[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

2つの触媒と光エネルギーで未踏の化学反応を実現: 芳香族化合物のメタ位選択的アシル化の開発に成功 !!!

[スポンサーリンク]

第556回のスポットライトリサーチは、京都大学 化学研究所 大宮研究室の後藤 大和(ごとう やまと)さんにお願いしました。

大宮研究室では、新触媒・新反応・新機能を有機化学的な研究手法で創りだし、創薬・生命科学研究の未来を切り拓くことを目標に研究を行っています。具体的には、N-ヘテロ環カルベン触媒や有機硫黄光触媒のような有機触媒を独自の手法でデザインし、これらを用いることで、一電子移動を伴うラジカル反応を能動的に制御し、分子変換反応を開発しました。また、ラジカル反応を核酸誘導体の化学修飾に応用することで、創薬・生命科学研究における新たなケミカルスペースの開拓に繋げています。さらに、ラジカルが生じる有機ホウ素化合物を独自にデザインすることで、これまで実現困難であったアセチルコリンのような生物機能分子のケージド化法を開発し、ケミカルバイオロジー分野に貢献しています。

本プレスリリースの研究内容は芳香族化合物のメタ位選択的アシル化反応についてです。本研究グループでは、青色LED照射下、環境負荷の少ない有機触媒を2つ組み合わせて用いることで、電子供与性基の置換した電子豊富な芳香族化合物のメタ位選択的アシル化反応の開発に成功しました。この研究成果は、「Nature Synthesis」誌に掲載され、またプレスリリースにも成果の概要が公開されています。

N-heterocyclic carbene- and organic photoredox-catalysed meta-selective acylation of electron-rich arenes

Yamato Goto, Masaki Sano, Yuto Sumida, Hirohisa Ohmiya

Nat. Synth (2023)

DOI:doi.org/10.1038/s44160-023-00378-4

研究室を主宰されている大宮 寛久教授より後藤さんについてコメントを頂戴いたしました!

後藤くんは、学部〜M1にかけて研究が思うように進まない時期を経験、ある反応の副生成物としてメタ体を発見、その後、化学収率向上および再現性に大苦戦、審査プロセスでの追加実験(触媒サイクルの計算など)で大奮闘と、よくある出来事を立派に乗り越えました。この研究を通じて、大きく成長したはずです。博士後期課程に進学する予定ですので、今後のさらなる活躍を楽しみにしていますね。

今回は、スポットライトリサーチムービーも撮影させていただきました。それではムービーとあわせて記事を御覧ください!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

多置換芳香環は医薬品や機能性材料等に含まれる基本骨格の一つです。そのため、芳香環を官能基化する手法はこれまで広く開発されてきました。Friedel-Crafts反応に代表される芳香族求電子置換反応は、芳香環上の電子供与性置換基からみてオルト-パラの位置で起こります。そのため、メタ位での反応は困難とされてきました(図1上段)。このような背景のもと、遷移金属触媒を用いた、電子豊富芳香環のメタ位選択的な反応開発が近年盛んに行われています。しかし、これら遷移金属触媒を用いる反応は、芳香環上に複雑な配向基や嵩高い置換基を導入した芳香族化合物を原料として用いる必要がありました。

図1. フリーデル・クラフツ反応と本研究成果の比較

今回、N-ヘテロ環カルベン触媒と光酸化還元触媒を協働的に用いることで、青色LED照射下、電子豊富芳香環のアシル化が完全なメタ選択性で進行することを見出しました(図1下段)。触媒サイクルにあるように反応のポイントは、カルボン酸誘導体とNHC触媒との交換により脱離したアゾリドアニオンが、電子豊富芳香環の一電子酸化により生じるラジカルカチオンのパラ位に求核付加する点です(図2)。

図2. 触媒サイクル

量子化学計算の手法を用いて、ラジカルカチオンの電荷密度を求めたところ、パラ位のカチオン性が高いことが確認されました(図3左)。そして求核付加後に生成するアルキルラジカルは、メタ位にスピンが集中しており、オルト-パラ位よりもラジカルとして高い反応性を発現している点が特徴です(図3右)。これら二つの触媒サイクルを能動的に精密制御することで、メタ位アシル化という未踏の化学反応を実現しました。

図3. 量子化学計算による機構研究

本手法は,1)容易に入手可能で単純かつ電子豊富な芳香族化合物を利用できる,2)穏和な反応条件で実施できるため,官能基許容性に優れているという有機合成化学的な利点を持ちます。したがって,これまで困難であった60種類以上の芳香族化合物をつくりだすことができました(図4)。分子内に多数の官能基を有する複雑な医薬品や天然物のアシル化反応も実現しました。

図4. 基質適用範囲

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

添加物であるセシウム塩の調製です。文献上の合成法がざっくりしており思いの外うまく作れなかったので、反応条件から精製条件まで一新しました。また生成物のメタ位置換を確認するために、今回の生成物のプロトンNMRスペクトルをくまなく解析しました。このおかげで芳香族領域のカップリングには非常に敏感になりました。

さらに量子化学計算を用いた反応機構解析では、朝から晩まで計算用PCと睨めっこして、一つ一つの素過程のエネルギー変化を明らかにしました。特に触媒が絡んでくる工程は驚くほどエラーが出て頭を抱えましたが、順を追って丁寧に計算し直すことで、触媒サイクル全体のエネルギーポテンシャル図を完成させることができました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

同じ条件で反応をかけようとしても再現が取れない時期が続いたことです。あまりにも長かったため、自分の手技がよくないのか?という根拠のないネガティブ感情に襲われそうになった時もありましたが、根気強く検討を続けた結果、添加物という着想に至りました。ある日、何気なく反応の経時変化を追ってみたところ、反応初期段階で全く生成物ができておらず、反応開始後、数時間たってからようやく徐々に生成物が観られ始めるという奇妙な結果に遭遇しました。これは、時間経過で徐々に分解していった基質から生じるアゾリドイオンの濃度上昇と関係があるのだろうと予想し、アゾリド塩を合成し添加してみたところ、経時変化プロットは鰻登りという結果になり、再現も容易に取れるようになりました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

日常的にあるネタのタネを自由に漁れるアカデミアという業界は、とても魅力的に感じています。これまでの常識を打ち破る,つまり教科書を書き換えるような発見をすることが研究の真骨頂です。これまで数多くの刺激的な論文に出会ってきましたが,今回の発見も見つかった当時の興奮は忘れられません。一方で、科学の面白さを伝えられるような学校の教師にも興味があります。高校当時の化学教師の姿が非常に印象深く、憧れの存在でもあるので、そういった存在になってみたい、こんなキャリアもいいかなと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

ここまで読んでいただきありがとうございます。博士後期課程は大宮教授の京都大学への異動に伴い、 京都大学大学院薬学研究科に編入学したいと思っています。そのため、これからも学会等でお会いすることがあるかと思いますが、その際は「ケムステを見た!」と言っていただければ嬉しいです。お互いに持ちネタをぶつけ合いましょう。

最後になりますが、日々の研究に熱心にご指導いただいた大宮先生、隅田先生、夜遅くまで実験を手伝ってくれた佐野君に、この場をお借りして感謝申し上げます。

研究者の略歴

名前 : 後藤 大和 (ごとう やまと)

所属 : 金沢大学 大学院医薬保健学総合研究科創薬科学専攻 博士前期課程2年

研究室 : 大宮 寛久 研究室 (特別研究学生)

研究テーマ : N-ヘテロ環状カルベン触媒と光酸化還元触媒を協働的に用いた芳香族官能基化反応の開発

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 学術変革領域(B)「糖化学ノックイン」発足!
  2. 剛直な環状ペプチドを与える「オキサゾールグラフト法」
  3. 製薬産業の最前線バイオベンチャーを訪ねてみよう! ?シリコンバレ…
  4. 金属材料・セラミックス材料領域におけるマテリアルズ・インフォマテ…
  5. おまえら英語よりもタイピングやろうぜ ~初級編~
  6. 第98回日本化学会春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Pa…
  7. 共役はなぜ起こる?
  8. オキソニウムカチオンを飼いならす

注目情報

ピックアップ記事

  1. 不安定な高分子原料を従来に比べて 50 倍安定化することに成功! ~水中での化学反応・材料合成に利用可能、有機溶媒の大幅削減による脱炭素に貢献~
  2. マンダー試薬 Mander’s Reagent
  3. 濃硫酸の1000倍強い超酸の中でも蛍光を保ち続ける”超酸耐性BODIPY”
  4. 粉いらずの指紋検出技術、米研究所が開発
  5. 10手で陥落!(+)-pepluanol Aの全合成
  6. 日本酸素記念館
  7. 第31回光学活性化合物シンポジウム
  8. 危険物データベース:危険物に関する基礎知識
  9. 半導体・リチウムイオン電池にも!マイクロ波がもたらすプロセス改善
  10. 鉄、助けてっ(Fe)!アルデヒドのエナンチオ選択的α-アミド化

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2023年9月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

アンモニウム構造によりラジカル種の発生位置を完全に制御!

第710回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の榊原 陽太(さかきばら …

化学つれづれ草【ある研究者の回想】

概要物理化学者で量子機能材料を専門とする著者によるエッセイ集.化学者としての研究,教育,人生…

第60回有機反応若手の会

開催概要有機反応若手の会は、有機化学分野で研究を行う全国の大学院生を中心とした若手研究者が集い、…

ノーベル賞受賞者と語り合う5日間!「第18回HOPEミーティング」参加者募集!

申し込みはこちら概要主催:独立行政法人 日本学術振興会(JSPS)開催地:神奈川…

光触媒による高効率なCO2還元の実現―まさかの光を弱く当てることが重要だった―

第709回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 理学院(前田研究室)博士後期課程2年の仲田竜一 …

「π-πスタッキング」という言葉が生む誤解【芳香環の相互作用を見直す: 前編】

芳香環が平行に並んで近接しているとき、その構造を「π–π スタッキング」と表されることがよくあります…

一重項酸素によるC(sp2)−P結合切断を用いた長波長光によるリン化合物のアンケージング

第 708 回のスポットライトリサーチは、同志社女子大学 薬学部 医療薬学科 5…

マテリアルズ・インフォマティクスにおける画像解析の活用ガイド

開催概要材料開発において、電子顕微鏡やX線トモグラフィーを用いて材料の微細構造を観察するために画…

世界初のPROTAC医薬、ついに承認 ―「タンパク質を阻害する」から「分解する」時代へ

2026年5月、創薬化学の歴史に残る大きな出来事が起きました。米国 FDA は、…

有機蛍光とは異なる新しい有機りん光の分子設計指針の発見

第707回のスポットライトリサーチは、電気通信大学 情報理工学研究科(牧昌次郎研究室)の林希久也 助…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP