[スポンサーリンク]

世界の化学者データベース

ロバート・レフコウィッツ Robert J. Lefkowitz

[スポンサーリンク]

ロバート・レフコウィッツ(Robert Joseph Lefkowitz、1943年4月15日-)はアメリカの生理化学者であり、Gタンパク質共役型受容体(G protein coupled receptor; GPCR)についての先駆的な研究によって、2012年にブライアン・コビルカとともにノーベル化学賞を受けました。(写真:研究室ウェブページより)

 

ヒトをはじめとする多細胞生物は、お互いに情報を担う分子をやりとりして、信号を交わしコミュニケーションしています。やりとりされるシグナル分子を、細胞はそれぞれきちんと認識して、信号を受け取っています。このようなシグナル分子を認識する装置は、ほとんどの場合アミノ酸がつらなるタンパク質からできており、受容体と呼ばれます。その中でも、生命現象一般によく見られる仕組みが、Gタンパク質共役型受容体と呼ばれるタンパク質の一群であり、副腎皮質刺激ホルモン受容体の他、実際の具体例は枚挙にいとまがありません。

シグナル分子として機能する生理活性物質の単離や合成、構造活性相関から応用展開まで、天然物化学の方法論は今まで興隆してきました。この流れに対して、それらの受け皿となる標的タンパク質の先駆的な研究が、新たに2012年ノーベル化学賞として、評価されることになりました。

 

ロバート・レフコウィッツらは、39個のアミノ酸からできた副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone; ACTH)と呼ばれる生理活性ペプチドを研究材料にしていました。彼の研究チームは、この副腎皮質刺激ホルモンを精製したのち、放射性ヨウ素126で標識し、その機能を観察しようと考えました。この標識には、クロラミンTを酸化剤としてヨウ化ナトリウムとともに反応させ、チロシン残基のヒドロキシ基をヨウ素原子に置き換えることで達成しました。

 

GREEN201212Novel01.png

 

そして、副腎皮質の細胞から、細胞膜を含んだ画分を取り出し、アデニル酸環化酵素(のちにGタンパク質共役型受容体の下流にある因子と判明)活性を指標にして、副腎皮質刺激ホルモンの作用を調べることにしました。まず、標識していない副腎皮質刺激ホルモンと同様の生理活性を、放射性ヨウ素標識した副腎皮質刺激ホルモンでも確認し、標識の成功を確認しました。次に、放射性ヨウ素の放射能を追跡したところ、副腎皮質刺激ホルモンの受容体は細胞膜にあるらしいということが判明しました[1]。

そう、これが数々のシグナル分子の認識に関与するGタンパク質共役型受容体ファミリーへのほとんど最初の糸口だったのです。タンパク質の化学合成法をはじめ、技術が洗練された現在から見てみれば、確かに泥臭い実験です。しかし、「巨人の肩の上に立つ」の言葉のとおり、この発見の上に今の応用展開もあると思えば、その恩恵ははかりしれないことでしょう。

 

経歴

1966年コロンビア大学卒業

1977年デューク大学教授

 

受賞歴

1988年 ガードナー国際賞

2007年 アメリカ国家科学賞

2007年 ショウ賞

2012年 ノーベル化学賞

2014年 Golden Plate Award of the American Academy of Achievement

参考論文・ウェブサイト

[1] Lefkowitz RJ, Roth J, Pricer W. Pastan I (1970) “ACTH receptors in the adrenal: specific binding of ACTH-125I and its relation to adenylyl cyclase.” Proc Natl Acad Sci USA

[2] レコフウィッツ研究室ウェブページ(http://www.lefkolab.org/)

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4758100926″ locale=”JP” title=”実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3 構造から創薬に向かうGPCR研究〜シグナルを呼び起こす,そのダイナミクス”][amazonjs asin=”4759815619″ locale=”JP” title=”膜タンパク質構造研究”]

 

関連動画

Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. ジョージ・ホワイトサイズ George M. Whiteside…
  2. アレン・バード Allen J. Bard
  3. リッチー・サーポン Richmond Sarpong
  4. Louis A. Carpino ルイス・カルピノ
  5. クリス・クミンス Christopher C. Cummins
  6. モウンジ・バウェンディ Moungi G Bawendi
  7. ジャクリン・バートン Jacqueline K. Barton
  8. 長谷川 靖哉 Yasuchika Hasegawa

注目情報

ピックアップ記事

  1. 有機合成化学協会誌2021年4月号:共有結合・ゲル化剤・Hoveyda-Grubbs型錯体・糸状菌ジテルペノイドピロン・Teleocidin B
  2. 樹脂コンパウンド材料におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用とは?
  3. 【 Web seminar by Microwave Chemical 】 マイクロ波化学(株)/ 7月26日(水)欧州向けウェビナー開催
  4. ミツバチに付くダニのはなし
  5. 第19回ケムステVシンポ「化学者だって起業するっつーの」を開催します!
  6. 貴金属に取って代わる半導体触媒
  7. 内部アルケン、ついに不斉ヒドロアミノ化に屈する
  8. 誤解してない? 電子の軌道は”軌道”ではない
  9. マルコフニコフ則 Markovnikov’s Rule
  10. 初歩から学ぶ無機化学

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年10月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

ケムステイブニングミキサー2025に参加しよう!

化学の研究者が1年に一度、一斉に集まる日本化学会春季年会。第105回となる今年は、3月26日(水…

有機合成化学協会誌2025年1月号:完全キャップ化メッセンジャーRNA・COVID-19経口治療薬・発光機能分子・感圧化学センサー・キュバンScaffold Editing

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年1月号がオンライン公開されています。…

配位子が酸化??触媒サイクルに参加!!

C(sp3)–Hヒドロキシ化に効果的に働く、ヘテロレプティックなルテニウム(II)触媒が報告された。…

精密質量計算の盲点:不正確なデータ提出を防ぐために

ご存じの通り、近年では化学の世界でもデータ駆動アプローチが重要視されています。高精度質量分析(HRM…

第71回「分子制御で楽しく固体化学を開拓する」林正太郎教授

第71回目の研究者インタビューです! 今回は第51回ケムステVシンポ「光化学最前線2025」の講演者…

第70回「ケイ素はなぜ生体組織に必要なのか?」城﨑由紀准教授

第70回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

第69回「見えないものを見えるようにする」野々山貴行准教授

第69回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

第68回「表面・界面の科学からバイオセラミックスの未来に輝きを」多賀谷 基博 准教授

第68回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

配座制御が鍵!(–)-Rauvomine Bの全合成

シクロプロパン環をもつインドールアルカロイド(–)-rauvomine Bの初の全合成が達成された。…

岩田浩明 Hiroaki IWATA

岩田浩明(いわたひろあき)は、日本のデータサイエンティスト・計算科学者である。鳥取大学医学部 教授。…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP