[スポンサーリンク]

一般的な話題

学生に化学論文の書き方をどうやって教えるか?

[スポンサーリンク]

 

筆者は大学で働いております。専門は化学の分野ですから、学生さんに卒業研究では化学的なテーマに取り組んでもらっています。化学を学生に教えるというのは楽しいのですが、いざ報告書や卒論を書かせる段になると毎年頭が痛くなっています。

日々スマホで友人とやりとりしているので、単文は思いつくのでしょうが、論理的な文章の構成というのは苦手としている学生が多いと思います。

それ以上に、”化学的な”文章というのを書いてもらうのがこれまた一苦労です。これは一体どうすればよいのでしょうか?

今回のポストは、Nature Chemistry誌からおなじみBryn Mawr CollegeMichelle Francl教授によるthesisを基に、なんとかして学生に化学的な文章を書いてもらうためのヒントのようなものを紹介したいと思います。前回のはこちら

The write stuff

Francl, M. Nature Chem. 6, 555-556 (2014). doi: 10.1038/nchem.1985

大学教育の主たる目的はその専門分野における基礎から先端的知識、技能を身につけさせることにあると思います。近年では教育の方法などについてもさかんに語られており、ユニークな講義や、趣向を凝らした講義などをする先生方も増えてきたのではないかと思います。

一方で、科学分野では、研究の内容を人に伝えるというのも大変重要なことです。論文を発表するというのが一つの大きな手法になるわけですが、学部の学生レベルで学術論文を書くことができる学生は恐らくいないのではないでしょうか。

筆者の研究室では毎年学生に報告書や卒業論文を書くことを求めていますが、内容の添削よりも、文章の構成や、言葉遣いの添削に大きな時間をとられてしまいます。

論理構成については多くの書があるので、それを参考として読んでもらえばある程度にのものにはなるでしょう。例えばWhiesidesによる論文の書き方に関する解説などは必読だと思います[1]
write_1.png

図は文献より引用

文章の構成はなんとかなったとしても、化学における独特の表現や言い回しなどはどうしようもないので、逐一指摘して添削せざるをえないのが現状です。

日本語では特に文語を用いて論文を書かなければならないというハードルもあります(参考:こう言い換えろ→論文に死んでも書いてはいけない言葉30)。

 

化学者の卵である学生たちに化学の知識を伝授するのは重要な仕事ですが、文章が書けるようになるようにならなければ、化学者を育てたとはいえませんね。ではどうすればいいでしょうか?

 

例えば、有機化学分野ではNMRスペクトルの解析というのは必須な能力の一つです。知らない人が見れば単なるギザギザした線ですが、有機化学者はその線を見て化合物の構造を知ることができます。

また、解析結果は数字やアルファベットの羅列として書かれていますが、書式にも決まり事がありますので、そのデータを見れば構造を想像することができるようになっています。学生さんに報告書を出してもらうときも、既にフォーマットが用意されていますので数字やアルファベットをチョコチョコッと自分のデータに書き換えればいいようになっています。

 

論文もこんな風にできませんかね

 

研究室によって研究内容はほぼ毎年同じようなものですし、出てくる結果もそんなに多くのバリエーションがあるわけではないでしょう。であるなら、ある程度の定型文を用意しておいて、それらを組み合わせるとあら不思議、化学論文っぽい文章が書けてしまうというのはどうでしょう。NMRスペクトルのデータをフォーマットに書き込むようにして、研究の目的とか、研究結果の解釈とか、そういったものをはめ込むことができるフォーマットは学生にとっても、教官にとってもメリットがあるのではないかと思います。
write_2.png

図は文献より引用

あまりにやりすぎるとコピペになってしまいますが、単文のフォーマットをたくさん用意しておく形式にすれば、それを組み合わせて論文に仕上げていくことで、全く同じ文章にはならないでしょう。

そのような試みとして、Manchester大学ではAcademic Phrasebankというのを用意してあり、論文作成をサポートしています。日本語版はというと・・・さすがに無さそうですね(参考:卒論に今から使える論文表現例文集(日本語版))。

 

自分で論文を書く前に、他人の論文をたくさん読んでいればこういった化学論文の書き方というのは身についていくものなのかもしれません。化学者になるための通り道だからということで、このようなやり方には反対の方もいらっしゃるでしょう。しかし、やれここが斜体になってないとか、化合物の番号は太字にしろとか、そういった表面的な指導にかかる手間を、もっと本質的な化学者としての考え方とか、研究に対する理解などに関して向けることができれば、実質的にはプラスになるんじゃないかなと思いますがいかがでしょうか。

関連文献

[1] Whitesides, G. M. Adv. Mater. 16, 13751377 (2004). DOI:?10.1002/adma.200400767

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4331514161″ locale=”JP” title=”出口式脳活ノート”][amazonjs asin=”4320005880″ locale=”JP” title=”NASAに学ぶ 英語論文・レポートの書き方 -NASA SP-7084テクニカルライティング-”][amazonjs asin=”4759812903″ locale=”JP” title=”化学を学ぶ人のレポート・論文・発表マスターガイド”][amazonjs asin=”4327452203″ locale=”JP” title=”英語科学論文の書き方と国際会議でのプレゼン (ネイティブ音読CD付き)”]

 

Avatar photo

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. 最近のwebから〜固体の水素水?・化合物名の商標登録〜
  2. 離れた場所で互いを認識:新たなタイプの人工塩基対の開発
  3. 光照射による有機酸/塩基の発生法:①光酸発生剤について
  4. 笑う化学には福来たる
  5. 芳香環メタ位を触媒のチカラで狙い撃ち
  6. 「医薬品クライシス」を読みました。
  7. 銀を使ってリンをいれる
  8. 可視光エネルギーを使って単純アルケンを有用分子に変換するハイブリ…

注目情報

ピックアップ記事

  1. アラスカのカブトムシは「分子の防寒コート」で身を守る
  2. マイクロ波を用いた革新的製造プロセスと電材領域への事業展開 (ナノ粒子合成、フィルム表面処理/乾燥/接着/剥離、ポリマー乾燥/焼成など)
  3. 【25卒 化学業界就活スタート講座 5月13日(土)Zoomウェビナー開催決定!】化学系学生のための就活×太陽ホールディングス
  4. Open Babel を使ってみよう~ケモインフォマティクス入門~
  5. 可視光で働く新しい光触媒を創出 -常識を覆す複合アニオンの新材料を発見-
  6. sp2-カルボカチオンを用いた炭化水素アリール化
  7. 第57回有機金属若手の会 夏の学校
  8. 電気化学と数理モデルを活用して、複雑な酵素反応の解析に成功
  9. フリードリヒ・ヴェーラー Friedrich Wohler
  10. ヘリウム新供給プロジェクト、米エアプロダクツ&ケミカルズ社

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2014年7月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

“とび跳ねる水滴”に潜む物理 〜接触時間とエネルギー源で読む撥水・防氷のテク〜

熱したフライパンに落ちた水滴が、玉になってコロコロと走り回り、冷えた面では、結露水が合体した瞬間に跳…

AI時代に研究者がすでに持っている力・これから伸ばしたい力

論文要約や文献検索など、研究現場でもAI活用が日常化する一方、「自分の仕事の先行き」に漠然とした不安…

miHub®を活用した探索的データ解析の実践

開催概要研究開発においてデータ活用が進む中、機械学習モデルの構築や予測解析に…

“ある特効薬”のはなし ~本田宗一郎氏の回想から

Tshozoです。最近実家に戻っては色々と廃棄するなどの店じまいを少しずつ進めているのですが、中…

高分子鎖を束ねた新しい共重合体「束状共重合体」が誕生

第715回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 工学系研究科(植村研究室)に所属されていた亀谷…

2026年「有機溶媒危機」へのアンサー。北大発・メカノクロスが挑む、溶媒に依存しない新たな合成法 = “メカノケミカル有機合成”の社会実装

株式会社メカノクロスは、メカノケミカル有機合成技術の社会実装に挑む北海道大学発の…

“壊れないよう” に作ってきた半導体ポリマーを、あえて “壊れるよう” に作る化学

半導体ポリマーは長いあいだ、「いかに壊れにくく、長持ちさせるか」といったような安定性を競って進歩して…

有機合成化学協会誌2026年7月号:固体高分子電解質・電子ドナー・アクセプター錯体・機械学習法・trichodermamide類・エナンチオ選択的スキップジエン合成法

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2026年7月号がオンラインで公開されています。…

第62回Vシンポ「見えない空気を科学する~センサによる室内環境・臭気の見える化と快適空間デザインの最前線~」を開催します!

こんにちは、Macyです。第62回Vシンポのご案内をさせていただきます。今回は、前回同様…

【協和ファーマケミカル】新卒採用情報(2028年卒)

協和ファーマケミカルが求めているのは、有機合成の知識や実験経験を身につけ、活かし…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP