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化学者のつぶやき

ケトンを配向基として用いるsp3 C-Hフッ素化反応

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ジョン・ホプキンス大学のThomas Lectkaらは、ユビキタス官能基であるケトンを配向基として用い、剛直な環状化合物において位置選択的なsp3 C-Hフッ素化を達成した。

“Ketones as directing groups in photocatalytic sp3 C-H fluorination”
Bume, D. D.; Pitts, C. R.; Ghorbani, F.; Harry, S. A.; Capilato, J. N.; Siegler, M. A.; Lectka, T. * Chem. Sci. 2017, 8, 6918-6923. doi:10.1039/C7SC02703F

問題設定

位置選択的sp3 C-Hフッ素化の報告は未だ限られている。既報の反応条件では、innateな反応性の高いC-H結合もしくは立体的に近づきやすいC-H結合の変換、または配向基を用いるC-H変換戦略によって位置選択性が達成されていた。
電子求引基から遠く、電子豊富なC-H結合ほどC-H均等開裂からのラジカル生成が起きやすいことはよく知られている。しかしLectkaらは、電子求引基であるエノンが配向基として働き、多環性テルペノイドの位置選択的な光化学的C-Hフッ素化が進行することを見いだしていた[1]。その一方で、同条件そのままでは、ケトンを配向基として用いる反応に適用することはできなかった(非選択的なフッ素化が起きる)。

技術や手法のキモ

300 nmのUV照射条件にて基質やフッ素源自体が励起されてしまうと望ましくない非選択的反応が生じると考え、可視光下で励起される光増感剤を用いている。これにより、より温和な条件下に望ましい反応性・選択性にてC-Hフッ素化体が得られるのではないかと考えた。この増感剤の添加が前報のフッ素化[1]からの重要な変更点である。

主張の有効性検証

①反応条件について

光増感剤のスクリーニングを行ったところ、三重項増感剤として知られているベンジルが最も高収率を示した。フッ素源に関してはSelectfluorがよく、NFSIやN-fluoropyridinium塩などでは目的のフッ素化体は得られなかった。また、Selectfluorの量を増やすと選択性が低下し、望ましくないフッ素化体の増加が見られた。
光、ベンジル、フッ素化剤のいずれかが欠けた場合、反応は進行しない。空気下で反応を行った場合も反応は進行しない。光なしの還流加熱条件では目的物は得られず、trace量のフッ素化体が生じるのみであった。

②基質一般性の検討

冒頭図の条件をもちいて一般性の検討を行っている。

総じて以下の傾向が見て取れる。

  • 多環性の剛直骨格を有する基質において位置選択的なフッ素化が起きる。
  • 反応はケトンと5員環・6員環を組める位置で起きる。ただし1級C-Hはフッ素化されない。
  • エチルベンゼンを基質とするとフッ素化が起きない。ケトンが重要な役割を果たしていることが示唆される。
  • ケトン部位は環内にあっても環外にあってもよい。配座が固定されていない場合には、下図のように位置異性体が混ざりうる。

  • 選択性発現のためには配座剛直性が必要で、直鎖のケトンに対する反応制御は難しい。たとえば2-ヘプタノンにおいてはβ:γ:δ=1 : 2.3 : 1.3の位置異性体混合物が生じる。2-デカノン、2-ドデカノンではさらに複雑な混合物が生じる。
③反応機構について

前報のエノンを配向基として利用する反応条件[1]では、分子内水素原子移動(HAT)過程で位置選択性を説明していた。しかしながら今回の場合、

  1. 分子内HATに有利な希釈条件にしても直鎖ケトンでの結果が改善しなかった
  2. ベンジルの三重項エネルギー(53 kcal/mol)が、脂肪族ケトンへと三重項-三重項エネルギー移動を起こせる(80 kcal/mol)ほどは大きくない。

といった2点からHAT過程が介在する機構ではないと考えている。

ベンジルは基質からSelectflourへのエネルギー移動を促進し、窒素ラジカル中間体を形成し、酸化剤として働き、電子移動・プロトン移動を引き起こし、反応を進めているのではないかと考えている。実際、光照射なしで窒素ラジカル中間体を出せるSelectfluor+BEt3条件では、今回の反応と同等の選択性が見られる。

厳密なメカニズム解析は未完であり、詳細には今後の研究が待たれる。

議論すべき点

  • 位置選択性を決めている要素として、基質依存な面が大きい(配座剛直性が必須であるなど)。やはり反応剤や触媒コントロールで位置選択性を発現させたいところ。また、完全直鎖ケトンとまでは言わなくても、ある程度直鎖の基質に対しても選択性を出せる反応が望ましい。

次に読むべき論文は?

  • 今回の場合は、ケトンに対して5員環もしくは6員環を組める位置が変換され、それよりも遠隔位の変換は困難である。ケトン―触媒間で水素結合形成などを行って触媒を適切な位置に固定できれば、遠隔位選択的な変換も達成できるだろうか。非共有結合性相互作用を用いる位置選択的C-H官能基化に関する総説[2]は、その参考情報として有益かも知れない。

参考文献

  1. Pitts, C. R.; Bume, D. D.; Harry, S. A.; Siegler, M. A.; Lectka. T. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 2208. DOI: 10.1021/jacs.7b00335
  2. Davis, H. J.; Phipps, R. J. Chem. Sci. 2017, 8, 864. doi:10.1039/C6SC04157D

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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