学部研究科応用化学専攻生越研究室の准教授(2013年3月現在分子科学研究所教授)である村橋哲郎先生からインタビューをいただきました。村橋先生は分子中で金属原子を自在に並べるための新しい化学手法の開発をおこなっている若手研究者です。新しい結合様式を有する金属分子を創成し、これらの金属クラスター化合物がどのような物性や反応性を示すかということに興味をもって研究を行っています。それでは御覧ください!

 

Q. あなたが化学者になった理由は?

 

物質を創り出すことがとてもおもしろいということ、そして、やりがいがあるということが理由です。化学は「原子間の結合様式にもとづくありとあらゆる現象を研究し、そこで得た知識を生活に役立てようとする学問である」と言われています。化学者たちは個々が得意とする様々な切り口でこれに挑んでいます。私自身にとって化学研究の大きな魅力のひとつは、どんな化合物を創り出すか(発想)やどんな設計をするか(デザイン)が研究を進める上でとても重要な要素になることです。個々の化学者が持つ独得の感性が、発想や設計に反映されることで、化学はクリエイティブであり続けています。幸いにも、化学者になるという夢が実現し、今現在、夢が続いています。

 

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

 

今は化学者以外は考えられないですね。ただ、この質問に答えるために考えていますと、子供の頃は、簡単に「何々になりたい」と答えられましたが、今はそうたやすく言えなくなってしまっていることに気付きます。あまり知らないでいた方が、敷居が低くなっていろいろなことに飛び込んでいけるのでしょうね。

 

Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?

 

新しい結合構造を持つ化合物を創製し、その性質を明らかにすることを目指して研究をおこなっています。化合物の性質は内部の結合様式に大きく依存しますから、新しい結合様式をもつ化合物を創り出すことは多くの新しい可能性を生み出します。構造が斬新であればあるほど、そこから新しい化学的概念が生まれる可能性が大きくなり、物質の活用方法に新たな道を拓くことにつながると考えています。可能性を広げられるような、「期待したい」物質を自分らしい発想で創り出していきたいと考えています。最近では、多数の金属原子を有機分子の間に組み入れて自在に配列する手法の開発に取り組んでいます。たとえば、安定な分子中に金属の一本鎖や単層シートを構築できるようになってきています。可能性を感じさせてくれるとても楽しみな化合物群です。

 

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

 

科学者だともう沢山いすぎて困りますが、やはり最初は、今の研究に関係の深いGeoffrey Wilkinson、Ernst Otto Fischerですね。WilkinsonとFischerの「貫くような」合成研究スタイルは真の凄みがあります。

geoffrey-wilkinson-1-sized

Geoffrey Wilkinson

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

 

1ヶ月くらい前に、阪大工学部化学棟3Fの共通単結晶X線構造解析装置を使って、学生さんと一緒にサンドイッチ型錯体の構造解析にトライしたのが最後です。自分自身でおこなった合成実験の方は、もう何ヶ月も前になります。金属を有機分子間に集積させるための原料として使える可能性がある金属錯体を合成し、学生さんに渡したのが最後です。

 

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

 

想像を絶する設定ですね。トム=ハンクス主演の映画「キャスト・アウェイ」を思い出しましたが、そこまでサバイバルを課す設定ではないのでしょうね。音楽は最近はメロディアスな曲が良くて、Barbara Streisandが歌っているThe Way We Wereなどの名曲が良いです。本は、歴史小説が多いです。以前は幕末以降の近現代ものは余り好きではなく避けていました。何せ複雑ですから。しかし、最近はむしろ近現代ものの方を読んでいるような気がします。

[amazonjs asin=”B0088LBY7Q” locale=”JP” title=”キャスト・アウェイ DVD”]

 

Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。

 

沢山居ますが、同世代ですと、寺尾潤先生(京都大学)を推薦します。とてもアクティブな先生です。

 

(インタビューは2010年9月21日に行いました)

 

村橋哲郎

大阪大学大学院工学研究科准教授。1995年大阪大学卒業、1999年大阪大学大学院工学研究科博士課程終了、その後大阪大学工学研究科助教を経て、2007年より現職。2013年現在分子科学研究所教授。

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 第97回―「イメージング・センシングに応用可能な炭素材料の開発」…
  2. 第89回―「タンパク質間相互作用阻害や自己集積を生み出す低分子」…
  3. 第81回―「均一系高分子重合触媒と生分解性ポリマーの開発」奥田 …
  4. 第24回 化学の楽しさを伝える教育者 – Darre…
  5. 第107回―「ソフトマター表面の物理化学」Jacob Klein…
  6. 第69回「見えないものを見えるようにする」野々山貴行准教授
  7. 第17回 音楽好き化学学生が選んだ道… Joshua…
  8. 第85回―「オープン・サイエンス潮流の推進」Cameron Ne…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 単一細胞レベルで集団を解析
  2. ユネスコ女性科学賞:小林教授を表彰
  3. タミフル(オセルタミビル) tamiflu (oseltamivir)
  4. スチレンにCoのHATをかぶせれば、インドールを不斉アルキル化
  5. ヨアヒム・フランク Joachim Frank
  6. トビアス・リッター Tobias Ritter
  7. Impact Factorかh-indexか、それとも・・・
  8. 不斉カルボニル触媒で酵素模倣型不斉マンニッヒ反応
  9. マテリアルズ・インフォマティクスにおける回帰手法の基礎
  10. 芳香環メタ位を触媒のチカラで狙い撃ち

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年9月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

マティアス・クリストマン Mathias Christmann

マティアス・クリストマン(Mathias Christmann, 1972年10…

ケムステイブニングミキサー2025に参加しよう!

化学の研究者が1年に一度、一斉に集まる日本化学会春季年会。第105回となる今年は、3月26日(水…

有機合成化学協会誌2025年1月号:完全キャップ化メッセンジャーRNA・COVID-19経口治療薬・発光機能分子・感圧化学センサー・キュバンScaffold Editing

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年1月号がオンライン公開されています。…

配位子が酸化??触媒サイクルに参加!!

C(sp3)–Hヒドロキシ化に効果的に働く、ヘテロレプティックなルテニウム(II)触媒が報告された。…

精密質量計算の盲点:不正確なデータ提出を防ぐために

ご存じの通り、近年では化学の世界でもデータ駆動アプローチが重要視されています。高精度質量分析(HRM…

第71回「分子制御で楽しく固体化学を開拓する」林正太郎教授

第71回目の研究者インタビューです! 今回は第51回ケムステVシンポ「光化学最前線2025」の講演者…

第70回「ケイ素はなぜ生体組織に必要なのか?」城﨑由紀准教授

第70回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

第69回「見えないものを見えるようにする」野々山貴行准教授

第69回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

第68回「表面・界面の科学からバイオセラミックスの未来に輝きを」多賀谷 基博 准教授

第68回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

配座制御が鍵!(–)-Rauvomine Bの全合成

シクロプロパン環をもつインドールアルカロイド(–)-rauvomine Bの初の全合成が達成された。…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP