[スポンサーリンク]

一般的な話題

今年は国際周期表年!

[スポンサーリンク]

皆様あけましておめでとうございます。

年が明けると、さあ今年は何のアニバーサリーイヤーかなと気になることと思います(私だけでしょうか)。化学クラスタの方々はもうご存じですよね?そう今年はメンデレーエフが周期表の報告をしてから150年にあたります!

という訳で、UNESCOも今年を国際周期表年 2019(International Year of the Periodic Table of Chemical Elements 2019)として宣言するなど、国際的にも盛り上がりを見せています(あんまり見えないけど)。日本化学会のHPを開くと大々的に出てきますので既にご存じの方も多かったでしょうか。国内外でこれからイベントも多々あるかと思いますので、要チェックですね。情報については国際周期表年2019のHPにて確認することができます。とりあえず2月23日には記念シンポジウムがあるようですね。これは是非行ってみたいので筆者は参加登録してみました。公式サイトではちょっと分かりづらいのですが、登録サイトはこちらとなっています。またその他の関連する行事として、

1月29日(火):開会式(パリ)
2月8日(金):開会式(ロシア):メンデレーエフの誕生日
3月17日(日):日本物理学会年会(九州大学)・日本化学会春季年会(甲南大)連携シンポジウム
12月5日(木):閉会式(東京)

が予定されています。機会があれば是非足を運んでみたいところですね(ロシアは厳しいか・・)。

Mendeleev (Wikipediaより)

さて、それでは簡単にメンデレーエフの周期表について軽くおさらいしておきましょう。

メンデレーエフより前から、元素を並べるとなんとなく性質が似ているものがあることに気付いていた人はいました。例えば1865年に英国のJohn Newlandsは元素を原子量順に並べると、8番目ごとに似た性質の元素が現れるという「オクターブの法則」を提唱しています。しかしながら、この報告は当時あまり評価されなかったようです。また、ドイツのJulius Meyerも1864年に同様の考えを基に周期表を作成しています。それでは現代では何故NewlandsやMeyerらのことは紹介されず、メンデレーエフばかりがもてはやされるのでしょうか?

メンデレーエフは彼の考えた周期表について1869年3月6日にロシア化学会にて正式に発表し、その後ドイツの学術誌Zeitschrift für Chemieに論文を報告しています。

Ueber die Beziehungen der Eigenschaften zu den Atomgewichten der Elemente
Mendeleev, D. Zeitschrift für Chemie. 12, 405-406 (1869).

論文のタイトルは「元素の原子量に対する性質の関係について」とでも訳しましょうか。

画像は論文より

この報告の中には非常に重要な示唆がいくつか含まれております。特に重要なのが、メンデレーエフの考えに従うと、未だ発見されていない元素があるはずであるという予測(スカンジウム、ガリウム、ゲルマニウム、ハフニウム)です。これらは周期表中に「?」と表記されており(上図参照)、特にケイ素アルミニウムに似た性質の元素として、65から75の原子量を持つ元素があるはずと予測しています。周期表の図中ではそれらはそれぞれ6870の原子量が当てはめられていますが、実際はガリウムが69.7、ゲルマニウムが72.6ですので当たらずしも遠からずです。スカンジウムの方は文中に記載はありませんが、原子量の予測として45が与えられており、実際のスカンジウムが45なのでピタリと一致しています。ちなみに、ケイ素、アルミニウムに似た元素をエカケイ素エカアルミニウムと称したという話しが有名ですが、このオリジナル論文中にはその記載を見つけられませんでした(筆者のドイツ語読解力のせいでしたらすいません)。その後の報告にあるものと思われます。実際メンデレーエフは周期表について修正を加えた物をいくつか報告しています。

また、もう一つの重要な指摘として、当時報告されていた元素の原子量に疑わしいものがあるというものがあります。特にテルルについては128ではなく、123から126の間であることを示しています。実際には127.6ですのでこのメンデレーエフの指摘は微妙です。実はテルルとヨウ素の原子量の大きさは原子番号順に並んでいないんですね。これは安定同位体の関係で起こる現象となっており、アルゴンとカリウム、コバルトとニッケルでも同様のことが起こっています。さすがにメンデレーエフもそこまでは思いつかなかったでしょう。ただ、当時知られていた元素の原子量がまだまだ正確ではないというのは正しい指摘かと思います。

その後、予想通り次々と新しい元素が発見されていき、原子量も正確になっていく過程で、メンデレーエフの主張する周期表が正しいという理解が進んでいったのでした。という訳で、現在でも教科書に登場するのはメンデレーエフだけとなっています。

さて、この記事をお読みいただいた方は多少なりとも元素にご興味をお持ちのことと思います。そんなあなたが国際周期表年をお祝いするのにピッタリなイベントがあるんです。それが、「私たちの元素‐エッセイコンテスト」です!詳細はこちらのHPをお読みいただきたいのですが、元素についての熱い思いをぶつけるチャンスですので、中学生、高校生、大学生の皆さんは是非応募してみて下さい。締め切りは2019年3月末(第1回目)、2019年9月10日(第2回目)となっており、応募は1月上旬スタートとのことです。

中高大のヤングでない方は、「私たちの元素‐産学からのメッセージ」という企画もありますので、こちらのHPをご覧下さい。

いずれにしても、周期表は化学の基本中の基本ですので、メンデレーエフを始めとする、元素の性質について考察してきた化学者たちに敬意を表して国際周期表年2019をお祝いするとともに、一層化学を盛り上げていきたいと年初に思うのでした。

関連サイトへのリンク

  1. 国際周期表年HP
  2. 私たちの元素‐エッセイコンテスト
  3. 私たちの元素‐産学からのメッセージ

関連記事

  1. 今年はキログラムに注目だ!
  2. もっと化学に光を! 今さらですが今年は光のアニバーサリーイヤー
  3. それは夢から始まったーベンゼンの構造提唱から150年

関連書籍

[amazonjs asin=”B00AYAP48O” locale=”JP” title=”元素周期表 肖像あり A2判”] [amazonjs asin=”B01M5AIC3E” locale=”JP” title=”科学史人物事典 150のエピソードが語る天才たち (中公新書)”]
Avatar photo

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. 鉄触媒反応へのお誘い ~クロスカップリング反応を中心に~
  2. 有機ルイス酸触媒で不斉向山–マイケル反応
  3. 消光団分子の「ねじれ」の制御による新たな蛍光プローブの分子設計法…
  4. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり④:「ブギーボ…
  5. 海外留学ってどうなんだろう? ~きっかけ編~
  6. 今年の名古屋メダルセミナーはアツイぞ!
  7. インタラクティブ物質科学・カデットプログラム第一回国際シンポジウ…
  8. クロスカップリングはどうやって進行しているのか?

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第15回 有機合成化学者からNature誌編集者へ − Andrew Mitchinson博士
  2. 第55回「タンパク質を有機化学で操る」中村 浩之 教授
  3. グラフェン技術の最先端 ~量産技術と使いやすさの向上、今後の利用展開~
  4. チエナマイシン /thienamycin
  5. ケムステV年末ライブ2022開催報告! 〜今年の分子 and 人気記事 Top 10〜
  6. 【十全化学】新卒採用情報
  7. AIを搭載した化学物質毒性評価サービス「Chemical Analyzer」の販売を開始
  8. 吉見 泰治 Yasuharu YOSHIMI
  9. 芝哲夫氏死去(大阪大名誉教授・有機化学)
  10. 第38回ケムステVシンポ「多様なキャリアに目を向ける:化学分野のAltac」を開催します!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年1月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP