[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

(+)-11,11′-Dideoxyverticillin Aの全合成

[スポンサーリンク]

“Total Synthesis of (+)-11,11′-Dideoxyverticillin A”
Kim, J.; Ashenhurst, J. A.; Movassaghi, M. Science 2009, 324, 238-241. DOI: 10.1126/science.1170777

 

随分と以前のお話になりますが、マサチューセッツ工科大学のMohammad Movassaghiらによって報告された論文です。
(+)-11,11′-Dideoxyverticillin Aは真菌の代謝産物であり、反応性の架橋ジスルフィドモチーフを持つアラニン-トリプトファンジペプチド二量体です。見るからに複雑な天然物ですね。今回Movassaghiらは、本アルカロイドの生合成を模倣した合成戦略により、基質の骨格や歪みを活かした立体構築、官能基導入そして短工程合成に成功しています。でわでわ、Movassaghiらの仕事を見ていきましょう。

逆合成解析

以下に著者らの逆合成経路を示しました。即ち、標的天然物はテトラオール体より誘導したテトラチオール体の酸化により合成可能と考え、4つの水酸基は二量体骨格を活かした立体選択的なテトラヒドロキシル化により導入することとしました。二量体骨格はL-アラニンとL-トリプトファンより誘導した基質を二量化反応の条件に付すことで構築可能と推察したとのこと。

fig(+)-11,11'-Dideoxyverticillin A retro.gif

合成

まず、L-アラニン誘導体とL-トリプトファン誘導体からジケトピペラジンを形成し、立体選択的なハロインドリン骨格構築を行っています。得られた臭素体をアセトン中コバルト試薬で処理することで、本全合成における鍵中間体である二量体を得ています。

 

daimerumade.gif

 

得られた二量体をマンガン試薬を用いた条件に伏し、高立体選択的なテトラヒドロキシル化に成功しています。著者らは、基質の立体を上手く活用し、高立体選択的に4つの水酸基の導入に成功しています。なんでも、基質の歪みがこの反応のミソとのこと。複数の箇所を反応させると、多くの生成物ができるため制御が難しいですよね。詳しくは論文で。

 

続いて、テトラオール体から2工程で誘導したジオール体に4つのチオール基を導入後、標的天然物に誘導しています。不安定なアミナール構造を有する化合物を、上手く化学修飾しています。

 

tetrathiol.gif

 

短工程合成は「スゴイ!!!だけど、なんで?」と感じることがありませんか。読み手としては、合成戦略を如何に立案したかに興味があります。本論文では合成戦略について詳細に言及されており、短工程合成達成のプロセスについて勉強になります。また、基質の骨格を活かした4つの水酸基、チオール基の立体選択的導入など、興味が持てる内容だと思います。

 

関連リンク

関連記事

  1. 微小な前立腺がんを迅速・高感度に蛍光検出する
  2. 分子標的の化学1「2012年ノーベル化学賞GPCRを導いた親和ク…
  3. サイエンスアゴラの魅力-食用昆虫科学研究会・「蟲ソムリエ」中の人…
  4. 産官学の深耕ー社会への発信+若い力への後押しー第1回CSJ化学フ…
  5. 分子間相互作用の協同効果を利用した低対称分子集合体の創出
  6. 窒素を挿入してペリレンビスイミドを曲げる〜曲面π共役分子の新設計…
  7. 50年来の謎反応を解明せよ
  8. なんだこの黒さは!光触媒効率改善に向け「進撃のチタン」

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第141回―「天然と人工の高分子を融合させる」Sébastien Perrier教授
  2. 新風を巻き起こそう!ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞2014
  3. Reaction Plus:生成物と反応物から反応経路がわかる
  4. 有賀先生に質問しよう!!【第29回ケムステVシンポ特別企画】
  5. 薬学会年会も付設展示会キャンペーンやっちゃいます
  6. 橋頭位二重結合を有するケイ素化合物の合成と性質解明
  7. 期待のアルツハイマー型認知症治療薬がPIIへ‐富山化学
  8. 有機電解合成プラットフォーム「SynLectro」
  9. アメリカ化学留学 ”立志編 ーアメリカに行く前に用意すること?ー”!
  10. 「生合成に基づいた網羅的な天然物全合成」—カリフォルニア大学バークレー校・Sarpong研より

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年12月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP