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スポットライトリサーチ

キラル金属光レドックス触媒の最前線を駆け抜けろ!触媒デザインの改良と生物活性天然物の前人未到の不斉全合成を同時に達成

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第697回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(石原研究室)博士後期課程1年の赤尾颯斗 さにお願いしました。

今回ご紹介するのは、キラル鉄(III)光レドックス触媒に関する研究です。

赤尾さんの所属される石原研究室では、これまでにキラル鉄(III)光レドックス触媒による不斉ラジカルカチオン(4+2)環化付加反応を報告されています。(以前のスポットライトリサーチにもご寄稿いただいています!)今回、新たな配位子デザインにより、高価なキラル配位子の使用量をこれまでの3分の1にし、かつ高い活性を示す触媒を開発されました。さらに、開発された触媒を用いて(+)-heitziamide Aの不斉全合成を初めて報告されました。本成果は、J. Am. Chem. Soc. 誌 原著論文およびプレスリリースに公開され、Supplementary Coverにも選出されています。

A Rational Design of Chiral Iron(III) Complexes for Photocatalytic Asymmetric Radical Cation (4 + 2) Cycloadditions and the Total Synthesis of (+)-Heitziamide A
Akao, H.; Ohmura, S.; Ishihara, K. J. Am. Chem. Soc. 2026, 148, 4867–4872. DOI: 10.1021/jacs.5c20243

研究を指導された大村修平 助教石原一彰 教授から、赤尾さんについて以下のコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

大村先生

赤尾君は自慢の学生です。教員も驚くほどの合成センスを持ち、ポスドク並みの実験量をこなせます。今回の研究成果はそんな赤尾君の研究力が詰まった内容になっています。特に、論文の査読段階では赤尾君の研究力に助けられました。査読者から合計24個の指摘・提案があり、査読期間は3週間。1日1個対応しても終わりません。しかし、赤尾君にとってはちょうど良いハードルだったようです。査読締切の前日には修正原稿を提出し、結果は一発アクセプト。短期間での大幅な改善が査読者や編集者の心を掴んだに違いません。今後がとても楽しみな学生です。

石原先生

鉄(III)触媒を用いるラジカルカチオン(4+2)および(2+2)環化付加反応の研究は、堀部貴大特任助教の発案によりスタートしました。当時学生であった大村修平君が、鉄(III)を一電子酸化剤として用いたラジカルカチオンの結晶化に成功し、鉄(III)がラジカルカチオン環化付加反応の触媒として有効であることを明らかにしました(J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 1877)。その後、大村君が助教として本研究を引き継ぎ、学生であった片桐佳君および加藤春奈さんが、鉄(III)触媒の不斉化に成功しました(J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 15054)。そして今回、赤尾颯斗君がキラル鉄(III)触媒のさらなる改良に成功し、天然物合成への応用を実現しました。私は赤尾君が10年に一人の逸材であると確信しており、今後のさらなる飛躍を大いに期待しています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

(4+2)環化付加反応は、多くの医農薬品に含まれるシクロヘキセン骨格を構築するための最も効率的な反応の1つです。代表的な(4+2)環化付加反応としてDiels–Alder反応が挙げられますが、アルケンの1電子酸化を伴うラジカルカチオン(4+2)環化付加反応が近年注目されています。本反応はDiels–Alder反応と逆の位置選択性を実現できる点で非常に有用であり、本反応に有効なさまざまな触媒や開始剤がこれまでに開発されてきました。一方で、キラル対アニオン戦略に基づいた不斉ラジカルカチオン(4+2)環化付加反応の報告例はほとんどありません。

私が所属する研究室では、キラル鉄(III)光触媒(旧デザイン)と青色LEDを用いる不斉ラジカルカチオン(4+2)環化付加反応を報告しています1,2。しかしながら、先⾏研究で発⾒したキラル鉄(III)光触媒(旧デザイン)には用いている不斉配位子のうち3分の2が不斉誘起段階に関与しない点に改善の余地が残されていました。本研究では旧デザインの触媒を改良し、不斉誘起段階に関与しない不斉配位子をビス(スルホンアミド)配位子へと置き換えることで、高い触媒活性を有しながらより安価で実用性の高い触媒(新デザイン)の開発に成功しました。本触媒は不斉配位子とビス(スルホンアミド)配位子とを独立して最適化できるため、ラジカルカチオン中間体を経由する様々な不斉反応の触媒としての利用が期待されます。さらに、本手法を天然物合成へと展開し、呼吸バースト阻害剤としての薬効が期待される(+)-heitziamide Aの不斉全合成も達成しました。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

本研究では、触媒および反応の実用性をいかに示すかという点を工夫しました。新デザインの触媒はあくまで旧デザインのマイナーチェンジに留まるため、配位子の最適化だけでは新規性が不十分であると感じていました。また、Nicewicz3やList4らによって報告されているキラル有機光レドックス触媒との差別化が必要でした。一方で、キラル対アニオン戦略に基づくラジカルカチオン反応は一般に基質適用範囲が狭く、実用性に乏しい点が課題でした。

そこで、本研究では触媒と反応の実用性を示すことに重点を置きました。例えば一般的に光レドックス触媒は酸素によってクエンチされたり分解されたりするため、脱気条件での反応が求められます。一方で、本触媒は空気雰囲気下での反応を許容する堅牢性を有しています。その点で既存のキラル有機光レドックス触媒と差別化できました。また、本触媒で合成されるシクロヘキセニルカルコンは天然物に多く見られる骨格であったため、天然物の構造を指標として基質適用範囲を検討しました。その結果、イソプレンのみならず多様な置換パターンを持つジエンが利用できることを見出し、不斉Diels–Alder反応では構築困難なシクロヘキセン骨格の合成を可能にしました。最終的に、(+)-heitziamide Aの不斉全合成へと応用することで、本手法の合成化学的有用性を実証しました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

本研究テーマの中で難しかったのは天然物合成です。もともと全合成がきっかけで有機化学を好きになったので、研究室に配属された当時から天然物合成をやってみたいという気持ちがありました。しかしながら、いざ(+)-heitziamide Aの合成を始めてみると思うように上手くいかず、試行錯誤の繰り返しとなりました。

最も大きな難点は「ジエンのC2位にメチル基より大きな置換基を導入すると、環化付加反応の位置選択性が逆転してしまう」ことでした。このことからheitziamide Aを合成するためには、イソプレンとの環化付加反応の後にC2位のメチル基をプレニル基へと変換する必要がありました。初めは無理難題に思いましたが、Johnson–Claisen転位が有効であると気づき、なんとか逆合成を立案しました。エポキシドの開環とJohnson–Claisen転位は反応条件の最適化にはかなり苦労しましたが、副生成物の詳細な解析と反応機構の考察を徹底することで、最終的に良好な収率で目的物を得ることに成功しました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

本研究を通して、研究のアイデアを創出し自らの手で実現していく力を身につけられたと思います。この経験を糧に、博士後期課程の残り2年間では新たな触媒や反応を開発していきたいです。また、卒業後の進路はまだ確定していませんが、石原研究室で学んだことを活かして何らかの形で社会貢献できれば良いと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

自分が研究を進める上で大切にしているのは「固く考えすぎない」ことです。思考が凝り固まってしまうと視野が狭まってしまい良いアイデアが出なくなるので、ちょっとした遊び心とワクワク感を持って日々の実験に取り組むようにしています。

また、博士後期課程に進学してからは、居室の雰囲気を大切にするようにしています。上の先輩の機嫌が良いと、居室の雰囲気自体が良くなり、他のメンバーのパフォーマンスも上がります。だからこそ、何があっても居室ではなるべく機嫌よくニコニコしながら過ごすようにしています。本記事を読んで下さった皆さん、特に博士後期課程の皆さんは、自分の機嫌が他のメンバーを萎縮させてしまわないように気をつけましょう。

最後に本研究を進めるにあたって多数のご指導ご鞭撻を頂いた石原一彰教授、大村修平助教に厚く御礼申し上げます。またB4の頃に研究の指導を賜った片桐佳博士、ならびに研究室のメンバーの皆様にもこの場を借りて厚く御礼申し上げます。また、このような研究紹介の機会を与えてくださいましたChem-Stationの皆様にも感謝申し上げます

研究者の略歴


名前:赤尾 颯斗あかお はやと
所属:名古屋大学 大学院工学研究科 有機・高分子化学専攻
略歴:
2001年 愛知県安城市出身
2019年 愛知県立岡崎高等学校卒業
2023年 名古屋大学 工学部 化学・生命工学科 卒業
2025年 名古屋大学 工学研究科 有機・高分子化学専攻 博士前期課程修了

関連リンク

  1. Ohmura, S.; Katagiri, K.; Kato, H.; Horibe, T.; Miyakawa, S.; Hasegawa, J.; Ishihara, K. Highly enantioselective radical cation [2 + 2] and [4 + 2] cycloadditions by chiral iron(III) photoredox catalysis. J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 15054–15060. DOI: 10.1021/jacs.3c04010
  2. 難攻不落の不斉ラジカルカチオン反応への挑戦
  3. Norse, P. D.; Nguyen, T. M.; Cruz, C. L. Nicewicz, D. A. Enantioselective counter-anions in photoredox catalysis: The asymmetric cation radical Diels-Alder realtion. Tetrahedron 201874, 3266–3272. DOI: 10.1016/j.tet.2018.03.052
  4. Das, S.; Zhu, C.; Demirbas, D.; Bill. E.; De, C. K.; List, B. Asymmetric counter anion-directed photoredoxcatalysis. Science 2023379, 494–499. DOI: 10.1126/science.ade8190

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大学院生です。ケモインフォマティクス→触媒

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