[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

固有のキラリティーを生むカリックス[4]アレーン合成法の開発

[スポンサーリンク]

不斉有機触媒を利用した分子間反応により、カリックス[4]アレーンにキラリティーを付与する手法が報告された。ワンポットで多様なキラルカリックス[4]アレーンを構築することが可能である。

固有キラリティーを有するキラルカリックス[4]アレーンの合成

カリックスアレーンは、フェノールの2位と6位がメチレン基で架橋された環状オリゴマーである。なかでも、不斉原子に依存しない「固有キラリティー」を有するキラルカリックス[4]アレーンは[1]、特異な不斉源としてキラル認識材料や不斉触媒への応用が期待されてきた[2]。しかし、従来の合成法で単一のエナンチオマーを得るためには、HPLCによる光学分割や不斉補助基の利用が必須であった[3]

このような背景のもと、キラルカリックス[4]アレーンの合成法が盛んに研究されてきた[4,5]。例えば、Caiらによるパラジウム触媒を利用したC­–Hアリール化反応では、高エナンチオ選択的にキラルカリックス[4]アレーンを与える(図1C)[4a]。また、2024年にWangらは、キラルリン酸触媒(CPA)を利用したSNAr反応で、ヘテロアレーンを組み込む手法を開発している[5]。しかし、これらの手法はどれも分子内反応に限定されていた。

今回、青島大学のLiuらは、新たに分子間反応を利用して、「固有キラリティー」をもつカリックス[4]アレーンの構築を目指した(図1D)。彼らは、CPAを用いる不斉Povarov反応に着目し[6]、テトラヒドロキノリンを構築した後、これを酸化することで、カリックス[4]アレーンにキラリティーを付与することに成功した。本手法の確立により、迅速に多様なキラルカリックス[4]アレーンを構築することが可能になった。

図1. (A) 固有キラリティー (B) 固有キラリティーを有する機能性分子 (C) 分子内反応によるキラルカリックス[4]アレーンの合成 (D)分子間反応による不斉の発現

“Organocatalytic Enantioselective Synthesis of Inherently Chiral Calix[4]arenes”

Jiang, Y.-K.; Tian, Y.-L.; Feng, J.; Zhang, H.; Wang, L.; Yang, W.-A.; Xu, X.-D.; Liu, R.-R. Angew. Chem., Int. Ed. 2024, e202407752. DOI: 10.1002/anie.202407752

論文著者の紹介

研究者:Ren-Rong Liu (刘人荣)

研究者の経歴:
2013                         Ph.D., East China Normal University, China (Prof. Junliang Zhang)
2013–2016            Lecturer, Zhejiang University of Technology, China (Prof. Yi-Xia Jia)
2016–2018            Associate Professor, Zhejiang University of Technology, China (Prof. Yi-Xia Jia)
2018–2019            Postdoc, Colorado State University, USA (Prof. Andrew McNally) 
2019–                       Professor, Qingdao University, China

研究内容: 不斉触媒を用いた反応開発、および、それらを利用した機能性分子の合成

論文の概要

検討の結果、CPA 1を用いることで、カリックス[4]アレーン1およびアルデヒド2、ビニルアミン3のPovarov反応が進行し、その後の酸化により、高エナンチオ選択的にキラルカリックス[4]アレーン4を与えた(図2A)。本反応の基質適用範囲は広く、多様な置換パターンのアセトフェノン(2a–2d)のみならず、ヘテロアリール基やアルキル基が置換したアルデヒド(2e–2f)にも適用できた。本手法により、簡便かつ高エナンチオ選択的に、多種多様なキラルカリックス[4]アレーンを構築することが可能になった。

著者らは、先行研究を踏まえ、CPA 1による不斉発現の機構を次のように推定している(図2B)[7]。CPA 1 は水素結合を介して、カリックス[4]アレーン1とアルデヒド2の縮合により生じるイミンおよびビニルアミン3を同時に活性化する。この際、中間体Int 1では、CPA 1上のナフチル基とカリックス[4]アレーン骨格との間に立体反発が働くため、優先的にInt 2を経由し、エナンチオ選択的にキラルカリックス[4]アレーン4を与える。また、4aから2工程で得られるCat 1 を、既存の不斉[4+2]付加環化反応に適用した(図2C)[8]。その結果、Cat 1は、竹本触媒Cat 2を、収率とエナンチオマー過剰率の両方で上回る、高い触媒活性を示した。他にも、著者らは、置換基を変更することで、キラルカリックス[4]アレーンの光学特性を調節できることを明らかにした。

図2. (A) 最適条件と基質適用範囲 (B) エナンチオ選択性発現時に想定される中間体 (C) 不斉触媒への応用

 

以上、不斉有機触媒を利用した分子間反応によるキラルカリックス[4]アレーン合成法が報告された。本手法により、多様なキラルカリックス[4]アレーンが合成され、キラル材料や不斉触媒として発展していくことが期待される。

 参考文献

  1. Böhmer, V.; Kraft, D.; Tabatabai, M. Inherently Chiral Calixarenes. J. Phenom. Macrocycl. Chem. 1994, 19, 17–39. DOI: 10.1007/BF00708972
  2. (a) Li, S.-Y.; Xu, Y.-W.; Liu, J.-M.; Su, C.-Y. Inherently Chiral Calixarenes: Synthesis, Optical Resolution, Chiral Recognition and Asymmetric Catalysis. J. Mol. Sci. 2011, 12, 429–455. DOI: 10.3390/ijms12010429 (b) Durmaz, M.; Halay, E.; Bozkurt, S. Recent Applications of Chiral Calixarenes in Asymmetric Catalysis. Beilstein J. Org. Chem. 2018, 14, 1389–1412. DOI: 10.3762/bjoc.14.117
  3. Kliachyna, M. A.; Yesypenko, O. A.; Pirozhenko, V. V.; Shishkina, S. V.; Shishkin, O. V.; Boyko, V. І.; Kalchenko, V. I. Synthesis, Optical Resolution and Absolute Configuration of Inherently Chiral Calixarene Carboxylic Acids. Tetrahedron 2009, 65, 7085–7091. DOI: 1016/j.tet.2009.06.039
  4. (a) Zhang, Y.-Z.; Xu, M.-M.; Si, X.-G.; Hou, J.-L.; Cai, Q. Enantioselective Synthesis of Inherently Chiral Calix[4]arenes via Palladium-Catalyzed Asymmetric Intramolecular C–H Arylations. J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 22858–22864. DOI: 10.1021/jacs.2c10606 (b) Zhang, X.; Tong, S.; Zhu, J.; Wang, M.-X. Inherently Chiral Calixarenes by a Catalytic Enantioselective Desymmetrizing Cross-Dehydrogenative Coupling. Chem. Sci. 2023, 14, 827–832. DOI: 10.1039/D2SC06234H
  5. Li, X.-C.; Cheng, Y.; Wang, X.-D.; Tong, S.; Wang, M.-X. De Novo Synthesis of Inherently Chiral Heteracalix[4]aromatics from Enantioselective Macrocyclization Enabled by Chiral Phosphoric Acid-Catalyzed Intramolecular SNAr Reaction. Chem. Sci. 2024, 15, 3610–3615. DOI: 10.1039/D3SC06436K
  6. Clerigué, J.; Ramos, M. T.; Menéndez, J. C. Enantioselective Catalytic Povarov Reactions. Org. Biomol. Chem. 2022, 20, 1550–1581. DOI: 10.1039/D1OB02270A
  7. Bisag, G. D.; Pecorari, D.; Mazzanti, A.; Bernardi, L.; Fochi, M.; Bencivenni, G.; Bertuzzi, G.; Corti, V. Central‐to‐Axial Chirality Conversion Approach Designed on Organocatalytic Enantioselective Povarov Cycloadditions: First Access to Configurationally Stable Indole–Quinoline Atropisomers. Chem. Eur. J. 2019, 25, 15694–15701. DOI: 10.1002/chem.201904213
  8. Liu, S.; Chen, Z.; Chen, J.; Ni, S.; Zhang, Y.; Shi, F. Rational Design of Axially Chiral Styrene‐Based Organocatalysts and Their Application in Catalytic Asymmetric (2+4) Cyclizations. Angew, Chem., Int. Ed. 2022, 61, e202112226. DOI: 10.1002/anie.202112226
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 最後に残ったストリゴラクトン
  2. 白リンを超分子ケージに閉じ込めて安定化!
  3. リチウムイオン電池のはなし~1~
  4. ポンコツ博士の海外奮闘録 ケムステ異色連載記
  5. 【マイクロ波化学(株)環境/化学分野向けウェビナー】 #CO2削…
  6. 第2回エクソソーム学術セミナー 主催:同仁化学研究所
  7. 研究動画投稿で5000ユーロゲット?「Science in Sh…
  8. 第30回ケムステVシンポ「世界に羽ばたく日本の化学研究」ーAld…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 味の素、アミノ酸の最大工場がブラジルに完成
  2. 粒子画像モニタリングシステム EasyViewerをデモしてみた
  3. ホウ素と窒素固定のおはなし
  4. 「サンゴ礁に有害」な日焼け止め禁止法を施行、パラオ
  5. 快適な研究環境を!実験イス試してみた
  6. 【好評につきリピート開催】マイクロ波プロセスのスケールアップ〜動画で実証設備を紹介!〜 ケミカルリサイクル、乾燥炉、ペプチド固相合成、エステル交換、凍結乾燥など
  7. 期待度⭘!サンドイッチ化合物の新顔「シクロセン」
  8. フッ素が実現する高効率なレアメタルフリー水電解酸素生成触媒
  9. 熊田誠氏死去(京大名誉教授)=有機ケイ素化学の権威
  10. メラトニン melatonin

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2024年11月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

マーフィー試薬 Marfey reagent

概要Marfey試薬(1-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル-5-L-アラニンアミド、略称:FD…

UC Berkeley と Baker Hughes が提携して脱炭素材料研究所を設立

ポイント 今回新たに設立される研究所 Baker Hughes Institute for…

メトキシ基で転位をコントロール!Niduterpenoid Bの全合成

ナザロフ環化に続く二度の環拡大というカスケード反応により、多環式複雑天然物niduterpenoid…

金属酸化物ナノ粒子触媒の「水の酸化反応に対する駆動力」の実験的観測

第639回のスポットライトリサーチは、東京科学大学理学院化学系(前田研究室)の岡崎 めぐみ 助教にお…

【無料ウェビナー】粒子分散の最前線~評価法から処理技術まで徹底解説~(三洋貿易株式会社)

1.ウェビナー概要2025年2月26日から28日までの3日間にわたり開催される三…

第18回日本化学連合シンポジウム「社会実装を実現する化学人材創出における新たな視点」

日本化学連合ではシンポジウムを毎年2回開催しています。そのうち2025年3月4日開催のシンポジウムで…

理研の一般公開に参加してみた

bergです。去る2024年11月16日(土)、横浜市鶴見区にある、理化学研究所横浜キャンパスの一般…

ツルツルアミノ酸にオレフィンを!脂肪族アミノ酸の脱水素化反応

脂肪族アミノ酸側鎖の脱水素化反応が報告された。本反応で得られるデヒドロアミノ酸は多様な非標準アミノ酸…

野々山 貴行 Takayuki NONOYAMA

野々山 貴行 (NONOYAMA Takayuki)は、高分子材料科学、ゲル、ソフトマテリアル、ソフ…

城﨑 由紀 Yuki SHIROSAKI

城﨑 由紀(Yuki SHIROSAKI)は、生体無機材料を専門とする日本の化学者である。2025年…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP