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スポットライトリサーチ

リアルタイムで分子の自己組織化を観察・操作することに成功

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第175回目のスポットライトリサーチは、福井智也 博士にお願いしました。

福井さんの所属する物質・材料研究機構(NIMS)分子機能化学グループは、超分子化学・高分子化学の発想を色濃く反映させた機能性材料開発を行なっています。

今回紹介する研究は、当該分野では調査必須の化学プロセス「自己集合」を扱ったものであり、これを顕微鏡で観察するだけでなく、なんと自ら操作までしてしまったという驚きの成果です。本成果はAngew. Chem. Int. Ed.誌原著論文とプレスリリースにて公開されています。

“Direct Observation and Manipulation of Supramolecular Polymerization by High‐Speed Atomic Force Microscopy”
Fukui, T.; Uchihashi, T.; Sasaki, N.; Watanabe, H.; Takeuchi, M.; Sugiyasu, K. Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 15465. doi:10.1002/anie.201809165

共同研究者の杉安和憲先生より、福井さんについてのコメントを頂いています。現在はJSPS海外特別研究員として留学されており、才気溢れる人物像が伝わってきます。それでは今回もインタビューをお楽しみ下さい!

福井君は、博士課程の3年間とポスドクの1年間の4年間をNIMSで過ごしました。福井君みたいな人は見たことがないです。まず、吸収力がすごいです。あっという間に、僕よりも超分子ポリマーについて詳しくなりました。そしてバリバリ実験します。出てきたデータはじゃんじゃん解析します。難しそうなことでも、なんでもないという風にやってのけます。短距離走や走り幅跳びもすごいらしいです。「週末は何したの?」と聞くと、ケーキを焼いていたり、絵画を鑑賞していたり、スクワットしていたり。福井君って何人いるの?っていうくらいパワフルです。なんでそんなにできるのか?一緒にいてわかりましたが、かなりの努力家です。そしていつも楽しそうです。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

これまでに僕たち物質・材料研究機構(NIMS)分子機能化学グループは、ポルフィリン分子の自己集合過程について研究してきました1,2(図1)。この分子は、一旦、準安定状態のナノ粒子状集合体を形成したのち、熱力学的に安定なファイバー状集合体へ形態転移します。ファイバー状集合体を断片化してナノ粒子状集合体と混合すると、ファイバー状集合体が「タネ」となって、ナノ粒子状集合体がファイバー状集合体へ速やかに形態転移します。これをタネ重合と呼びます。

図1 ポルフィリン分子のタネ重過程と高速AFMによる直接観察の模式図

本研究では、名古屋大学の内橋貴之教授の研究グループと共同で、高速原子間力顕微鏡(高速AFM)によるタネ重合過程のリアルタイム観察(100ミリ秒の時間分解能)に成功しました。さらに、AFMの探針によって分子集合体を部分的に分断し、そこへ異なる分子を組み込むことにも成功しました。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

最も思い入れがあるのは、分子集合体を分断する実験です。この実験の始まりは、高速AFMによりタネ重合過程を観察している際、突然、ファイバー状集合体が短くなったという予想外の結果に端を発します(図2)。種々の解析から、分子集合体が突然短くなった原因は、高速AFMの探針により分子集合体が切断されたためであるとわかりました。当初、分子集合体を切らずに成長させ続ける方法を模索していたのですが、実験を進める中で、「探針により分子集合体が切断されるのなら、それを利用して意図的に分断することもできるはず」と発想を転換しました。内橋先生とディスカッションを行い、実験に取り掛かったところ、予想通り分子集合体を分断することができました。さらに驚くことに、溶液中に存在するモノマー分子によって、分断箇所が綺麗に修復されたのです。「分子集合体が切れた」という予想外の結果から着想を得て、最初は思いも寄らなかった様々な実験系に発展できたという点で、とても思い入れがあります。

図2 分子集合体のタネ重合過程および修復過程の観察

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

最も難しかったのは、分子の自己集合過程のマニピュレーションです。分子集合体の修復過程の観察実験を別の角度から眺めると、高速AFMの探針により分子集合体を分断するトップダウン的手法と、分子の自己集合(ボトムアップ的手法) とを組み合わせたナノテクノロジーと考えられることに気がつきました。これを発展できれば、まるで「手術」をするかのように、分子集合体の操作・改変ができると期待しました。しかし、それを実現するための分子設計が難しく、結構な時間がかかってしまいました。最終的には、数種類の分子を合成し、それら全てについて検討を行い、ベストな分子を選択しました。また、高速AFMでの直接観察と同時に様々な実験操作を行うことは非常に難しく、内橋先生と渡辺博士の熟練された測定技術無しには実現不可能でした。思い描いていたような分子集合体の操作・改変ができた時の感動は、今も鮮明に覚えています。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

化学を柱として、常識に囚われず、新しいサイエンスを開拓する研究者になりたいです。例えば、白川英樹先生の導電性高分子の発見は、常識的ではない実験が全ての始まりでした(「化学に魅せられて」は、僕が感銘を受けた本の一つです)。また、様々な切り口から実験結果を見る、物事を考えるためにもたくさんの人との交流や様々な分野の研究者の方々との共同研究を大切にしていきたいと思っています。
まずは、化学者として、「これは福井くん に任せたい」と思ってもらえるような自分の研究の柱を立てられるように研鑽に努めたいと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

研究を進める上で、徹底的に考えること、考え続けることが大切だと思います。博士課程に入ってすぐの頃、「君はそれが正しい答えだと思ったらそこで考えるのをやめてしまう」と指摘いただいたことがありました。正直、自分は考えているつもりだったので、指摘されてすぐはその意味がよくわかりませんでした。しかし、研究を深く掘り下げようとすればするほど、自分が思っていたほど考えていなかったことを痛感し、徹底的に考え続けることの重要性をようやく理解しました。今、僕が楽しく(なんでそんなにいつも楽しそうなの?と時々言われます)研究生活を送ることができているのは、学生の早いうちに考え続ける重要性に気がつくチャンスをもらったからだと感謝しています。最後に、本研究の共同研究者である名古屋大学 内橋貴之 教授、渡辺大輝 博士、NIMS分子機能化学グループの竹内正之 グループリーダー、杉安和憲 主幹研究員、佐々木紀彦くん、グループのみなさま、学会等でディスカッションしていただきましたみなさまに深く感謝いたします。

参考文献

  1. S. Ogi, K. Sugiyasu, S. Manna, S. Samitsu, and M. Takeuchi, Nat. Chem. 2014, 6, 188. doi:10.1038/nchem.1849
  2. T. Fukui, S. Kawai, S. Fujinuma, Y. Matsushita, T. Yasuda, T. Sakurai, S. Seki, M. Takeuchi, and K. Sugiyasu, Nat. Chem. 2017, 9, 493. doi:10.1038/nchem.2684

研究者の経歴

名前:福井 智也
所属(当時):物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点 分子機能化学グループ
所属(現在):Ian Manners Group, School of Chemistry, University of Bristol

研究テーマ:分子・高分子の階層的自己集合の精密制御

経歴:
2014年3月 筑波大学大学院数理物質科学研究科化学専攻 博士前期課程修了
2016年4月-2017年3月 日本学術振興会特別研究員(DC2)
2017年3月 筑波大学大学院数理物質科学研究科物質・材料工学専攻 3年制博士課程修了
2017年4月-2018年3月 日本学術振興会特別研究員(PD)
2017年4月-2018年3月 物質・材料研究機構 機能材料研究拠点 分子機能化学グループ
2018年4月- 日本学術振興会海外特別研究員
2018年4月- School of Chemistry, University of Bristol (英国)
2019年1月- Department of Chemistry, University of Victoria (カナダ, 受入研究者の移籍による受入研究機関の変更)

受賞歴:
日本化学会第95, 96, 97春季年会学生講演賞, 第26回MRS年次大会奨励賞,
10th SPSJ International Polymer Conference Young Scientist Poster Award, 筑波大学学長表彰など計12件

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cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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