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スポットライトリサーチ

難攻不落の不斉ラジカルカチオン反応への挑戦

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第551回のスポットライトリサーチは、名古屋大学 大学院工学研究科 有機・高分子化学専攻 石原研究室の大村 修平(おおむら しゅうへい)助教にお願いしました。大村助教は2019年にも出演頂いており、2回目の登場となります。

石原研究室では、どのような反応基質に対しても例外なく高い収率 、高い選択性を与えるような完全反応の実現を目指しています。特にグリーンサステイナブルケミストリーを重視し、 比較的安全安価で入手容易な元素(H, Li, B, N, O, Na, Mg, Si, Cl, K, Ca, Fe, Cu, Zn, Br, Iなど)を活性中心とした酸塩基複合触媒やレドックス触媒を設計し、立体、位置、官能基選択的反応の開発や、不斉合成、天然物合成、高分子合成への応用に重点をおいて研究開発を行っています。

本プレスリリースの研究内容は、中性分子の一電子酸化によって生成するラジカルカチオンについてです。このラジカルカチオンは、通常のカチオンとは異なるユニークな反応性を示す化学種として有機反応の中間体に利用されているものの、不斉触媒反応への応用はほとんど行われてきませんでした。そこで本研究グループでは、不斉ラジカルカチオン[2 + 2]環化付加反応の開発により、エナンチオ選択性とジアステレオ選択性の同時制御を達成し、さらに不斉ラジカルカチオン[4 + 2]環化付加反応の開発により古典的な[4 + 2]環化付加反応(Diels-Alder反応)では得ることの難しい[4 + 2]環化付加体の位置異性体の不斉合成を達成しました。

この研究成果は、「Journal of the American Chemical Cosiety」誌に掲載され、またプレスリリースにも成果の概要が公開されています。

Highly Enantioselective Radical Cation [2 + 2] and [4 + 2] Cycloadditions by Chiral Iron(III) Photoredox Catalysis

Shuhei Ohmura, Kei Katagiri, Haruna Kato, Takahiro Horibe, Sho Miyakawa, Jun-ya Hasegawa, and Kazuaki Ishihara*

J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 28, 15054–15060

DOI:doi.org/10.1021/jacs.3c04010

研究室を主宰されている石原一彰教授より大村助教と本研究成果について以下のようにコメントを頂戴いたしました!

当研究室では元素戦略の観点から貴金属やレアメタルの代わりにハロゲンをレドックス触媒の中心元素に用いる研究を精力的に展開しています。ハロゲン以外にも利用価値の高い元素はないかとの着想し、堀部貴大博士が特任助教として、触媒量の鉄(Ⅲ)錯体を一電子酸化剤に用いるラジカルカチオン環化付加反応の研究を新たに立ち上げました。その時の学生が大村修平君です。その後、堀部君が企業に転職し、大村君が助教としてこの研究課題を引き継ぎました。とは言え、元々、大村君にしてみれば、学生時代からこの研究の中心メンバーだったので、引き継ぐというよりは最初から自分の研究という思いだったと思います。我々が論文投稿する直前にB. Listらのキラル有機光レドックス触媒を用いる不斉[2 + 2]環化付加反応が報告され(B. List et. al. Science 2023, 379, 494)、衝撃を受けましたが、極低温下(–100度)で長い反応時間(1–5日)を要する点に検討の余地が残されていました。今回の我々の触媒系では–40度かつ24時間以内に完結する点が強みです。今後、更なる研究展開も期待でき、多くの若い研究者がこの分野に参入して頂くことを期待しています!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

不斉触媒反応の開発は、医薬品の安定供給の実現に資する重要な研究課題です。これまでに、数え切れないほどの不斉触媒反応が開発されてきましたが、未達成の不斉触媒反応の開発や、枯渇性資源を用いない手法への転換など、解決すべき課題はまだまだあります。今回、反応系中で調製可能なキラル鉄(Ⅲ)光レドックス触媒を用いて、「高エナンチオ選択的ラジカルカチオン[2+2]環化付加反応(A)」と前例のない「高エナンチオ選択的ラジカルカチオン[4+2]環化付加反応(B)」を同時に実現しました。本反応では、基質とキラル鉄(Ⅲ)光レドックス触媒から生成するラジカルカチオン中間体(C)が、キラルアニオンとイオン対を形成した状態でアルケンまたはジエンと反応し生成物がエナンチオ選択的に得られます。今回、ラジカルカチオンとキラルアニオンをそれぞれデザインし、最適なイオン対の構造を導き出すことで高エナンチオ選択性の発現に成功しました。キラル鉄(Ⅲ)光レドックス触媒(D)という珍しいタイプの触媒開発にも繋がりましたので、今後は本触媒の機能を掘り下げていきたいと考えています。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

論文のイントロの執筆を工夫しました。開発した反応の難易度が高いことは認識していたのですが、その難易度を我々なりに伝えるために念入りに文献調査を行いました。近年の光レドックス触媒の急速な発展に伴い、ラジカルカチオン反応の報告数が増えており、その鍵中間体であるラジカルカチオン種に注目が集まっていますが、実は半世紀以上も前から有機反応に利用されていたことが分かりました。しかし、ラジカルカチオン反応の不斉制御法に関する研究は長年手付かずであり、2010年代後半になって漸くキラル対アニオンによる不斉制御法が注目され始めます。その歴史を他のカチオン性中間体のケースと比較して、如何に不斉ラジカルカチオン反応の開発が発展途上であるかを伝えることにしました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

コンセプトがシンプルだったところです。ラジカルカチオン反応の不斉触媒化を考えたとき、ラジカルカチオン中間体の対アニオンにキラル源を導入するというコンセプトはシンプルかつ合理的です。それ故に競合も多かったと思います。実際に、我々がJACSの原稿を提出する数ヶ月前に、Listらのグループから高エナンチオ選択的ラジカルカチオン[2+2]環化付加反応の論文が報告されました(Science 2023, 379, 494)。すぐに原稿を練り直し、我々の研究の良さ(反応条件、前例のない反応の開発例等)をアピールすることで対応しました。また、我々の反応では「キラル鉄(Ⅲ)光レドックス触媒」がキーワードになっていたので反応機構解析にも力を入れました。なかでも、キラル鉄(Ⅲ)錯体の生成の是非やその構造については、北海道大学の長谷川先生の研究グループの協力を得て、計算科学による裏付けに成功しました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

これからも人生を楽しむ場として化学と関わっていきたいです。研究をすれば、思い通りの実験結果が得られないことがほとんどだと思います。今まで誰にも出来なかったことに挑戦しているのだから、ある意味当たり前なのかもしれません。一方で、実験結果がいつも実験者の思い通りになっていたら、化学はここまで発展していたでしょうか。化学はここまで多くの人を魅了していたでしょうか。私にとっては、思い通りにならないのが化学です。これからも化学に振り回されながら人生を楽しみたいと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

コーヒーを片手に本記事を読んで頂いた後は、たくさん実験をして、たくさん化学に振り回されて欲しいと思います(笑)。

■謝辞

石原教授には、日々の研究指導に加えて、論文原稿の推敲に何度も付き合っていただきました。ウヤヌク准教授には、常に客観的な視点で本研究に対する貴重なアドバイスをしていただきました。堀部元特任助教には、共に研究を進めていただいたことに加えて、学生時代には研究のイロハを教えていただきました。片桐君と加藤さんには、実験パートで大活躍していただきました。長谷川先生と宮川さんには、計算パートで全面的にサポートしていただきました。ケムステスタッフの皆様のおかげで、こうして我々の研究を広く知ってもらえることとなりました。本記事に関わる全ての方々に厚く御礼申し上げます。

研究者の略歴

大村 修平(おおむら しゅうへい)

名古屋大学 大学院工学研究科 助教

研究室HP内プロフィール (Link)

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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