[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

出発原料から学ぶ「Design and Strategy in Organic Synthesis」

[スポンサーリンク]

今回は昨年Wiley社より出版された書籍「Design and Strategy in Organic Synthesis」の紹介をしたいと思います。

[amazonjs asin=”3527319646″ locale=”JP” title=”Design and Strategy in Organic Synthesis”]

有機合成を専門としておられるケムステ読者の方も多いと思います。そのため、釈迦に説法かもしれませんが、光学活性な有機化合物を合成する際、その手法は大きく分けて以下の3つあります。

・アキラルな分子に対し、不斉補助基や不斉触媒を用いてキラルな化合物へ誘導する「不斉合成法

・糖やアミノ酸など容易に入手可能な光学活性分子を利用し目的化合物へ誘導する「キラルプール法

・合成したラセミ体を、反応速度差やジアステレオマー塩の溶解度差を利用して分ける「光学分割法

天然物などの複雑分子を合成する際には、これらの方法で得た光学活性な化合物から、さらに多段階、場合によっては数十工程の変換を経て標的分子にたどり着くことになります。

そのため天然物合成では、合成戦略だけでなく、光学活性な出発原料のデザインが非常に重要です。具体的には「簡単に」「たくさん」「純度よく」手に入り、「この先の反応に有利」な構造のものが理想的ということになります。

しかし、出発原料選びのセンスを養うには、多くの経験を必要とするように思えます。筆者は有機合成の研究をしている大学院生なのですが、逆合成してたどり着いた出発物質が意外にも高額だったり、調製が難しかったり、思ったような反応性を示してくれなかったりと、出発原料を上手く選択できなかったがために何度か痛い目にあいました。

そんな中、昨年wiley社より、天然物合成の出発原料について体系的に解説した書籍「Design and Strategy in Organic Synthesis」が出版されました。

 

本書の内容

目次は全部で18章からなっていますが、内容的には大きく三つの部分に分けられます。

4章までは近代有機合成の哲学や潮流を解説しており、これまでに合成された天然有機化合物や医薬品を紹介しています。

5章から9章では、キラルな出発原料を用いる合成法について説明し、利用可能なキラルビルディングブロックをアミノ酸やテルペンといった出発物質ごとに網羅。

10章から18章で、具体的な全合成の例を解説しています。

特に、一つの化合物に対し複数の合成例を挙げ、それぞれの戦略と出発原料を比較している点で、非常に参考になります。

 

勉強会の資料に

wiley社から出版された天然物合成の教科書といえば、いわずと知れた名著「Classics in Total Synthesis」シリーズや、問題解決の手引きになる「Dead Ends and Detours」シリーズなどが有名かと思います。しかし、出発原料にフォーカスして天然物合成を解説した本は多くなかったのではないでしょうか。

2014-06-04_15-57-17

 

 

本書で取り上げられている標的化合物はタキソールやFK506など一世を風靡した難関ばかりで、全合成を達成した化学者たちがそれぞれ独自の戦略に合わせて巧みに出発原料を選択していることがよく理解できます。

この書籍の欠点を唯一挙げるとすれば、「値段が高い!」ということでしょうか。筆者は学会の書籍コーナーでつい衝動買いしてしまいましたが、ちょっと学生には手を出しづらい価格だと思います。研究室に一冊おいて、勉強会の資料にするのはいかがでしょうか?

 

関連書籍

[amazonjs asin=”3527292314″ locale=”JP” title=”Classics in Total Synthesis: Targets, Strategies, Methods”][amazonjs asin=”3527306447″ locale=”JP” title=”Dead Ends and Detours”]
Avatar photo

ジャスモン酸

投稿者の記事一覧

有機合成化学、特に天然有機化合物の合成を専門にしている大学院生です。まだまだ未熟な身ですが、夢は大きく志は高くをモットーに日々研究にいそしんでいます。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 電子実験ノートSignals Notebookを紹介します ②
  2. アルメニア初の化学系国際学会に行ってきた!③
  3. 研究者の活躍の場は「研究職」だけなのだろうか?
  4. レジオネラ菌のはなし ~水回りにはご注意を~
  5. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり⑰:MacBo…
  6. MIDAボロネートを活用した(-)-ペリジニンの全合成
  7. 機械学習は、論文の流行をとらえているだけかもしれない:鈴木ー宮浦…
  8. 理系ライターは研究紹介記事をどうやって書いているか

注目情報

ピックアップ記事

  1. リード指向型合成 / Lead-Oriented Synthesis
  2. 【書籍】化学における情報・AIの活用: 解析と合成を駆動する情報科学(CSJカレントレビュー: 50)
  3. 新型卓上NMR Spinsolve 90 が販売開始
  4. ホットキーでクールにChemDrawを使いこなそう!
  5. 低分子ゲル化剤・増粘剤の活用と材料設計、応用技術
  6. アルキンの環化三量化反応 Cyclotrimerization of Alkynes
  7. ポンコツ博士の海外奮闘録 ケムステ異色連載記
  8. 異分野交流のススメ:ヨーロッパ若手研究者交流会参加体験より
  9. 均一系水素化 Homogeneous Hydrogenaton
  10. 高純度フッ化水素酸のあれこれまとめ その1

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2014年6月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

OIST Science Challenge 2025 に参加しました

2025年3月15日から22日にかけて沖縄科学技術大学院大学 (OIST) にて開催された Scie…

ペーパークラフトで MOFをつくる

第650回のスポットライトリサーチには、化学コミュニケーション賞2024を受賞された、岡山理科大学 …

月岡温泉で硫黄泉の pH の影響について考えてみた 【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい! というわけで、硫黄系温泉を巡る旅の後編です。前回の記事では群馬県草津温泉をご紹…

二酸化マンガンの極小ナノサイズ化で次世代電池や触媒の性能を底上げ!

第649回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院環境科学研究科(本間研究室)博士課程後期2年の飯…

日本薬学会第145年会 に参加しよう!

3月27日~29日、福岡国際会議場にて 「日本薬学会第145年会」 が開催されま…

TLC分析がもっと楽に、正確に! ~TLC分析がアナログからデジタルに

薄層クロマトグラフィーは分離手法の一つとして、お金をかけず、安価な方法として現在…

先端の質量分析:GC-MSおよびLC-MSデータ処理における機械学習の応用

キャラクタライゼーションの機械学習応用は、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)およびラボオートメ…

原子半径・電気陰性度・中間体の安定性に起因する課題を打破〜担持Niナノ粒子触媒の協奏的触媒作用〜

第648回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科(山口研究室)博士課程後期2年の松山…

リビングラジカル重合ガイドブック -材料設計のための反応制御-

概要高機能高分子材料の合成法として必須となったリビングラジカル重合を、ラジカル重合の基礎から、各…

高硬度なのに高速に生分解する超分子バイオプラスチックのはなし

Tshozoです。これまでプラスチックの選別の話やマイクロプラスチックの話、およびナノプラスチッ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP