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スポットライトリサーチ

触媒的炭素–水素結合活性化による含七員環ナノカーボンの合成 〜容易な合成法、高い溶解性・凝集状態で強まる発光特性を確認〜

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第607回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院 理学研究科 理学専攻 物質・生命化学領域 有機化学研究室(伊丹研)に在籍されていた山田圭悟(やまだ けいご)博士にお願いしました。

伊丹研究室は、カーボンナノリング、ナノグラフェン様分子など、様々な構造を有する芳香族中分子〜高分子の合成を多数報告しています。本プレスリリースの研究内容は、ナノカーボンの合成法についてです。本研究チームでは、パラジウム触媒を用いた炭素-水素結合活性化反応を伴うカップリング反応により、含七員環ナノカーボンの効率的な新規合成法を実現しました。この研究成果は、「Angewandte Chemie International Edition」誌に掲載され、またプレスリリースにも成果の概要が公開されています。

Synthesis of Heptagon-Containing Polyarenes by Catalytic C−H Activation

Keigo E. Yamada, Dr. Iain A. Stepek, Dr. Wataru Matsuoka, Prof. Dr. Hideto Ito, Prof. Dr. Kenichiro Itami

Angew. Chem. Int. Ed. 2023, 62, e202311770.

DOI:doi.org/10.1002/anie.202311770

指導教員だった伊藤先生伊丹先生より、山田博士についてコメントを頂戴いたしました!

伊丹健一郎 先生より

山田君は金沢大学から大学院で私たちの研究室に入ってきてくれました。最初からアカデミックに進みたいという強い気持ちを伝えてくれたことを鮮明に覚えています。5年間、とにかく実験の鬼で、とことんやった姿は研究室のみんなの脳裏に焼き付いています。とても大変なテーマでしたが、彼が本当によく頑張った結果が今回の論文に凝縮されています。見事だったと思います。今後、新天地でポスドクとして新しい化学を吸収して、さらに大きく成長することを楽しみにしています!

伊藤英人 先生より

愛弟子であり良き相棒である山田圭悟君は2019年に金沢大から名大に修士課程入学して以降、5年間一緒に研究をやってきました。彼の反応開発がやりたいとの思いで開始したテーマが今回の論文にあるような七員環形成反応を使ったナノカーボン合成です。山田君はきちんと自分の意見をもった学生であり、ストイックに研究を進めるタイプの研究者です。私自身も学生の頃、七員環形成反応ばかりを研究していて境遇が重なりますが、山田君の開発した反応は構造的にも綺麗で意味のあるさまざまな分子骨格が高収率で合成できると言う点で非常に羨ましいです(笑)。この今回の論文以外にも面白い七員環形成反応を報告して今後論文投稿する予定ですが、縮環分子群合成にフォーカスして「触媒的に七員環をつくる」点で魅力的な研究に仕上がったのではないかと思います。特にこの分野では合成した分子の共役が連なっていないとダメ的な風潮が多少なりとあり、論文査読でもそれがネックとなるのではないかと危惧してしました。しかし、論文査読時にレフェリーから「部分的に非共役な七員環骨格だからこその面白い物性があるはず」とのコメントを受けます。合成した分子の意味や意義を改めて見つめ直した結果、山田君が七員環による大きな分子のねじれ、骨格の剛直性、高い溶解性やAIE特性などを見つけてくれました。共役していなくても十分面白い分子だったことをあとから再認識したことになります。また、コロナ渦で思うように研究が進まない期間がありましたが、山田君は卒業までに英国Anderson研究室への留学、企業との共同研究などいろいろな経験ができたのではないかと思います。自ら勝ち取った学振PDを携えて、2024年4月からは東大の植村卓史先生、北尾岳史先生らと現在と違った研究テーマを始めることになりますが、きっと活躍してくれると思っています。今後、また大きく成長する姿を見るのを楽しみにして、卒業を見送りたいと思います。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

五・七・八員環を含むナノカーボンは「非ヘキサゴナルナノカーボン」と呼ばれ、その湾曲構造や導電性/光物性などのユニークな物性により、近年大きな注目を集めていますが、特に七員環の形成はエントロピーやエンタルピーの観点から本質的に困難であり、含七員環ナノカーボンの合成に適用できる方法も限られています。よってこれまで、多種多様な構造をもつ含七員環ナノカーボンの自在合成法は限られており、新たな効率的七員環骨格構築法の開発が望まれていました。

今回私たちはパラジウム触媒を用いた分子内炭素-水素結合(C–H結合)活性化反応による含七員環ナノカーボンの効率的な合成法を報告しました(図 1)。ベンジルブロモビフェニル誘導体および類縁体1に対し、パラジウム触媒を作用させることで分子内カップリングを可能とし、分子内Ar-H/Ar-Brカップリングによる効率的な七員環形成が可能となりました。さらに室温(23℃)下、ヘキサン中で含七員環化合物2aと平面六員環構造をもつトリフェニレンの溶解度を測定し比較したところ、含七員環化合物である2aは、トリフェニレンよりも16倍高い溶解度を示しました。さらに本反応ではより入手容易な出発物質である、ブロモジフェニルプロピンからDiels–Alder型反応もしくはロジウム触媒を用いた六員環形成反応後にパラジウム触媒を連続的に作用させることで、単一フラスコ(ワンポット)で簡便かつ容易に六員環と七員環を構築することに成功しました。

図1:七員環構築反応の詳細。

より大きな含七員環ナノカーボンを簡便に作るために、アルキン化合物とアリールボロン酸を原料に、ロジウム触媒による二箇所同時の六員環形成と、続くパラジウム触媒による二箇所同時の七員環骨格の構築を行いました(図2)。結果として2個の七員環を含む新しいナノカーボンを69%の高い収率で得ることができました。通常、六員環だけからなるナノカーボンは平面構造であり異性体が存在しませんが、驚くことにこの含七員環ナノカーボンには、S字型とC字型の2つの異なる安定な配座異性体があることがX線単結晶構造解析によって判明し、これらの形は2つの七員環の湾曲構造に起因していることが明らかとなりました。

図2:6つの六員環、2つの七員環骨格をもつ新規ナノカーボンの一挙構築法。X線単結晶構造解析によりS型とC型の2つの異性体が存在することが明らかとなった。

また、紫外可視吸収測定および蛍光測定において、合成した含七員環ナノカーボンの一部が「凝集誘起発光(AIE)」と呼ばれる現象が起こることを見出しました。特にピレン骨格を含む化合物は、AIE発光とエキシマー発光の両方を示すというユニークな物性を示しました。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

思い入れがあるのはやはり二つの七員環を有する化合物です。これらの化合物は共同著者である英人さんや松岡さん、Iainさんとのディスカッションの中で合成することを決めた化合物でもあります。二つの七員環を有する化合物はS型とC型の二つの安定な配座異性体を有しています。実際これらの化合物は単離して構造を確認するまでは報告した中央のベンゼン環に対してパラ位で環化した構造とオルト位で環化したヘリセン型の構造の2種類ではないかと考えていました。実際にX線単結晶構造解析でこの構造を確認したときにはかなり驚きました。測定をしてくださったのは松岡さんなのですが、最初同じバイアルから結晶をとってしまったのかと勘違いしてしまったそうです(単結晶の作成に使用している溶媒が異なっており、それが結晶中で確認されたため、異なる配座の化合物であることが判明しました)。このS型とC型の二つの安定な配座異性体はその反転障壁の高さに由来することが量子化学計算により明らかになりましたが、共役が途切れた七員環が二つつながるだけでこのように高い反転障壁を有すのは直感とは反してしましたし、本当に驚かされました。化学が教科書ベースの仮説だけでは予測することができないと思える事例でした。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

本研究で本当に難しかったところは化合物の精製です。上記の二つの七員環を有する化合物については洗浄、GPC、PTLCを駆使することでやっと単離することができました。また論文の実験項を見ていただければわかると思いますが、いくつかの化合物は–20°Cで再結晶した後に–78°Cの溶媒で洗うという操作があります。これは含七員環化合物の溶解性の高さを示す結果ともいえますが、カラムやGPCでは取り除けないわずかなゴミを取り除くのに本当に苦労しました。実はこの精製方法はいきなり閃いたものではなく、留学中に同様の精製操作を行う機会があり、今回の含七員環化合物でも同様の精製操作で綺麗になるのではないかと思い至りました。留学先では全く違う化合物を合成していましたが、異なる研究出の経験も見方を変えれば自身の研究の役に立つということを実感できた良い経験となりました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

最近では量子化学計算も使えるようになってきたので、今後はさまざまなツールを利用して多角的な視点から、これからもまだ見ぬ構造・反応をどんどん合成・開発していきたいと考えています。最終的には誰も知らない構造を自身が考えた新規反応で合成できるような研究者に成りたいと思っています。今までは伊丹研究室でナノカーボン類の化学に主に携わってきましたが、来年度からは東京大学の植村研究室でMOF類の合成に携わる予定です。伊丹研で培った知識をもとに今後はカーボンだけに留まらない、さらなる構造多様性をもつ化学の世界を飛び回っていきたいと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

日頃からChem-Stationの記事には本当にお世話になっているので、その記事の一つとして紹介されることは、本当に光栄に思います。本研究を遂行するにあたり、本当に色々な方に手助けしていただきました。自分の発想だけではこの論文はこの形にならなかったと思いますし、もしかしたら含七員環化合物の有用性を見出せていなかったかもしれません。特に伊丹研での「思いついたら即実行!」の雰囲気も相まって本当にいろいろな実験をする機会をいただけました。研究室のメンバーと日頃からディスカッションをすることも大事であり、学会などで初めて会った方からの助言なども大変勉強になりました。研究者の端くれとしてこれからも色々な人と繋がっていきたいと思っているので、どこかで見かけたときに声をかけていただけると大変嬉しいです!

最後になりますが、本研究を遂行するにあたり日々好き勝手に研究する若輩者の自分を許してくださり、ときに熱く指導してくださった伊丹先生、伊藤先生、そして日々ディスカッションしていただいたIainさんと松岡さん、伊丹研への進学を快く許してくださった両親に深く感謝申し上げます。また、本研究成果を紹介する貴重な機会を与えてくださったChem-Stationスタッフの皆様にお礼申しあげます。

研究者の略歴

山田 圭悟(やまだ けいご)

所属(当時):名古屋大学大学院 理学研究科 物質理学(化学系)専攻 有機化学(伊丹)研究室

研究テーマ:非ヘキサゴナルナノカーボンの効率的合成法の開発

略歴

2015年4月-2019年3月: 学部学生 金沢大学理工学域応用化学コース

2019年4月-2021年3月: 博士前期課程 名古屋大学理学研究科物質理学(化学系)専攻 (伊丹健一郎教授)

2021年4月-2024年3月: 博士後期課程 名古屋大学理学研究科物質理学(化学系)専攻 (伊丹健一郎教授) 日本学術振興会 特別研究員(DC1)、博士(理学)

2022年7月-9月 イギリス・オックスフォード大学へ短期留学 (Harry L. Anderson 教授)

2023年10月: 第14回大津会議アワードフェロー

2024年4月より: 日本学術振興会 特別研究員(PD)東京大学工学系研究科 応用化学専攻(植村卓史教授)

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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