[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

力学的エネルギーで”逆”クリック!

[スポンサーリンク]

[注意] 紹介した本論文は現在真偽が調査されており、非常に残念ですが捏造の可能性が高いという結果が出ています。画期的な研究であっただけに非常に残念です。詳細はこちら。[追記 2014年12月17日]

[注意】 本論文は2015年2月20日に取り下げされました。捏造であったという結果です。残念です。

Unclicking the Click: Mechanically Facilitated 1,3-Dipolar Cycloreversions
Brantley, J. N.; Wiggins, K. M.; Bielawski, C. W.
Science2011, 333, 1606-1609. DOI: 10.1126/science.1207934

アルキンとアジドのクリック反応により生じる1,2,3-トリアゾールを、力学的エネルギーを加えることで再びアルキンとアジドに変換したという報告をご紹介します(図は全て論文より引用)。

トリアゾールは、芳香族性を有するため非常に安定な構造として知られていますが、いかにしてこのトリアゾールを”逆”クリックしたのでしょうか。

mechanotri2.jpg

図1. 超音波照射前(黒)、照射後(赤)、再クリック後(青)、熱処理後(緑)のGPC測定結果

 

これまでもケムステでは、力学的エネルギーによる分子構造の変換について紹介してきました(力学的活性化力を加えると変色するプラスチック)。今回は、その力学的エネルギーを用いた分子変換の最新の成果で、安定なはずのトリアゾールが超音波によりアルキンとアジドに変換されたという驚きの報告がなされています。
これまでの報告により、力学的エネルギーとして超音波を用いたとき、超音波が分子量の大きいポリマー鎖に伝わることで力学的エネルギーの伝達が起こることが明らかとされてきました。そこで筆者らは今回、中心部位にトリアゾール、両端にはポリマー(PMA)を有する分子を用いて実験を行っています(冒頭図上段)。

分子量の大きなポリマーの方が、それだけ大きな力学的エネルギーがトリアゾール部位に伝わるため、全体で6万以上の分子量を有するポリマーにおいて、超音波の照射に伴う分子量の減少が観測されました(図1、反応前が黒線、超音波後が赤線)。2~5時間程度の超音波の照射で、分子量がほぼ半分になっていることから、反応の進行率の高さが伺えます。

超音波照射で分子量が小さくなったからって、トリアゾールが切断されたとは限らないのでは?
ポリマー主鎖がちぎれたり、トリアゾール近傍のエステルが切れてもおかしくないのでは?

と、考える方もいらっしゃるかもしれません。

そこで筆者らは、超音波でトリアゾールを切断した後に、再びクリック反応を行い、力学的エネルギーにより生じたアルキンとアジドが再び反応に使えることを示しています(図1、青線)。超音波後のクリック反応において、分子量が完全に元に戻らないのは、分子量の大きいポリマー間での反応なので、主鎖に邪魔されてしまい反応がうまく進行しないためだと思われます(しかし、これでもまだ主鎖やトリアゾール以外の連結部位の切断の可能性は完全には否定された訳ではありませんが…)。

他にも、中間体捕捉や熱安定性試験を通して、分子量の大きなポリマーの中心にあるトリアゾールが選択的に力学的エネルギーにより逆環化されていることが明らかとされています(図1、緑線が258℃で19時間熱処理したもの。全く分解していない)。

今回の方法論により、シンプルなコンセプトとシンプルな分子設計でありながら、力学的エネルギーを用いれば安定なトリアゾールですらアルキンとアジドの「保護基」となり得ることが示されました。もちろん、トリアゾールに限った話ではないので、力学的エネルギーを用いた様々な官能基の変換への応用が期待されます。

それにしても、そもそもトリアゾールを開いてみようなんて考える、その大胆な発想こそがこの研究の一番すごいところではないか思います。

Avatar photo

suiga

投稿者の記事一覧

高分子合成と高分子合成の話題を中心にご紹介します。基礎研究・応用研究・商品開発それぞれの面白さをお伝えしていきたいです。

関連記事

  1. 分子研 大学院説明会・体験入学説明会 参加登録受付中!
  2. リチウムイオン電池の課題のはなし-1
  3. 【解ければ化学者】ビタミン C はどれ?
  4. エマルジョンラジカル重合によるトポロジカル共重合体の実用的合成
  5. 論文コレクター必見!WindowsでPDFを全文検索する方法
  6. 細胞の中を旅する小分子|第二回
  7. プラナーボラン - 有機エレクトロニクス界に期待の新化合物
  8. 化学者の卵、就職サイトを使い始める

注目情報

ピックアップ記事

  1. SciFinder Future Leaders プログラム体験記 まとめ
  2. メカノクロミズムの空間分解能の定量的測定に成功
  3. ラロック インドール合成 Larock Indole Synthesis
  4. 【4月開催】 【第二期 マツモトファインケミカル技術セミナー開催】 題目:有機金属化合物 オルガチックスとは~基礎技術(構造、反応性)の紹介~
  5. 有機合成から無機固体材料設計・固体物理へ: 分子でないものの分子科学を求めて –ジャン ロッシェ材料研究所より
  6. ロドデノール (rhododenol)
  7. 「イスラム国(ISIS)」と同名の製薬会社→社名変更へ
  8. プロペランの真ん中
  9. 有機合成プロセスにおけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用
  10. 化学者だって数学するっつーの! :定常状態と変数分離

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年10月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

【太陽ホールディングス】新卒採用情報(2027卒)

■■求める人物像■■「大きな志と好奇心を持ちまだ見ぬ価値造像のために前進できる人…

欧米化学メーカーのR&D戦略について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、欧米化…

有馬温泉でラドン泉の放射線量を計算してみた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉は、日本の温泉で最も高い塩分濃度を持ち黄褐色を呈する金泉と二酸化炭素と放射性のラドンを含んだ…

アミンホウ素を「くっつける」・「つかう」 ~ポリフルオロアレーンの光触媒的C–Fホウ素化反応と鈴木・宮浦カップリングの開発~

第684回のスポットライトリサーチは、名古屋工業大学大学院工学研究科(中村研究室)安川直樹 助教と修…

第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」を開催します!

第56回ケムステVシンポの会告を致します。3年前(32回)・2年前(41回)・昨年(49回)…

骨粗鬆症を通じてみる薬の工夫

お久しぶりです。以前記事を挙げてから1年以上たってしまい、時間の進む速さに驚いていま…

インドの農薬市場と各社の事業戦略について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、インド…

【味の素ファインテクノ】新卒採用情報(2027卒)

当社は入社時研修を経て、先輩指導のもと、実践(※)の場でご活躍いただきます。…

味の素グループの化学メーカー「味の素ファインテクノ社」を紹介します

食品会社として知られる味の素社ですが、味の素ファインテクノ社はその味の素グループ…

味の素ファインテクノ社の技術と社会貢献

味の素ファインテクノ社は、電子材料の分野において独創的な製品を開発し、お客様の中にイノベーションを起…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP