[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

DNAナノ構造体が誘起・制御する液-液相分離

[スポンサーリンク]

第274回のスポットライトリサーチは、佐藤佑介 博士にお願いしました。

液-液相分離は近年の一大トピックとなっている細胞内化学現象の一つであり、様々な生命現象およびその制御機構の足場になると考えられています。佐藤さんは東京工業大学情報理工学院 瀧ノ上研究室に所属し、この現象にDNA分子を用いてアプローチしました。その結果、人工的に設計したDNAナノ構造体がこの液-液相分離を誘起できること、塩基配列によってそれを制御できることを見いだしました。新たな生命化学ツールとしての活用が期待でき、生命機構を模倣する分子ロボティクス分野への道も拓く成果です。この研究成果はScience Advances誌 原著論文・プレスリリースに公開されています。

“Sequence-based engineering of dynamic functions of micrometer-sized DNA droplets”
Sato, Y.; Sakamoto, T.; Takinoue, M. Sci. Adv. 2020, 6, eaba3471. DOI: 10.1126/sciadv.aba3471

佐藤さんは学生時代にもスポットライトリサーチにご登場いただいていますが、この3月より東北大学 学際フロンティア研究所・助教に着任し、新たなアカデミックキャリアをスタートされています。環境が変わっても常に画期的な成果を上げ続ける新進気鋭の若手科学者のインタビューをご覧下さい!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

合成DNAで作られたナノ構造(DNAナノ構造)が水中で液-液相分離(LLPS)することで液滴(DNA液滴)を形成することを報告しました.この形成された液滴を,DNAの塩基配列の設計で制御したというのが本研究です.最近,生物分野で生体分子のLLPSが注目を集めています.LLPSという現象自体は以前から知られている現象ですが,細胞内でも生じていること,そして様々な細胞機能の制御を担っていることから,近年多くの研究がなされています.DNAなどの生体高分子は,モノマーの並び順(塩基配列やアミノ酸配列)が分子の振る舞いを特徴づけます.この研究では, DNAナノ構造間の相互作用を配列設計により調節することで,LLPSにより液滴を形成する温度や,融合・分裂・複雑形状の形成・タンパク質の補足といった液滴の動的な挙動を,制御できることを報告しました.

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

DNA液滴の融合や分裂を制御する実験で,複数のDNAナノ構造を設計したのですが,各DNAナノ構造の塩基配列において,直交性を保ちつつハイブリダイゼーションの熱力学的パラメータが同等になるように設計した点は工夫したところです.また,DNAの塩基配列という分子レベルの「情報」が,LLPSというマクロな現象を支配している点は,この研究の内容の中でも特に面白いと思っている点です.DNAは比較的安価に入手でき配列設計も容易なため,将来的に様々な応用が期待できる拡張性の高い成果だと考えています.

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

地味な点ですが,安定して現象を観察できる系を確立するのが難しかったところです.観察チャンバーのデザインや表面処理など,多くのトライアンドエラーを繰り返しました. また,DNA液滴を4種類の蛍光分子で標識して観察する実験を行ったのですが,時時刻々と様態が変化するなかで,いかに素早く撮像のためのパラメータを調節して綺麗な画像を撮るか,という点も難しかったです.

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

化学のラボの出身ではなかったこともあり,これまでは欲しい分子は(手に入る場合は)外注で入手することがほとんどでした.しかし,米国で化学出身の先生のもとへ留学したことで,欲しい特性を持った分子を自分で用意するという研究の魅力を知ることができました.自分で勉強したり合成を専門とする化学者の方に教えていただいたりしながら,欲しい分子は自分で作る,という研究アプローチも少しずつ取り入れていきたいと考えています.

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

私はこれまで,化学,生物学,物理学,工学など様々な分野に少しずつオーバーラップするような研究を行ってきました.学問の細分化による深化が進んできた今の時代には,私のように多くの分野に関わる研究を行っている若い研究者の方も多いと思います.固定観念に捉われず「フィロソフィア」の精神で,世界を開拓していきたいです.

研究者の略歴

名前:佐藤 佑介
所属:東北大学 学際科学フロンティア研究所 新領域創成研究部 助教
経歴:
2015年3 東北大学大学院工学研究科 修士課程 修了(佐藤岳彦 教授)
2016年4月-2018年3月 日本学術振興会特別研究員(DC2)
2018年3月 東北大学大学院工学研究科 博士課程 修了(野村慎一郎 准教授)
2018年3月 博士(工学)
2018年4月-2020年2月 日本学術振興会特別研究員(SPD)(東京工業大学 情報理工学院 瀧ノ上正浩 准教授)
2019年8月-2019年12月 Visiting Scholar, Department of Physics, Kent State University (Thorsten. L. Schmidt, Assistant Professor)
2020年3月より現職

研究テーマ:DNAナノテクノロジーを基盤とした細胞機能の模倣とロボティクスへの展開

ケムステ関連記事

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 中国へ講演旅行へいってきました②
  2. 作った分子もペコペコだけど作ったヤツもペコペコした話 –お椀型分…
  3. 化学反応のクックパッド!? MethodsNow
  4. 【書籍】「喜嶋先生の静かな世界」
  5. C–H活性化反応ーChemical Times特集より
  6. 水が決め手!構造が変わる超分子ケージ
  7. リケジョ注目!ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞-2013
  8. イミンアニオン型Smiles転位によるオルトヒドロキシフェニルケ…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 大正製薬ってどんな会社?
  2. クメン法 Cumene Process
  3. 保護基のお話
  4. 有機合成プロセスにおけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用
  5. アンドリュー・ハミルトン Andrew D. Hamilton
  6. アレルギー治療に有望物質 受容体を標的に、京都大
  7. トラウベ プリン合成 Traube Purin Synthesis
  8. 富山化学 新規メカニズムの抗インフルエンザ薬を承認申請
  9. ニュースタッフ参加
  10. 細野 秀雄 Hideo Hosono

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年9月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

「MI×データ科学」コース 〜LLM・自動実験・計算・画像とベイズ最適化ハンズオン〜

1 開講期間2026年5月26日(火)、29日(金) 計2日間2 コースのねらい、特色近…

材料の数理モデリング – マルチスケール材料シミュレーション –

材料の数理モデリング概要材料科学分野におけるシミュレーションを「マルチスケール」で理解するた…

第59回天然物化学談話会@宮崎(7/8~10)

ごあいさつ天然物化学談話会は、全国の天然物化学および有機合成化学を研究する大学生…

トッド・ハイスター Todd K. Hyster

トッド・カート・ハイスター(Todd Kurt Hyster、1985年10月10日–)はアメリカ出…

“最難関アリル化”を劇的に加速する固定化触媒の開発

第 703回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院 理工学府 博士課程前期で…

「ニューモダリティと有機合成化学」 第5回公開講演会

従来の低分子、抗体だけでなく、核酸、ペプチド、あるいはその複合体(例えばADC(抗体薬物複合体))、…

溶融する半導体配位高分子の開発に成功!~MOFの成形加工性の向上に期待~

第702回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理学部(田中研究室)にて助教をされていた秋吉亮平 …

ミン・ユー・ガイ Ming-Yu Ngai

魏明宇(Ming-Yu Ngai、1981年X月XX日–)は米国の有機化学者である。米国パデュー大学…

第55回複素環化学討論会

複素環化学討論会は、「複素環の合成、反応、構造および物性」をテーマとして、化学・薬学・農芸化学など幅…

逐次的脱芳香族化と光環化付加で挑む!Annotinolide B初の全合成

Annotinolide Bの初の全合成が報告された。キノリンの逐次的な脱芳香族化と分子内光環化付加…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP