筆者の稼業はれっきとした大学教員(化学者)です。毎日実験ばかりしてるイメージをお持ちの方も多いかもしれません。
しかし前にも少し書きましたが、実態はそうでもありません。実にたくさんの文章を書く機会に遭遇します。グラントの申請書、論文、学会要旨、報告書という成果直結型の文章に加え、学生のもってくる文章・エントリーシート・学振申請書の添削、はたまたメールの返信、インターネット検索etc・・・毎日毎日、数えきれない種類の文章書きに馬鹿にならない時間を費やしているわけです。
当然ながらこれらはすべてPC上で行われます。今の時代、手書きの機会は本当に減りました。つまり事務処理能率を規定するのは、他でもない自分のタイピング速度というわけです。この速度が速ければ速いほど雑務に割くべき時間を少なくできるわけで、高速タイピング=研究者の生産性向上に直結する重要なスキルたることは間違いありません。
そこでこのシリーズでは、日々の雑務ストレス軽減、生産性向上に役立つ「高速タイピングの訓練法」について、筆者の体験を元に解説していこうかと思います。生産性向上・空き時間確保のためと思って習得してみましょう! それだけの価値あるスキルだと思います。
いつもながら本ブログの読者がどれほど興味をもつか謎な記事ではありますが(苦笑)、「化学研究ライフハック」の一貫だと、ともかく捉えて頂ければ幸いです。
何はともあれブラインドタッチ
今回「初級編」で扱うスキルはブラインドタッチです。いきなりハードル高すぎだ!と思わるかもしれませんが、ともかくこれが出来ないと後続の「中級編」「上級編」記事が意味不明になってしまう事情があるので仕方ありません(マジです)。
さて、お手持ちのキーボードを眺めてみてください。F・Jキーの表面には、触ってわかる突起がついています。ここに左右の手の人差し指を軽く置いてください。そして隣に続くキーに中指~小指を自然な形でおき、親指をSpaceキーの上に置きます。これがホームポジションと呼ばれる定位置で、あらゆる打鍵の基本になります。
ホームポジションの図解
(http://mshikiworld.blog136.fc2.com/blog-category-10.htmlより引用)
タイピングの初歩は、ホームポジションを起点に、打ちたいキーから最も近い指を動かして、最小限の動作でキーを打つスタイルの習得です。打ってる最中にどこに指があるかわからなくなったら、その都度F・Jキーの突起を探りあてて、ホームポジションに逐一戻すよう心がけます。これを意識するだけで、打ち方がだいぶ違ってくるはずです。
何度もこれをやってるうちに、おぼろげながらキー位置を覚えてくるはずです。ある程度の数を覚えたら、キーを目で見ずに手探りで文字を打ってみてください。何回もやってみて、見なくても打てる位置を徐々に増やしていきます。最終的にすべてのキーを見なくても打てるようになったら、ブラインドタッチは習得完了です!最初からスムーズに打てる必要はありませんが、一文字一文字キーボードとにらめっこしながら打つのに比べ、圧倒的な打鍵スピードが得られているはずです。
具体的な訓練策ですが、日常の文章書きをそのまま練習機会に出来れば、それに越したことはありません。仕事の片付けとタイピング訓練が同時進行で行えるからです。もちろんそれが現実的では無く、仕事には集中したいというのであれば、休憩時間やプライベートでのメール返信時にでも、意識して取り組んでみるのが良いでしょう。
また、世の中にあるタイピングゲームを使って楽しく取り組むのも良い案だと思います。
筆者が学生の頃は「北斗の拳 激打」というソフトがとても流行りました。その後「Typing of the Dead」(下の動画参照)が登場し、ゲームセンターのあちこちで見かけるようになりました。最近のトレンドは詳しく把握していませんが、フリーソフトでも面白いタイピングゲームは探せば沢山あると思います(このあたりとか参照)。自分にマッチしているものを、しばらくやってみるのが良いでしょう。
タイピング高速化はクリエイティビティの質的向上に寄与する
高速タイピング習得によって何がどう変わるのでしょうか。文章雑務が早く終わるようになる―当然ながらこれこそが最大のメリットです。しかしこれに限らず、様々に良い効果が付随してくるように筆者には思えます。
たとえば雑務が早く終わるようになれば、時間の使い方にとにかく幅が生まれます。「簡単な文章書きならいつ何時でも終えられるぜ!」といった妙な自信と余裕も生まれてきます。つまり文章書きのに要する時間の途方も無さゆえ、心理的に追い込まれる度合いが少なくなってくれます。
加えて大量の文章を書くことも、だんだん苦にならなくなってきますし、タイピングの高速化に伴い、思考速度と文章執筆速度が近づくことになります。こうなると、PC上に思考を手当たり次第アウトプットすることも思いのまま。紙の上に手書きしながらいろいろひねり出すよりも、高速タイピングをフル活用してPC上にアイデアを書き出すほうが、ずっと効率が良くなってきます。デジタルなので、書きだしたアイデアにしても、完成に不要なものはどんどん削って気にならなくなってきます。
何度も書きなおして良い物にする推敲は、良いアウトプットのために重要なプロセスです。当然ながらこの推敲プロセスも速くなるため、余った時間を思考と構想に回せるようになります。
つまりタイピング高速化の結果として、文章に厚みと濃さを出せるようになる、もっといえば、クリエイティブ作業の品質向上がもたらされるのです。
英語の勉強時間をタイピング訓練に回してみよう
いろいろ競争の激しいグローバル化社会、何かしらスキルを身につけなければ生き残れない・・・そんなやむなき圧力に負け、誰しも取り組み始めるのが「英語」でしょう。研究者にとって英語はもちろん必須なのですが、学生の皆さんはといえば、必ずしも研究畑に進む人ばかりでも無いはずです。人によっては英語を身につけたところで、今後使う機会に全く恵まれないケースも多々あるのではないでしょうか。
しかしタイピングは別物です。簡単なWord書類作成、EXCEL作業、メールを書くなどの作業はどんな職種でも必要になります。つまりキーボードに触れる機会は誰にでもあるわけです。言い換えれば、タイピングは英語よりも使用機会が圧倒的に多いスキルなのです。
そういうわけで筆者個人は、「英語を学ぶよりもタイピング速度向上に取り組むほうが、よっぽど生産性の向上に直結する」との確信を持っています。
そこで提案ですが、毎日30分の英語学習に取り組み始めるその前に、タイピング練習を毎日30分続け、まずはブラインドタッチをマスターしてしまうのはいかがでしょうか。ブラインドタッチの習得によって、日々の文章雑務にかかる時間がぐんと減り、仕事の効率が目に見えて上がるはずです。こうなれば英語勉強のための空き時間も作りやすくなるので、総じて無駄がありません。
その一方で、「英語を覚えてからタイピング習得」という逆順は、あまり現実的ではありません。英語習得に要する時間のほうが圧倒的に長いためです。本業の合間で取り組む限り、ケムステスタッフでも1000時間以上かかってしまうという実験結果が現実に出ています(!) 。つまりこの順序では、何時まで経ってもタイピング訓練を開始できないのです!
ブラインドタッチの習得に要する時間はもちろん個人差がありますが、毎日30分の訓練をきっちりやれば2週間~1ヶ月ぐらいでマスターできる程度だと筆者個人は思っています。少なくとも英語よりは圧倒的に習得容易であり、かつ短期的・中長期的な効能もずっと大きいものだと断言出来ます。
時間的余裕のある学生さんは、ぜひとも研究室配属前にブラインドタッチをマスターしてしまうことをオススメします。これだけで、いろんなラボワークがぐんと捗ってくれます。加えて就活でも、はたまた就職したあとでも、ずっと使える永年スキルの一つになるはずです。忙しいラボに配属されてからでは、余分な訓練に時間を使う余裕がなくなるケースもあり、注意が必要です。早いうちに始めておくに越したことはありません。
ブラインドタッチ、その後
かくしてブラインドタッチに慣れてきたら、あとは毎日仕事でどんどん文章を打ちこみ経験を積むだけで、打鍵スピードはおのずと速くなるはずだ・・・と言いたいのは山々なのですが、実はこのやり方ではある程度で頭打ちになってしまいます。一定レベル以上の打鍵速度を目指したいなら、やはり特別な訓練に取り組む必要があります。
これについては、次回の「中級編」でご紹介しましょう!
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