[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第174回―「特殊な性質を持つフルオロカーボンの化学」David Lemal教授

[スポンサーリンク]

第174回の海外化学者インタビューは、デヴィッド・レマル教授です。ダートマスカレッジ化学科に所属し、珍しい有機物(安定なものと短寿命なもの)の合成と化学、および有機反応のメカニズムについて研究しています。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

化学物質とその変換に興味を持ったのは、幼い頃、ChemCraftの化学セットで、カラフルな固体や液体が並んでいるのを見たときでした。その後、ニューヨークのEimer & Amendで購入した化学薬品を地下の実験室に貯蔵するようになり、家族の友人から数ポンドの塩素酸カリウムが入った瓶を譲り受けました。こうして、硫黄と木炭があれば、必要なだけ様々な火薬を自作できるようになったのです。

しかし、高校に入ると、私の興味はスポーツと女子に取って代わり、化学の授業も1コマだけだったので、ほとんど影響がありませんでした。生徒も先生も、化学物質に触れることはありませんでした。2つだけ例外があり、授業中におしゃべりしていた生徒には二酸化炭素の消火器を浴びせたり、水酸化アンモニウムをかけたりしていました。しかし、生徒からの質問に化学的な回答を出すこともなかったのです。どんな質問に対しても、「神様の思し召しだ」「大学に行けばわかるよ」と答えていました。

大学に進み、医学部志望だった私は、比較解剖学と有機化学を同時に履修していました。動物を切り刻むのは好きではありませんでしたが、「有機化合物」の研究室ではとても楽しい時間を過ごすことができました。これらの経験は、私が化学の教授になる道を開くきっかけとなりました。当時デュポン社が言っていた「Better things for better living through chemistry」も、私のキャリア選択にさらに影響をあたえました。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

科学と技術は、知的景観のうち最も興味を惹かれるものでした。生物学者になれたらいいなと思っていますが、現在では化学をやることと同義ですので、別の選択が必要でしょうね。工学、特に生物医学の分野は魅力的です。顕著な成功例や将来への明るい展望があります。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

有機化学の一分野であるフルオロカーボン化学を中心とした研究を行なっています。ほとんどの有機分子の「皮膚」を形成する水素の代わりに、フッ素が使用されています。フルオロカーボンは、炭化水素系の分子とは性質や化学的挙動が大きく異なるため、人類の文化において多くの代替不可能な用途を見出すことができます。研究の究極目標は、有機分子におけるフッ素置換の効果を理解することにあります。私は共同研究者と共に、フルオロカーボンでも珍しい性質や化学的性質を示すと予想される分子、例えば、高度に歪み、エネルギーに富んだ極めて反応性の高い分子を選びます。そして、その性質や挙動を調べるべく、合成を試みます。

現在は、高度フッ素化ビシクロ[1.1.0]ブタンの合成を試みています。量子力学計算によれば、この化学結合に強いひずみがあること、フッ素置換基の特性ゆえに非常に顕著な反応性が予測されています。これらの予測を検証できることを楽しみにしています。

Q.あなたがもし、歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

マリー・キュリーがいいですね。化学と物理の両分野でノーベル賞を受賞するというのは、誰から見ても驚異的な偉業です。20世紀初頭の女性としても、驚くべき業績です。幼い頃、彼女がラジウムを発見する映画を見たことが、化学を志すきっかけになりました。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

今朝です。標的分子の合成経路における鍵反応がうまくいかず、予想外の生成物ができていました。今日の実験では、生成物を分離・精製し、構造決定をする必要がありました。それが終われば、化学反応がなぜ誤っていたのかを理解できるでしょう。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

それは、島に取り残されているのか、それとも島で贅沢をしているかによるでしょう。前者であれば、ローラ・ヒレンブランドの『Unbroken』(信じられないような困難な状況下での素晴らしいサバイバルストーリー)を持って行くでしょう。後者なら、代わりにクマーの『Quantum』にするでしょう。現実の本質をめぐるアインシュタインとニールス・ボーアの数十年にわたる論争に焦点を当てた、20世紀物理学の魅力的な歴史です。音楽アルバムなら、ブロードウェイ・ミュージカルのヒットセレクションを選ぶでしょう。

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

アルベルト・エッシェンモーザーです。エッシェンモーザー教授は、ビタミンB12の合成に関する非常に独創的な業績でノーベル賞を受賞し、その他にも有機合成化学や有機反応機構について多大な貢献をしました。業界で、これほど尊敬できる人物は他に居ません。

もしくは、エドワード・C・テイラーにします。現在はプリンストン大学名誉教授(Barton Hepburn Professor)ですが、イーライリリー社と共同でブロックバスター抗がん剤であるアリムタを発見し、非常に生産的かつ優れたキャリアに幕を引きました。88歳の今でも60歳とは思えないほどはつらつとしており、この人が羨ましくて仕方がありません。

 

原文:Reactions – David Lemal

※このインタビューは2011年9月23日に公開されました。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第162回―「天然物の合成から作用機序の解明まで」Karl Ga…
  2. 第45回―「ナノ材料の設計と合成、デバイスの医療応用」Youna…
  3. 第116回―「新たな分子磁性材料の研究」Eugenio Coro…
  4. 第46回「趣味が高じて化学者に」谷野圭持教授
  5. 第48回―「周期表の歴史と哲学」Eric Scerri博士
  6. 第25回「ペプチドを化学ツールとして細胞を操りたい」 二木史朗 …
  7. 第34回「ポルフィリンに似て非なるものを研究する」忍久保洋 教…
  8. 第73回―「Nature Chemistryの編集者として」Ga…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 2022 CAS Future Leaders プログラム参加者募集
  2. ホウ素 Boron -ホウ酸だんごから耐火ガラスまで
  3. 【日産化学 27卒】 【7/10(木)開催】START your ChemiSTORY あなたの化学をさがす 研究職限定 Chem-Talks オンライン大座談会
  4. 金触媒で変身できるEpoc保護基の開発
  5. “見た目はそっくり、中身は違う”C-グリコシド型擬糖鎖/複合糖質を開発
  6. Carl Boschの人生 その3
  7. 植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~
  8. 総収率57%! 超効率的なタミフルの全合成
  9. 地球温暖化が食物連鎖に影響 – 生態化学量論の視点から
  10. 骨粗しょう症治療薬、乳がん予防効果も・米国立がん研究所

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年8月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

第61回Vシンポ「中分子バイオ医薬品分析の基礎と動向 ~LCからLC/MSまで、研究現場あるあるとその対処~」を開催します!

こんにちは、Macyです。第61回Vシンポのご案内をさせていただきます。今回は、Agilen…

水分はどこにあるのか【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

「MI×データ科学」コース 〜LLM・自動実験・計算・画像とベイズ最適化ハンズオン〜

1 開講期間2026年5月26日(火)、29日(金) 計2日間2 コースのねらい、特色近…

材料の数理モデリング – マルチスケール材料シミュレーション –

材料の数理モデリング概要材料科学分野におけるシミュレーションを「マルチスケール」で理解するた…

第59回天然物化学談話会@宮崎(7/8~10)

ごあいさつ天然物化学談話会は、全国の天然物化学および有機合成化学を研究する大学生…

トッド・ハイスター Todd K. Hyster

トッド・カート・ハイスター(Todd Kurt Hyster、1985年10月10日–)はアメリカ出…

“最難関アリル化”を劇的に加速する固定化触媒の開発

第 703回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院 理工学府 博士課程前期で…

「ニューモダリティと有機合成化学」 第5回公開講演会

従来の低分子、抗体だけでなく、核酸、ペプチド、あるいはその複合体(例えばADC(抗体薬物複合体))、…

溶融する半導体配位高分子の開発に成功!~MOFの成形加工性の向上に期待~

第702回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理学部(田中研究室)にて助教をされていた秋吉亮平 …

ミン・ユー・ガイ Ming-Yu Ngai

魏明宇(Ming-Yu Ngai、1981年X月XX日–)は米国の有機化学者である。米国パデュー大学…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP