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スポットライトリサーチ

リングサイズで性質が変わる蛍光性芳香族ナノベルトの合成に成功

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第521回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院理学研究科理学専攻 物質・生命化学領域 有機化学研究室(伊丹研究室)の河野 英也(こうの ひでや)さんにお願いしました。

伊丹研究室は、カーボンナノリング、ナノグラフェン様分子など、様々な構造を有する芳香族中分子〜高分子の合成を多数報告しています。本プレスリリースの研究内容は、芳香環が筒状につながった分子である芳香族ナノベルトについてで、リングサイズで性質が変わる蛍光性芳香族ナノベルトの合成に成功しました。

この研究成果は、「Journal of the American Chemical Society」誌に掲載され、プレスリリースにも成果の概要が公開されています。

Methylene-Bridged [6]-, [8]-, and [10]Cycloparaphenylenes: Size-Dependent Properties and Paratropic Belt Currents

Hideya Kono, Yuanming Li, Riccardo Zanasi*, Guglielmo Monaco, Francesco F. Summa, Lawrence T. Scott, Akiko Yagi*, and Kenichiro Itami*

J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 16, 8939–8946

DOI: doi.org/10.1021/jacs.2c13208

本記事のアイキャッチ画像は名古屋大学ITbMの高橋一誠講師により作成されたものです。

指導教員である八木先生伊丹先生より、河野さんについてコメントを頂戴いたしました!

八木亜樹子 先生より

河野くんを表すのに、「変人」以外の言葉が見つかりません。。。ラボメンバーの中で飛び抜けて変人で、いつも予想の斜め上遥か遠くに行ってくれるので、一緒に研究生活を送っていて楽しくてしょうがありません。今回の研究では、常人だったら諦めるだろうなと思う局面がいくつもありました。かなり無茶な提案をダメ元ですることもありましたが、「やります!」と軽やかに言ってすぐに実行し、彼ならではの工夫を凝らし、困難を乗り越えてきてくれました。変人河野でなければ論文投稿にすら至らなかったかもしれません。彼と研究できることを誇らしく思うとともに、その情熱と頑張りに深く感謝しています。

河野くんはとにかくバイタリティがすごいので、色々一緒に初めてしまい、いま多くの研究を進めています。今後も一緒に面白い論文が書けることを楽しみにしています。

伊丹健一郎 先生より

河野君は現在D2で研究室のリーダーであり、メンバー全員から極度に可愛がられるキャラの持ち主です。彼の優しさと明るいキャラに引き寄せられて、彼の周りはいつもわちゃわちゃしています。とにかく研究と実験が大好きで、栄養とバランスが良いとは決していえない食生活からはどう考えても説明のつかない馬力を出して、難関を次々と突破してきました。学部4年生のときには当時研究室の准教授だった村上慧君(現在、関西学院大)のグループで反応開発研究を行っていましたが、村上君の異動に伴って私のメインテーマであるナノベルトのチームにM1の途中から加わってもらうことにしました。当時、スーパーポスドクとして在籍していたYuanming Li君(現在、中国福州大学教授)が始めたMCPPの化学 (当時は[6]MCPPのみ合成)をさらに発展させるべく、河野君にその後の全てを託しました。この決断は大正解で、河野君は超低収率のためその姿がなかなか見えなかった[8]MCPPと[10]MCPPの合成・単離・構造決定を成し遂げ、各種物性測定によってMCPPの構造と物性に及ぼすリングサイズ効果を次々と明らかにしました。河野君が軌道に乗せたMCPPは現在研究室で多方面の活躍を見せており、これからひとつひとつ世に送り出せることを楽しみにしています。今回の論文は、師匠と仰ぐLarry Scott先生(アメリカ)と理論化学者のRiccardo Zanasi先生(イタリア)と一緒に書かせていただきました。両先生は、私たちが[6]MCPPを2020年に発表した(JACS 2020, 142, 12850)直後にMCPPの理論研究を開始し、MCPPにはベルト上に流れるパラトロピック環電流が強く観測されることを予測していました(J. Phys. Chem Lett. 2020, 11, 7489)。様々なリングサイズのMCPPを合成し、その物性を明らかにした河野君はそれらの結果を第19回新芳香族化学国際会議(ISNA-19)にてポスター発表しました。その夜、すぐにScott, Zanasi両先生から、パラトロピック環電流における環サイズ効果についての河野君の考察(リングが大きくなるほどパラトロピック環電流は小さくなること)は全く正しいこと、さらに河野君の考察を支持する計算結果を既に得ているとの連絡をもらいました。結局、実験と理論を「全部のせ」し、河野君がまとめあげたのが今回の論文です。真横にいる僕や八木さんだけでなくアメリカやイタリアから飛んでくる様々なコメントに全て真摯に河野君が応えて、全員納得の作品になりました。何度読み返しても、超低収率のため何もわかりそうにない研究開始当初の状況から気合と根性でこれらの分子を世に送り出してくれた河野君には最大限の感謝と賛辞を送りたいです。スポンジのように多くの知識と技術を吸収していく河野君はこれからどのようなことをしても成功することを確信しています。間違いないです。食生活がまともになれば完璧です(笑)。河野君が提案しているクレイジー分子はまだまだあります。今後の河野君に乞うご期待です!河野君、おめでとう!!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

本研究では、芳香族ナノベルトである「メチレン架橋シクロパラフェニレン(MCPP)」を様々なリングサイズで合成しました。また、MCPPがリングサイズによって蛍光特性や電子・磁気的性質が異なるという特性をもつことを明らかにしました。

シクロパラフェニレン(CPP、図1左)はベンゼン環がパラ位で環状につながった分子です。CPPが芳香族ナノリングと呼ばれる分子であるのに対し、芳香族ナノベルトと呼ばれる分子群があります。それらは芳香環が筒状に連結された分子であり、他に類をみない剛直な環状構造をもちます。2017年に我々はカーボンナノベルト(図1中央)の初の合成を達成しており、現在では世界中で多様な構造の芳香族ナノベルトが合成されています。一方で、それらの合成は依然として多段階を必要とします。また、同じ種類で様々なリングサイズのものを合成することができれば芳香族ナノベルトの化学をさらに深く探究することができますが、そのような技術も限られていました。我々は2020年に、6個のベンゼン環をもつ芳香族ナノベルトである「メチレン架橋[6]CPP ([6]MCPP、図1右)」の合成と性質解明を行っています。[6]MCPPは[6]CPPを筒状に固定化した構造をもち、2022年には東京化成工業株式会社から市販化もされるなど、今後の展開に期待がもたれている分子です。

図1:シクロパラフェニレン CPP(左)、カーボンナノベルト(中央)、メチレン架橋シクロパラフェニレン MCPP(右)。

今回我々は、リングサイズの異なる3種類のMCPPをそれぞれ合成し、その性質を調査することでリングサイズに依存した特性の評価に成功しました。紫外可視吸収スペクトルはリングサイズが大きくなるほど長波長側に観測され、スペクトルがリングサイズに依存しないCPPとは異なることがわかりました。また、[6]MCPPはほとんど蛍光を示さないのに対し、[8]MCPPは橙色の蛍光 (蛍光波長 = 592 nm、蛍光量子収率15%) を、[10]MCPPは黄緑色の蛍光(蛍光波長 = 527 nm、蛍光量子収率25%)を示すことがわかりました(図2上)。また、以前の理論研究により [6]MCPPでは分子全体に「パラトロピック環電流」という電流が強く観測されることが予測されていました。その理論研究を行なったイタリアとアメリカの研究グループと協働し、MCPPのリングサイズが大きくなることで分子全体に流れるパラトロピック環電流が減少することを計算科学と実験科学の両面から明らかにしました(図2下)。

図2:[8]MCPP および[10]MCPP の蛍光(上)。MCPPのリングサイズごとのパラトロピック環電流のイメージ(下)。リングサイズが小さいと分子全体に、大きいとベンゼン環に流れる環電流の寄与が増大する。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

MCPPの蛍光スペクトルを測定するために、グローブボックス中で精製を行ったことです。それまで、MCPPはNMRではpureに見えるにも関わらず吸収端よりも短波長側に蛍光が観測され、その原因に悩んでいました。繰り返し精製を行いながら何度か測定していると、蛍光測定用のサンプルの色が時間の経過で変化していることに気づきました。このサンプルを測定すると短波長側の蛍光の比率が強くなっていることがわかりました。また、質量分析を行うとMCPPに加えて分子量が16または32大きい質量ピークが見られましたが、Ar–Arの結合切断に伴う2や4の質量ピークの増加は見られませんでした。ここから、結合切断による分解ではなく、酸化反応が進行していると推測しました。

そこで、酸素のない環境で精製を行うためにグローブボックス中でPTLCを行うことにしました。遮光もしたので操作的に大変でしたが、ようやく不純物のない蛍光スペクトルを観測することに成功しました。MCPPの真の蛍光スペクトルを見られた時は、サイズによって大きく色が変化することもあってかなり感動したのを覚えています。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

とにかく精製に苦労しました。サイズの異なるMCPPの分離は比較的容易だったのですが、副生成物(最終段階の分子内カップリングが1箇所だけ進行せず、トリフラート基が水素原子に変換されたもの)に苦しめられました。分子量も極性もMCPPに非常に近いため分離が難しいことに加え、長く溶液状態を維持すると酸化によってMCPPが分解してしまいます。

シリカゲルカラム、GPC、PTLCにおいて、どの溶媒を使って、どの順序で行うのが最適かどうかを検討し、これらを素早く行うことでなんとか精製を達成しました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

本研究で合成したMCPPについては、生物学や電子デバイスに応用するために更なる研究を行っているところです。ありがたいことに幅広い研究展開が実現しているので、博士課程の残り期間ではこれらをしっかりとまとめられるように日々研鑽していきたいと思っています。

また将来的には、MCPPに限らず自分が世界で初めて作ったものがどこかで活躍する姿を見たいので、化学を基盤にしながら色々な分野に視野を広げたいと思っています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

ここまで読んでいただきありがとうございます。本研究は、Riccardo Zanasi教授、Zanasiグループの方々、そしてLawrence T. Scott教授との共同研究でここまで大きなものにすることができました。海外学会(ISNA-19)でオンラインポスター発表をした際に見つけていただいたことがきっかけで始まった共同研究であったこともあり、自分の研究を外部に向けて発信することの重要さを実感しました。ぜひ読者の学生の皆さんは、積極的に学会に参加して、自分の研究の面白さをどんどん発信してほしいと思います。

最後になりますが、本研究を遂行するにあたり、多大なご指導を賜りました伊丹健一郎教授、八木亜樹子特任准教授、Yuanming Li教授に厚く御礼申し上げます。加えて、共同研究者のRiccardo Zanasi教授, Guglielmo Monaco博士, Francesco F. Summa博士, Lawrence T. Scott教授、および伊丹研究室の皆様に感謝申し上げます。また、このような貴重な機会をくださいましたChem-Stationのスタッフの皆様に感謝申し上げます。

研究者の略歴

河野 英也 (こうの ひでや) 名古屋大学大学院 伊丹研 D2

所属:名古屋大学大学院 理学研究科 理学専攻 物質・生命化学領域 有機化学研究室
略歴:

2020年3月 名古屋大学 理学部化学科 卒業

2022年3月 名古屋大学大学院 理学研究科 理学専攻 物質・生命化学領域 博士前期課程 修了

2022年4月〜現在 名古屋大学大学院 理学研究科 理学専攻 物質・生命化学領域 博士後期課程

2023年〜現在 日本学術振興会特別研究員(DC2)

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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