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【ケムステSlackに訊いてみた①】有機合成を学ぶオススメ参考書を教えて!

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日本初のオープン化学コミュニティ・ケムステSlackを立ち上げてもうすぐ2年が経ちます。

かなり多くのチャンネルが出来てきましたが、中でも質問チャンネルはニーズが高く、専門家も交えた貴重なやりとりから読むだけで勉強になる話も満載です。研究室や身近にノウハウがない話題を気軽に訊いて、ものごとを前に進められるインフラとしても重宝されているようです。

オープンチャンネルですが、Slackに参加されてない方・頻度高く使っておられない方は流れていってしまう話題については中身を目にする機会がありません。個人的に勿体ないと感じた事情もあるので、【ケムステSlackに訊いてみた】と題して、Q&Aを抜粋・編集したうえでブログ記事化してみることにしました。

第1段は、下記の質問を取り上げます。

Q. おすすめの参考書について教えていただきたいです。

私は、来年度からB3となります。学部の有機化学の授業では、ボルハルトショアーを今年度1年間で学び終えました。また、私は有機合成化学(天然物や医薬品の合成研究)の研究室を志望しており、博士課程まで進学したいと思っております。そして、私の大学では、学部3年の後期から研究室配属で、3年の前期にはボルハルトショアー以上の有機化学の知識を学ぶための講義がありません。そこで、院試のためではなく、これからの自分の研究活動のために早いうちから発展的な有機化学を学びたいと思っています。ネットでも調べてみたのですが、いまいちどれが良いのかわかりません。実際に使ってみた感想などを交えて、これらを学ぶための良い教科書や参考書を教えていただけないでしょうか。よろしくお願いいたします(こちらのスレッドより)。

「ボルハルト・ショアー現代有機化学」は、数多くの学部レベル有機化学の講義底本として採用される定番中の定番教科書です。ただ有機合成を専門にしていこうとすると若干物足りないところもあり、一段上の話を学びたい、という質問だと解釈できます。専門化学を学び始めた大学生や、研究室配属を控える学生であれば、誰しも同じような悩みをもつと思います。

[amazonjs asin=”4759820299″ locale=”JP” title=”ボルハルト・ショアー現代有機化学(第8版)上”][amazonjs asin=”4759820302″ locale=”JP” title=”ボルハルト・ショアー現代有機化学下”]

この質問に対する回答欄で紹介されていた書籍をまとめておきます。

基礎・一般論を一段詳しく知りたい

[amazonjs asin=”4807908715″ locale=”JP” title=”ウォーレン有機化学〈上〉”][amazonjs asin=”4807908723″ locale=”JP” title=”ウォーレン有機化学〈下〉”]

ボルハルトショアーの復習も含め、アドバンストな教科書を読みたいならば「ウォーレン有機化学(第2版 上・下)」がおすすめです。意欲ある学部生にも読みこなせるとは思いますが、内容は高度なので、修士課程ぐらいまで十分に対応可能です。

[amazonjs asin=”4807908200″ locale=”JP” title=”大学院講義有機化学 I(第2版): 分子構造と反応・有機金属化学”][amazonjs asin=”4807908219″ locale=”JP” title=”大学院講義有機化学 II(第2版)”]

さらにハイレベルな有機化学の勉強には「大学院講義有機化学(上・下)」です。こちらは純国産の教科書で、カバーする分野も幅広いですので、大学院レベル・研究入口の教養レベル(専門用語とか概念など)を一通り押さえることが出来ます。合成化学を専門にするなら、II巻から優先的に読むのが適切だと思います。

[amazonjs asin=”4621071912″ locale=”JP” title=”マーチ 有機化学〈上〉―反応・機構・構造”]

また「マーチ有機化学」も昔からある上級参考書です。上2つよりも詳しい印象ですが、どちらかというと実践的合成化学と言うより、分子の特性とか基礎論に関する話題が主体であるように思います。ニーズに応じて選ぶといいでしょう。

反応機構の理解を深めたい、演習を通じて巻矢印の使い方をマスターしたい

合成化学をより深く理解するためには、目の前の反応がどういう機構で進行しているかを自分なりに理解できなくてはなりません。巻矢印はそのための強力な表記ツールです。

[amazonjs asin=”B086BY4F2Q” locale=”JP” title=”演習で学ぶ有機反応機構:大学院入試から最先端まで: Advanced Organic Reaction Mechanism (a.k.a. Fukuyama Mechanism Book)”]

演習で学ぶ有機反応機構」は、合成化学を志す学生向けの巻矢印演習書としては定番です。C問題は難しすぎるので、多くの方はA・B問題がクリア出来れば上出来だと思います。

[amazonjs asin=”4759819959″ locale=”JP” title=”有機化学1000本ノック 反応機構編”]

難易度的にもとっつきやすい問題集で、なおかつ訓練の数を稼ぎたいなら最近発売された「有機化学1000本ノック・反応機構編」も候補になると思います。

合成に良く使われる実用的化学変換・反応を学びたい

[amazonjs asin=”B086854X2W” locale=”JP” title=”最新有機合成法: 設計と戦略(第2版)”]

最新有機合成法:設計と戦略」は実践的な選択性の議論など詳しく書いてある書籍です。ちょっと凝った化合物の合成化学に携わることがある方なら、万人におすすめです。

[amazonjs asin=”B086BH3YC7″ locale=”JP” title=”人名反応に学ぶ有機合成戦略”]

人名反応に学ぶ有機合成戦略」は全合成研究で使われている人名反応が見開きで紹介されています。実施例や改良法なども参考文献つきでよくまとまっているので、実用的・代表的化学反応の網羅的勉強に向いています。

[amazonjs asin=”4759814795″ locale=”JP” title=”天然物合成で活躍した反応: 実験のコツとポイント”]

天然物合成で活躍した反応」も「人名反応から~」と位置づけは似ていますが、実施の際の注意点や実験手順・テクニックなども記載されている点が異なり、より実用的な観点から反応を眺めることができます。

洋書で天然物合成を学びたい:

[amazonjs asin=”3527292314″ locale=”JP” title=”Classics in Total Synthesis: Targets, Strategies, Methods”][amazonjs asin=”3527306846″ locale=”JP” title=”Classics in Total Synthesis II: More Targets, Strategies, Methods”][amazonjs asin=”3527329579″ locale=”JP” title=”Classics in Total Synthesis III: New Targets, Strategies, Methods”]

Classics in Total Synthesis」は天然物合成研究の歴史的マイルストーンを勉強できるいわばこの分野のバイブルです。英語なので読みこなすことはハードルがありますが、輪読回などで活用するには良い書籍でもあるので、一人ではなくグループで取り組んでみては如何でしょうか。

まとめ

このようにいろいろ挙げられますが、学部生からの質問への回答として端的にまとめておくなら、

「ボルハルト・ショアーの復習を兼ねて、ウォーレン有機化学→大学院講義有機化学の順で勉強を進めていく」

のが手順として良いと思います。

その他、興味が出てくれば有機金属やケミカルバイオロジーなどの教科書を読んだり、その先は専門書や論文で勉強することが多くなります。そこからは読み終わってみてまた考えれば良いと思います。

化学のオープンコミュニティ・ケムステSlack

まだ入ってないけど、ちょっと興味湧いてきた!という方、まずはこちらのケムステSlack開設時の記事を見てみてください。よければぜひ、一緒に化学を楽しみ、盛り上げる仲間になっていただけると幸いです!

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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