[スポンサーリンク]

一般的な話題

無限の可能性を秘めたポリマー

[スポンサーリンク]

高分子(ポリマー)は持続可能かつ未来を切り開く新素材が生まれる可能性を秘めているが、その開発には分野横断的な取り組みが必要だ。

タイトルはネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)の出版している日本語の科学まとめ雑誌である「Natureダイジェスト」11月号から。最新サイエンスを日本語で読める本雑誌から個人的に興味を持った記事をピックアップして紹介しています。過去の記事は「Nature ダイジェストまとめ」を御覧ください。

ポリマーの可能性は無限大!

今月号の特集。「めちゃくちゃざっくりとしたタイトル!(笑)」と思いつつ、ガチで化学であったので、第一に読んでしまいました。記事はなんと、「高分子化学の父」とよばれるヘルマン・シュタウディンガー(1953年ノーベル化学賞受賞者)が1920年に「高分子」という言葉を主張したところから始まっています。

2016-11-02_23-50-57

ここから執筆して最新研究まで届くのか…いささか不安に思いつつ読み進めてみたけれど、しっかり、2013-2016年の最新研究を散りばめて紹介しているのが素晴らしいところ。記事では、注目すべきポリマーを機能別に、

サステイナブル(持続可能性のある)ポリマー

分離膜としてのポリマー

特化型ポリマー

の3つに分け、各分野の最新ポリマーの可能性の高さと問題点を述べています。すこし話がずれますが、分離膜としてのポリマーの役割を説明するための「ポリマーには混乱した世界に秩序を取り戻す、という能力もある。」というフレーズが秀逸。具体的な内容に関しては記事を参照のこと。

2016年夏にNSFが主宰したワークショップ、「ポリマー科学技術のフロンティア(Frontiers in Polymer Science and Engineering)」では過去10年間の成果を振り返り、今後の最重要課題や可能性、振興領域を見極めるべく意見交換と調査が行われたそうです。

これは私の考えですが、新しい解析・分離・同定などの手法が開発されるたびにこれまで扱えなかったジャジャ馬高分子も機能性物質としてリニューアルして登場している気がします。また、最近の合成化学の進展による低分子の精密なデザインが可能となったことが、結果、高分子の精密合成制御につながり、新たな機能を宿した”純粋な分子”として活躍の場を広げています。つまり、最新の分析化学・合成化学を駆使すればまだまだできることはたくさんあり、たしかに「可能性は無限大」ですね。

アルツハイマー病新薬候補で認知機能低下が鈍化

アミロイドβ仮説に基づくアルツハイマー病治療薬候補の小規模臨床試験で、認知機能低下の鈍化が観察された。

記事は2016年9月にNatureに発表された薬剤の臨床試験の結果[1]について述べています。「アミロイドβの蓄積」が記憶障害やアルツハイマー病を引き起こすといわれていますが、アデュカヌマブ(aducanumab)という抗体医薬を1年間投与し続けたところ、それが解消されたといいます。

2016-11-03_00-28-37

Nature2016年9月1日号表紙(アミロイド沈着状態(赤)が薬剤投与1年後なくなっているのがわかる)

たった1年でこれだけの回復をみせたのは既存のアミロイドβの標的薬と比べても画期的であり、薬の認可が待たれるところです。

それ以外にも記事では、アミロイドβ以外をターゲットとしたアルツハイマー病治療薬の開発についても最後に述べています。高齢化社会を迎え、最近でも認知症が原因と考えられる様々な事故・事件が起こっています。まわりの家族をも深い悲しみに落としいれる認知症の画期的な治療薬となるか、注目です。ちなみに、アルツハイマー病の発症の仕組みは以下の動画がわかりやすいと思います。

その他の記事

古生物学(記事:「ゾウの進化史が書き換えられる?」「37億年前の「生命の痕跡」を発見か」や、宇宙関連(記事:「人工ブラックホールで「ホーキング放射」を確認」「太陽系から最も近い恒星に、地球に似た惑星」)も面白い記事だらけなのですが、記事がながくなってしまったので紹介はやめておきます。特別公開記事は「クマムシ固有のタンパク質に放射線からDNAを守る作用 」。究極の耐性をもつとして知られるクマムシですが、クマムシから発見された有害なX線に対する抵抗力をもたらすタンパク質をヒト培養細胞に導入すると、放射線耐性が向上するというびっくりなお話です[2]。なんだかテラフォーマーズの世界みたいですね。東京大学くまむし研究グループを主宰している國枝 武和助教の研究です。

1

クマムシ(出典:Natureダイジェスト クレジット:STEVE GSCHMEISSNER/SPL/Getty)

ノーベル賞関連の記事もあります

最新研究をとりあげつつ、偉大な業績を残した研究者もとりあげているNatureダイジェスト。例えば、2015年10月号では「小胞体も核も選択的オートファジーの対象だった!」という記事中で、本年のノーベル医学生理学賞である大隅良典氏のインタビューを掲載しています(記事タイトル:「誰も注目しなかった液胞でオートファジーを発見」)。ちょうどガードナー国際賞を受賞されたときのお話です。また、2016年ノーベル化学賞の対象研究である「分子マシン」に関しても2015年12月号で「分子マシンの時代がやってきた」という記事で歴史から最新の分子マシン研究まで取り上げています。購読すればこれらバックナンバーも読むことができるので、ぜひ購読してみてください。

関連文献

  1. Sevigny, J.; Chiao, P.; Bussière, T.; Weinreb, P. H.; Williams, L.; Maier, M.; Dunstan, R.; Salloway, S.; Chen, T.; Ling, Y.; O’Gorman, J.; Qian, F.; Arastu, M.; Li, M.; Chollate, S.; Brennan, M. S.; Quintero-Monzon, O.; Scannevin, R. H.; Arnold, H. M.; Engber, T.; Rhodes, K.; Ferrero, J.; Hang, Y.; Mikulskis, A.; Grimm, J.; Hock, C.; Nitsch, R. M.; Sandrock, A. Nature 2016, 537 , 50. DOI: 10.1038/nature19323
  2. Hashimoto, T.; Horikawa, D. D.; Saito, Y.; Kuwahara, H.; Kozuka-Hata, H.; Shin-I, T.; Minakuchi, Y.; Ohishi, K.; Motoyama, A.; Aizu, T.; Enomoto, A.; Kondo, K.; Tanaka, S.; Hara, Y.; Koshikawa, S.; Sagara, H.; Miura, T.; Yokobori, S.-I.; Miyagawa, K.; Suzuki, Y.; Kubo, T.; Oyama, M.; Kohara, Y.; Fujiyama, A.; Arakawa, K.; Katayama, T.; Toyoda, A.; Kunieda, T. Nat. Commun. 2016, 7, 12808. DOI: 10.1038/ncomms12808

過去記事はまとめを御覧ください

外部リンク

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 炭素ー炭素結合を切る触媒
  2. 進撃のタイプウェル
  3. ケミカル・アリに死刑判決
  4. タンパク質を華麗に模倣!新規単分子クロリドチャネル
  5. 有機合成化学協会誌2022年12月号:有機アジド・sp3変換・ヤ…
  6. 博士課程学生の奨学金情報
  7. 海外機関に訪問し、英語講演にチャレンジ!~② アポを取ってみよう…
  8. 第95回日本化学会付設展示会ケムステキャンペーン!Part II…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 特許取得のための手続き
  2. 三井物と保土谷 多層カーボンナノチューブを量産
  3. 2007年度ノーベル化学賞を予想!(3)
  4. 化学探偵Mr.キュリー8
  5. 持田製薬、創薬研究所を新設
  6. マテリアルズ・インフォマティクスにおけるデータの前処理-データ整理・把握や化学構造のSMILES変換のやり方を解説-
  7. メーカーで反応性が違う?パラジウムカーボンの反応活性
  8. ナノ合金の結晶構造制御法の開発に成功 -革新的材料の創製へ-
  9. ペプチドの精密な「立体ジッパー」構造の人工合成に成功
  10. はてブ週間ランキング第四位を獲得

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年11月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

データ駆動型生成AIの限界に迫る!生成AIで信頼性の高い分子設計へ

第663回のスポットライトリサーチは、横浜市立大学大学院 生命医科学研究科(生命情報科学研究室)博士…

MDSのはなし 骨髄異形成症候群とそのお薬の開発状況 その2

Tshozoです。前回はMDSについての簡易な情報と歴史と原因を述べるだけで終わってしまったので…

水-有機溶媒の二液相間電子伝達により進行する人工光合成反応

第662回のスポットライトリサーチは、京都大学 大学院工学研究科 物質エネルギー化学専攻 阿部竜研究…

ケムステイブニングミキサー 2025 報告

3月26日から29日の日本化学会第105春季年会に参加されたみなさま、おつかれさまでした!運営に…

【テーマ別ショートウェビナー】今こそ変革の時!マイクロ波が拓く脱炭素時代のプロセス革新

■ウェビナー概要プロセスの脱炭素化及び効率化のキーテクノロジーである”マイクロ波…

予期せぬパラジウム移動を経る環化反応でベンゾヘテロールを作る

1,2-Pd移動を含む予期せぬ連続反応として進行することがわかり、高収率で生成物が得られた。 合…

【27卒】太陽HD研究開発 1day仕事体験

太陽HDでの研究開発職を体感してみませんか?私たちの研究活動についてより近くで体験していただく場…

熱がダメなら光当てれば?Lugdunomycinの全合成

光化学を駆使した、天然物Lugdunomycinの全合成が報告された。紫外光照射による異性化でイソベ…

第59回有機反応若手の会

開催概要有機反応若手の会は、全国の有機化学を研究する大学院生を中心とした若手研究…

多環式分子を一挙に合成!新たなo-キノジメタン生成法の開発

第661回のスポットライトリサーチは、早稲田大学大学院先進理工学研究科(山口潤一郎研究室)博士課程1…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP