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スポットライトリサーチ

励起パラジウム触媒でケトンを還元!ケチルラジカルの新たな発生法と反応への応用

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第 611 回のスポットライトリサーチは、(前) 乙卯研究所 博士研究員、(現) 北海道大学 化学反応創成研究拠点(美多グループ)に所属している 田中 耕作 三世 (たなかこうさく さんせい) さんにお願いしました!

田中さんが所属されていた乙卯研究所は、博士卒の若手研究者が自由に研究をできる環境にあり、テーマの立案、実験、データ取り、論文書きまですべて一人で行います。田中さんは乙卯研究所に配属されてから光励起パラジウム種の特異な反応性をうまく利用した触媒的ケチルラジカル発生法と、続くラジカルおよびHeckタイプの環化反応を開発されました。「パラジウムと光」といえば、パラジウム上に可視光を吸収する配位子を乗せたりヨードアレーンを光励起して酸化的付加反応を加速させたりと、いくつかの反応様式が知られるようになってきました。今回開発されたのは、励起Pd(0)種による芳香族ケトンの1電子還元から始まる新たな反応様式になります。本研究成果は、以下の論文とプレスリリースで発表されています。

“Ketyl Radical Generation by Photoexcited Palladium and Development of Organopalladium-Type Reactions”
Kosaku Tanaka III*
ACS Catal. 2024, 14, 5269−5274
プレスリリース

乙卯研究室の所長である大谷光昭先生、研究顧問の千田憲孝先生、および現職の研究室を主宰されている美多剛先生より、田中さんについてコメントを頂戴しました!

大谷光昭 先生(公益財団法人乙卯研究所 研究所長)

田中耕作三世研究員に関して所感を書くとすればやはりスピードと展開力だと思います。当研究所に来られた時、まだコロナ禍の雰囲気が残る中でアッという間に大きな仕事を達成し、アッという間に北海道大学へ転籍され、まるで乙卯研究所に嵐が来たような感じでした。当研究所では1人1テーマで自分のやりたい研究を自分で選択し、自由な発想で研究を進めることを最大の特徴としています。したがって論文では基本的にシングルオーサーとしてだれがやったか一目瞭然というわけです。またアドバイザリーボードメンバー(ABM)には著名な現職の教授の先生方や研究顧問の先生にお願いしてアドバイスや問題点などを指摘してもらい、活発で楽しく、元気のある報告会を開いて研究員に刺激を与えることも当研究所の重要な目標です。そのような環境は田中研究員にとってピッタリだったと思います。自己展開力のある若手研究所の代表として今後もますます研鑽を積んで立派な研究者として成功されることを期待しています。

千田憲孝 先生(公益財団法人乙卯研究所 研究顧問・慶應義塾大学名誉教授)

田中耕作三世さんは今回短期間で光励起パラジウムの新反応を開発し、パラジウム化学の新たな可能性を世界に示しました。乙卯研は一人1テーマで、単独で研究を進めるシステムなので、文献調査、原料合成、条件検討、構造決定、データ収集など、すべてを一人で行う必要があります。彼は持ち前のバイタリティーで効率的に研究を展開し(とにかく手が早い)、きわめて短い期間で素晴らしい成果を挙げました。彼のバイタリティーは飲み会でも威力を発揮し、飲むは、食べるは、話すはで会をおおいに盛り上げ、研究員の頼れる兄貴的存在となっていました。もう少し彼の研究をそばで見ていたかったのですが、この4月から北大へ異動ということで、めでたい反面、寂しくも感じています。三世くんの今後の大活躍を期待しています。

美多剛 先生(北海道大学化学反応創成研究拠点・教授)

田中耕作三世さんは一度見たら忘れない名前。しかも、今回単名でのACS Catalyst掲載は、田中さんを名前以外でも有名にしました。田中さんはMANABIYAシステム(ICReDDの計算、情報、または実験技術を、ある程度の期間ICReDDに滞在して修得する)を使って、2023年夏にICReDD2か月滞在してGRRMによる反応解析/予測法を完全にマスターしました。明治薬科大学を卒業した後、東京工業大学の岩澤伸治先生のところでポスドクとして研鑽を積み、昭和薬科大学では助教として研究指導を行い、その後乙卯研究所に研究場所を移し、わずか1年という短期間でACS Catalysisへの論文の掲載を達成しました。これは田中さんの努力の賜物であり、敬意を表したいと思います。202441日から北海道大学ICReDDで特任助教(前田ERATO)として研究を続けます。これほどまでに優秀な田中耕作三世さんと、一緒に研究できることを、我々のグループメンバー一同嬉しく思います。

それでは、インタビューをお楽しみください!

 

Q1. 今回の受賞対象となったのはどんな研究ですか?

パラジウム触媒はその有用性により、創薬の現場などで利用される信頼性の高い触媒です。しかし、反応する際は、反応性の高い脱離基を起点とすることが基本でした。

今回私はパラジウムに対して光照射することで生じる「光励起パラジウム種」が有する反応性の高さに着目し、従来パラジウム触媒が反応しないとされてきたケトンを酸と共存させることで反応が可能になり、反応活性種である「ケチルラジカル」の生成に成功しました。生じたケチルラジカルはオレフィンとの反応を経由し、パラジウム触媒特有の反応に展開が可能です。このパラジウム触媒特有の反応は、途中で生じるラジカルの級数によって、還元的カップリング生成物もしくはHeckタイプのカップリング生成物へと変化する結果が得られています。 また反応機構解析により、従来のケチルラジカル発生法とは異なる性質を有することも明らかにしました。

Fig. 1 本研究の概要

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください

「テーマの発案」や「研究スピード」、実験的には「溶媒の選定」や「機構解析」などいろいろに思い入れがある点はありますが、「研究スピード」は、日々気を付けていました。私が在籍していた乙卯研究所では自分自身でテーマを考え、それを一人で実施する場所です(詳細は有機合成化学協会誌 2024年4月号、MyPR参照)。今回行った研究はPd触媒を使ったもので、光励起させるとはいえレッドオーシャンとされる分野であるため、研究のスピード感はかなり重要でした。ましてや条件としては普通のPd触媒反応の条件とは大差がないため、日々の論文チェックはひやひやものでした。基質の合成はもちろんすべての実験を一人でこなすため、簡単に合成できるような基質を設定したり、反応の調整を簡便にすることなど、「研究スピード」に重きを置いていました。最終的に入所してテーマを開始してから半年くらいで実験やデータ集めはすべて終わり、その後、今回の論文には記載はありませんが、ICReDDのMANABIYAで計算を学びに行かせていただきました。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

実験的にはスムーズに進行することができたと思いますが、論文原稿の作成にはかなり苦労しました。最初はケチルラジカルの生成法に関する内容でイントロを書いていましたが、複数のジャーナルで審査に回ることもなく、かなり焦っていました。完璧だと思っていたイントロでしたが、ふと読み返してみると『あんまり面白くないなぁ』と感じたため、思い切ってイントロを変えて今回の論文が出来上がりました。この他にも困ったときには、研究顧問の千田先生(慶應大学名誉教授)やアドバイザリーボードの赤井先生(阪大教授)、井上先生(東大教授)、大和田先生(東大教授)、掛谷先生(京大教授)、高須先生(京大教授)が参加する、ちょっとした学会よりもすごいとされる乙卯研究所の報告会の際に(それ以外でも)相談出来たことは大変貴重でしたし、様々な分野から集まる研究員同士のディスカッションも大きな役割を果たしていました。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

2024年3月末に乙卯研究所を退所して、同4月から北海道大学 化学反応創成研究拠点(ICReDD)の美多グループで特任助教をやっています。正直なところ、半年前に自分が北海道に行くとは予想もしていませんでした。おそらく今後もこんな感じで呼ばれれば馳せ参じる精神で研究を進めていくことになると思います。

自分がまだ若手かはさておき、若手研究者を取り巻く現状は、決して明るいものではなく、将来のことを考えるほどの余裕もありません。ですので、当面は将来のことを考えず、自分が楽しいと思える化学を突き進めていければと思います。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします

まだ何も成し遂げていない自分からのメッセージよりも、おそらく読者の1/3くらいは名前の方が気になっていると思います。本名です。パスポートにはKosakusansei Tanakaと書いてありますが、論文ではKosaku Tanaka IIIと書いてあります。IIIは悪ふざけで使用したため、未だに何が正しいかもよくわからず使っています。名前の由来は学会等でお会いした時に聞いていただければと思います。

最後に、自分のやりたいテーマをのびのびと取り組ませてくださった大谷所長や事務の方々(中込さん、中田さん、田中さん)、日々のディスカッションをしてくださった研究顧問の千田先生やアドバイザリーボードの先生方、そして研究員の皆さん(柴田さん、中村さん、松浦さん、Gatzenmeierさん)にこの場をお借りして感謝申し上げます。

 

研究者の略歴

名前: 田中 耕作三世(たなか こうさくさんせい)
所属: 北海道大学 化学反応創成研究拠点(ICReDD) JST-ERATO前田化学反応知能創成プロジェクト 特任助教
研究テーマ: 新規反応開発
略歴:
2017.3 明治薬科大学大学院 博士課程後期 修了  (古源 寛 教授)
2017.4-2018.3 明治薬科大学 博士研究員(古源 寛 教授)
2018.4-2019.3東京工業大学 博士研究員(岩澤伸治 教授、鷹谷 絢 准教授)
2019.4-2022.12昭和薬科大学 特任助教(田村 修 教授)
2023.1-2024.3 乙卯研究所  博士研究員
2024.4-現在 現職 (前田 教授、美多 教授)

 

関連リンク

乙卯研究所
北海道大学ICReDD 美多グループ

Macy

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有機合成を専門とする教員。将来取り組む研究分野を探し求める「なんでも屋」。若いうちに色々なケミストリーに触れようと邁進中。

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